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他科/多職種インタビュー企画 福井大学医学部附属病院 救急科・総合診療部 林 寛之先生 インタビュー 第4回

他専門科や多職種のバックグラウンドを知ることで、コミュニケーションが取りやすくなったり、どのようなプライマリ・ケア医が求められているのか、研修中どのように学んでいったらよいかをイメージできるようになるため、インタビューを企画しました。

今回は、福井大学医学部附属病院 救急科・総合診療部 林寛之先生にインタビューを行いました。(全体で8回)

第4回は救急とSubspecialityについて林先生にお話しいただきました。

(聞き手:鈴木,石田,島田)


鈴木) 救急の先生も、専門を取った後にSubspecialityを持たないと自分のアイデンティティがどういうところなのか分からなくなるような雰囲気があると聞いたことがあるのですが、そういうのを救急の先生方はどう思っておられるのか聞いてみたいのですが。


林先生) これもね、今はまだ救急が始まって50年。ということは、今はまだ初代の人たちが少し残っている時期なんだよね。初代の人たちは、もともと臓器別専門医だった人たちが救急に行ったというバックグラウンドがあります。Subspecialityを持っているのではなくて、もともと臓器別専門医だった人たちが救急に行って、「俺の人生はよかった」って言ってるんです。もちろん、救急で腹を開けて閉じることができれば役に立つこともあるかもしれないですけど、救急だけやってる人たちからすると、それは何の役にも立ちませんよ。縫合が上手くなるだけでいいですしね。胃カメラももちろんできた方がいいかもしれないですけど、ないところでできる必要もないですし。ということは、育った土壌の違う人たちがサブスペシャリティを持った方が良いという考えを押し付けているということだけなんですね。

 家庭医療も同じで、今家庭医療で育ってきて家庭医療を教えている人って少ないでしょ。内科でやっていて家庭医療を教えるようになったりね。だから、そういう人たちの言葉は納得いくところだけ聞いて、そうじゃないところは聞かなければいいんですよ。臓器別医の言葉はみんな「俺の人生はよかった」しか言わないから僕は役に立たないと思っているんだけど。

石田) すごい・・・頷ける内容でしかないです。

今の日本って、各臓器別内科を専門としている先生たちが集まって総合診療科ができていて、その中で家庭医療を学んだり、緩和を学んだり、漢方を学んだりしているイメージがあります。

「でもどこかで臓器別の知識って必要になるよ」と言われることや、「先生、専門はどうするの?」みたいなことをチクっと言われることもやっぱりあります。

総合診療という専門じゃダメなのかなぁっていうモヤモヤを抱えている人は結構いるんじゃないかと思います。

林先生) 全然問題ない(笑)! 

 臨床で本当に必要なのは、その場で必要なことをきっちりやることです。総合診療とか、家庭医とかその場で必要なことはきっちり学んで、足りないところは補充すればいいだけで、他の科のところで何年もやるのは時間の無駄だと思います。本当に本当。これは間違いないと思いますね。

 だからそういうこと言われたら、「先生すごいですね、そんなことまでできて」っておだてればいいと思います。おじさんたちは滅多に褒められたことないんだから(笑)。

石田)「さしすせそ」みたいなやつですか(笑)?


林先生)「さしすせそ」だと、簡単すぎてめんどくさいことを言うおじさんがいるんですよ(笑)。Specificに「先生の〇〇なところすごいです」とか、質問形式で「どうしたらそんなに優秀な先生みたいになれるんですか~?」って聞くと、褒められているかどうか気づかなくて嬉しいものなんです(笑)。高等テクニックだけど、質問形式でいくといいんです。
 こういうのを書いたのが『Dr.林の当直裏御法度(三輪書店)』)っていう本なんです。上級医をその気にさせる言い方ですね。質問形式で聞きなさい、具体的に言いなさい、さりげなく言いなさい、間接的に聞かせなさい、堂々と言いなさい。上級医がカーテンの裏側にいるのを分かっていて、上級医を褒めるんですね。「あぁ~、こんなところいたんですか先生!」とか言ってね(笑)。そうするとめちゃ喜ぶ(笑)。

 それと、その先生と一番仲の良い看護師さんに病棟とかで褒めておくと、本人の耳に入りやすいんでね。そういう時に他の先生と比べていいとか悪いとか言うのは絶対ダメなんで。でも、褒めるところはいくらでもあるんですね。医学的知識だけじゃなくて、家庭人であったり、趣味であったり、対応の仕方であったり、言葉遣いであったり、服装であったり。必ず二面性はあるのでね。ブチっとキレる人は熱血漢とか言えばいいわけですよ。患者さんのために、そこまで感情が溢れる熱血漢ってすごいですってね(笑)。

『し・ぐ・さ・かん・どう』で覚えたらいいんです。

し:質問形式

ぐ:具体的

さ:さりげなく

かん:間接的に

どう:堂々と

「感動しました先生!」って堂々と言えばいいんですよ。そしたら、オヤジはうるさいんですよ。昔話、説教話、自慢話の3つが始まる。あんな良い先生だったのに、ここで自慢が始まるんだってなるけど、これ15分我慢すればおさまるから(笑)。

ただ、相槌の仕方が良すぎると時間が伸びるから気をつけてね。

 これはクレーマー対応も同じでDr.林の20分ルールっていうのがあります。クレーマーがガーっと言ってきた時に、傾聴しましょうって言ってもずーっと聞き続けるのはきついですよ。まずは20分聞き続けてください。20分くらい経つと相手は言いすぎたわって気分になるわけですよ。20分間怒り続けるって結構エネルギーいるしね。相手が「こんな腐った病院!」って言ったら、「腐ってますよね」って言えばいいんです。「対応が悪りぃ」って言われたら「対応が悪かったです。申し訳ありません」って言えばいいんです。「お前何とかならないのか」って言われたら、「何とかしたいです!僕は院長じゃないので何ともできなくて僕も悔しいです」って言えばいいんです(笑)。 とにかく否定せず肯定して、童話のコウモリになったつもりで言い返してたらいいんです。いいでしょ。全て裏御法度に書いてます(笑)。

石田) いやほんと・・・話が面白すぎてお腹痛いです。

林先生) こんなん文章になるんかなぁ。NHKのプロフェッショナルが来た時、2ヶ月間取材されて使えるの3割しかないって言われましたね。7割ふざけてて使えないって(笑)。


第4回はここまでです。救急医とプライマリ・ケア医どちらにも共通するsubspecialityについてお話しいただきました。第5回のテーマは「都市部と地方の救急の在り方の比較」です。次回もお楽しみに。


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