家庭医療のコア #10患者中心の医療

※本記事は2020年12月22日に配信されたメルマガの転記となります。

☆今月のポートフォリオ☆
今月のテーマは「患者中心の医療」です。

新家庭医療専門医ポートフォリオにおけるルーブリックにおいて
【学習目標】
患者との関係性を構築・強化しつつ、疾患と病の両 方の経験を探り、地域や家族などを含めて 全人的視点から評価し、最善の方針につなげていく診療ができる。
【評価:優の基準】
「患者中心の医療の方法や BPS モデル等を用いて、 生物医学的だけでなく,心理社会的にも 複雑かつ 困難な事例において, 包括的な情報収集,統合 的な評価,方針決定を行ってい る。」 と記載されています。患者中心の医療Patient-Centered Clinical Method (以下PCCM )は日常 診療の中でも意識することが多く、個人的に好きなフレームワークの一つです。今回はMoira Stewart 先生らの[Patient−Centered Medicine Transforming the Clinical Method]第3版1)を参考 に紹介しようと思います。

PCCMの歴史を簡単におさらいします。
1968年 Dr. Ian R McWhinney がカナダのWestern Ontario大学家庭医療学講座の主任に就任。 “患者が受診する本当の理由”の解明を目指す。
1970年代 同教室のPh D. Moira Stewartが医師-患者関係についての複数報告
1980年代 研究・教育や教育に使用可能なものとしてPCCMが考案される
1995年 StewartらにPatient-Centered Medicine Transforming the Clinical Method 初版が刊行さ れる。
その後PCCMの実践によって患者アウトカムや医療資源の適正利用につながることが報告され ています。現在原著としては第3版が発売されていますが、日本語訳は残念ながら版が古いも のしかないようです。

この本のなかでPCCMは以下の4つの相互的なcompornent(構成要素)
①Disease疾患・Illness病い・Health健康の体験を探ること
②全人的に理解すること
③共通の理解基盤を形成すること
④医師患者関係を強化すること
から成るとされています

ここでの注意点として必ずしも①から順番に進む必要はありません。
・「あれ、この患者さん今の自分の説明に全然納得していない気がする」
・「うわなんでこの患者は急に怒り出したんだろう」
・「でた!またこの人か〜。」 と日々の診療で思う場面がありませんか?これはまさに③共通の理解基盤の形成ができていな い場面であり、この「医師・患者関係のズレ」に気がついたときがPCCMの実践のチャンスで す。

①Disease/Illness/Healthを探る 我々がふだん診断基準などをもとに診断をする行為はDisease(疾患)を明らかにするもので すが、患者さんの立場で考えるとそれは一部分でしかなく、症状や状態が患者にどんな影響を 及ぼすか=Ilness(病い)と、患者の考える健康(Health)への影響を探っていく必要がありま す。我々医師はDisease(疾患)については患者より詳しいですが、患者におけるIllness(病い) /Health(健康)については無知の状態から始まるので、それぞれから話を聞く必要があります。 Illness評価のポイントとしては”FIFE”の確認です。
Feeling感情 どんな感情を抱いているのか
Idea解釈 原因はどう考えているのか
Function機能 日常生活にどんな影響を及ぼしているのか
Expectation期待 医療者に何を望んているのか

②全人的に理解すること
キーワードは”背景コンテクスト”の評価です。患者さんには個々にそれまでの人生の歴史や成 長・発達の背景、考え方などがあります。また本人を取り巻く家族や友人、職場の人間関係 (近位コンテクスト)からの影響を大きくうけており、さらにその背景として住んでいる地域 や国、医療システムや経済などの影響を受けています。これらについて評価を行うことで、病 名だけなく患者さんを全人的に理解するように努めます。

③共通の理解基盤を形成すること PCCMの実践へのきっかけとなるとともに1、2を経てまずはここを目指すことになります。 具体的には1.何が問題なのか 2.何を目標とするのか 3.それぞれが具体的にどんな役割を果たす のかをについて”共有”するプロセスです。大事なポイントとしては患者さんと一緒に”共有”する ということです。お互いが納得できる内容で具体的なところまで落とし込んでいく必要があり ます。

④医師患者関係を強化すること ①から③のプロセスを通して医師患者関係を築いていきます。”自己への気付き”や”転移・逆転 移の関係性”などが話題となりますが、藤沼康樹先生の「新・総合診療医学 家庭医療学編 第 2版」では癒しの関係について言及されています。「医師は経験的に自分自身がなにか「癒し」 とししかいいようのない効果を患者に及ぼしているという感覚をもつことがある。(中略)ま た、患者から医師である自分が癒されていると感じることもある。」2)最近なんとなくこの癒 し/癒されの感覚がわかってきたような気がすることがたまにありますが、みなさんいかがで しょうか。

みんな大好きIan.R.McWhinney先生は『医師は「疾患の状態を定義するための一揃いの所見と 症状として病気を診る」訓練を受けている。患者は「病気が自分の人生に与える影響」という 観点から病気をみる』と述べています。3)そもそも医師と患者で病気に対する捉え方が違うと いうことへの気付きから患者中心の医療は始まるものだと思います。

私が普段参考にしている東京医療センター・尾藤誠司先生の動画も参考にしてみてください。 東京医療センター147点のポートフォリオ200521 ”患者中心のケア” https://youtu.be/ukBKbebgliw

参考文献
1)Moira Stewart et al. (2014) Patient−Centered Medicine Transforming the Clinical Method third edition. NewYork:CRC Press
2)藤沼康樹(編集). (2015)「新・総合診療医学 家庭医療学編 第2版」カイ書林
3)IanR.McWhinney, Thomas Freeman (2013)マクウィーニー家庭医療学 葛西龍樹, 草葉鉄周(訳) パーソン書房

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文責:岡本雄太郎(専攻医部会 総務部門)
2022/05/11転記

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