家庭医療のコア #8地域志向ケア

※本記事は2020年10月27日に配信されたメルマガの転記となります。

☆今月のポートフォリオ☆
今月のテーマは「地域志向のプライマリ・ケア」です。
家庭医療ver2では「地域健康増進」、総合診療専門医では「地域ニーズの把握とアプローチ/ 地域包括ケアを含む地域志向アプローチ」としてエントリーに設定されています。

新家庭医療専門医のルーブリック(https://www.primary-care.or.jp/nintei_sk/case.html)を読む と、学習目標として「対象となるコミュニティの集団を定義し、その集団が持つ特性と保健上 の問題を明らかにした上で、その問題を改善するための活動やその評価が実施できる。」 と記 載されています。また、優を満たす条件として「対象となるコミュニティの集団に関してデー タに基づいた分析をし、明らかになった健康上の問題に関わる目標設定をしている。目標に 沿って事前に計画された予防医療・健康増進の活動が実施され、評価もなされている。」と記載されています。

これだけ読むと、一か所に数年しか滞在しない多くの専攻医にとって「本当にできるの?」っ て気持ちになる方も多いのではないかなと思います。実際に多くの専攻医が困難を感じるポー トフォリオのテーマのひとつであり、「1つの地域にいられる期間が限られるのに本当にでき るの?」「わかりやすい他のポートフォリオから進めていくと、最終的に時間がなくなる...」 などの声もあるようです(文献1)。

ところで、JPCA基本研修ハンドブック第2版(文献2)を読むと、地域志向性プライマリケア (COPC ; Community-Oriented Primary Care)の実践についてわかりやすく書かれています。 COPCとは「疫学、プライマリ・ケア、予防医学、健康増進からのプリンシプルを基盤とす る、系統だったヘルスケアアプローチ」と定義され、
1地域の同定:目的の地域を決め、それに関係するデータを集める
2健康問題の特定:データを読み取り、個別/グループインタビューを行い、場合によっては調 査を実施する
3介入の実行:既存の資源を活用しつつ、コミュニティーメンバーとともに実践する。短期 的・長期的な目標があると望ましい
4介入の効果の評価:量的にも、質的にも、介入の効果を評価していく。
の4つから成るとされています。 これをルーブリックの学習目標と見比べてみると、我々専攻医に求められているのは即ち「 COPCについて学び、実践せよ」という解釈ができると思います。

COPCを実践しながらポートフォリオを作成する上で悩ましい事項の一つに、「介入の効果の 評価」をどのように実施するかという課題があります。理想的には健康寿命の延伸や疾患の発 症率など、地域全体の健康の増進に関連した長期的な評価項目を掲げるべきですが、数年単位 で作成しなければならないポートフォリオでは現実的ではありません。また、地域における複 雑かつ未知の交絡因子をうけるため、評価が難しい項目でもあります。これに変わる評価項目 として、短期的な目標(連携の尺度の向上、メンバーの地域への意欲の向上、地域カンファレ ンスや地域活動の回数・参加者数など)や、中期的な目標(診療の幅広さや連携症例数の増 加、地域活動の数・広がりなど)があります。

とはいえ、実際にテーマを探すのは難しいですよね。 私は指導医から、テーマの探し方のTipsとして
1日々の診療の中で、地域に特徴的な問題だと思うものを拾う
2衝撃的だった事例を深めて地域に食い込む
3ネットやSNSでネタを探す というアドバイスをいただきました。自分の興味のある分野でテーマが見つけられるとよりモ チベーションにもつながります。

「地域志向のプライマリ・ケア」なかなかとっつきにくいテーマではありますが、小さな取り 組みでもよいので、自分でできることを探してみるとよいかもしれません。

また、ポートフォリオには「地域志向のプライマリ・ケア」の他に、「臨床における教育と指 導(研究と教育)「システムに基づく診療(施設運営マネジメント)」など、計画的に実施し ていかないと完成できない項目がいくつか存在します。後々になって焦ることがないように、 是非計画的に取り組むようにしたいですね。

文献1)Gノート 2018年4月号 Vol.5 No.3 何から始める!?地域ヘルスプロモーション
文献2)日本プライマリ・ケア連合学会 基本研修ハンドブック 第2版

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文責:岡本雄太郎(専攻医部会 総務部門)
2022/05/11転記

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