家庭医療のコア #6行動変容

※本記事は2020年6月23日に配信されたメルマガの転記となります。

☆今月のポートフォリオ☆
今月のテーマは「行動変容」です。

家庭医療専門医(Ver.2)では「行動変容」、総合診療専門医(2018、2019タイプA)では 「生活習慣病のケア(行動変容アプローチを含む)」、新家庭医療専門医では「予防医療と 健康増進(個人)(行動変容含む)」や「慢性疾患のケア(行動変容含む)」としてエント リーに設定されています。
総合診療専門医(2019タイプB、2020)では、「包括的統合アプローチ」(一般目標2)あ るいは「多様な診療の場に対応する能力」(一般目標1)に包含されると思います。

ルーブリック(家庭医療専門医Ver.2)では「患者の【行動変容が困難な事例】において、 生活背景、実際の行動、解釈モデル、【信念、変化ステージ】といった情報を収集し、【十 分な分析に基づいて】行動変容に導いている」と記載されています(【●●】が優とボー ダーラインの差異)。

一方、ルーブリック(新家庭医療専門医)では「ある患者において、健康増進、予防医学の 両面からアセスメントし、【長期的な視点で診療やケアの計画を立てると共に、一定期間の 後に再評価も行っている】」(予防医療と健康増進)や、「慢性疾患患者に対し、【 chronic care modelの観点からコミュニティや保健システムも考慮し】、【患者の自己管理 能力や意思決定を支援しつつ】ケアしている」と記載されています(【●●】が優とボー ダーラインの差異)。

行動変容とは「生まれてから培われてきた行動のパターンを、健康的で望ましいものに変え ていくこと」です。まずは、日常診療の中で、患者さんの健康にとって望ましくない行動を 見出すことから始まります。よくあるテーマとしては、喫煙、飲酒、肥満、服薬アドヒアラ ンス、血糖管理、受療行動などが挙げられるでしょう。

この分野で用いられる枠組みとしては、以下のものが有名です。
・Transtheoreticalモデル(変容ステージ、変容プロセス、意思決定バランス、自己効力感 の4つで構成される。変容をプロセスとして捉え、変容ステージに応じた介入を行う)
・重要度自信度モデル(望ましい行動に対する重要度と自信度から、患者の解釈モデルや変 容への障害を探る)
・LEARNアプローチ(異なった文化背景を持つ医師と患者の間で行われる患者教育に適し たモデル)
・5A5R(禁煙支援に特化した行動変容の手法)
また、行動変容に必要な動機を強化する手法として「動機づけ面接法」があり、多様な領域 で実践されています。日常診療にも取り入れられるOARSなどの枠組みもあります。

なぜ行動変容が起きないのか?を理解するには「医療行動経済学」の知見が大変参考になり ます。人間の意思決定の特性を理解した上でどのような働きかけ(ナッジ nudge:軽く肘 でつつくの意)が有効か、多くの研究がなされています。例えば、「今年は多くの人が早く からインフルエンザの予防接種をしています」や「予約の無断キャンセルは●●円が無駄に なります」というメッセージは、単に「予防接種を打ちましょう」や「無断キャンセルはやめましょう」といったものよりも人々の行動を方向づけやすくなると言われています。

簡単に変化の起きない【行動変容が困難な事例】に出会ったら、上記の枠組みを用いて、患 者さんの【信念、変化ステージ】を含む情報を集めて患者さんを理解し、【十分な分析に基 づいて】介入方法を選択してください。また、【患者の自己管理能力や意思決定を支援す る】介入は一度で終わらず、【長期的な視点で計画され、再評価】されることが重要です。 さらに、慢性疾患のケアにおいては、個人要因だけでなく、【コミュニティの資源の活用 や、保健システムとしてのケア】を視野に入れた働きかけを考えていきます。このようなケ アのプロセスを記述することで、優れたポートフォリオをかけること間違いなしです。

参考図書(文中で紹介した概念やアプローチが記載されています)
・人々を健康にするための戦略 ヘルスコミュニケーション 蝦名玲子 ライフ出版社
・予防医療のすべて 垂井清一郎 監 中山書店
・週刊医学会新聞 研修医イマイチ先生の成長日誌行動科学で学ぶメディカルインタビュー https://www.igaku-shoin.co.jp/paperSeriesDetail.do?id=132
・動機づけ面接法 基礎実践編 WRミラーら 星和書店(2019年に上下巻に分冊)
・医業現場の行動経済学 大竹文雄ら 東洋経済新報社

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文責:岡本雄太郎(専攻医部会 総務部門)
2022/05/11転記

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