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あのミットに向かって2nd 21話(81話)

一也:お前、バカだろ

〇〇:そうですね。
バカですね

一也:勝てるとでも?

〇〇:いや勝てないです

一也:なら何で?

〇〇:勿論自分も大谷翔平さんと対決したかったのはありますが、栄純さんに向けて投げます。

一也:!?

〇〇:アレだけのものを持っていて一つの約束のためだけに挑戦しない。それが許せなくて
やりたいことは自分で決めるべきなのに
翔平さんに委ねていることが…

一也:………

お前、いい奴だな

〇〇:えっ?

一也:でも、そんな善人者は野球では通用しないからな

野球選手は生活するために死に物狂いで練習している。練習しても試合で結果が出るとは限らない
残酷な世界だ
それを自覚しないとやっていけない

特にメジャーはそれが最も強い
試合に出る為なら何でもする

人を蹴落としてでもだ

わかるか?〇〇

〇〇:はい。

一也:沢村はそれも加味して決断したんだと思うぞ
まだあの舞台は俺には早すぎると…

〇〇:でも!それでも、栄純さんは挑戦するべきです!栄純さんが言っていた「あの人が待っている」は一也さんのことなんでしょ?

一也:!?

〇〇:その為に日本で野球を研究しておられました
1ヶ月程度ですけど栄純さんと生活していましたあの人程野球に向き合っている人を知りません。

この前少しだけ部屋を覗いた時…

部屋の壁には野球のことを貼って、打者の特徴をデータで取り、シュミレーションまでされていました

そんな人が覚悟なくここにくるはずありません

だから、挑戦すべきです


俺は翔平さんに今持っている全てで勝負します

一也:そうか
それなら沢村に見せないとな

〇〇:はい

一也:それで球種は?
甲子園で観てたけど変わっただろ?

〇〇:観戦されてたんですね

一也:拓也を観に行ったら森田がいた
で、面白いボール投げるなとは翔平さんと話してたから


〇〇:翔平さんも!

一也:そんなことより時間は1時間しか無いから早くやるぞ

〇〇:はい

一也:教えてくれ

〇〇:真っ直ぐとムービング、真カットボール、真カットボール改、スリーシーム、そしてチェンジアップですね
今のところは…

一也:沢村と変わらないけど真カットボール改とスリーシーム、チェンジアップは軌道を確認しておきたい

新球種も考えてんだろ?

〇〇:なぜそれを

一也:そんな気がしただけだ

〇〇:まぁ考えてはいますけど、イメージができていないので…


一也:まずは打者をイメージしてどういうボールなら振ってくれるかを鮮明に想像するんだ
その時、どういう軌道を描くべきかをいくつも頭に作っておくんだ
忘れるなら書いておけ
そしたら自分だけの球種はできる


〇〇:イメージはしてたけどそれを何パターンも先に考えておくことが大事なのか…


一也:まずはキャッチボールから

シュッ


〇〇:パシッ、シュッ

久しぶりだな
少し気持ち悪い


一也:パシッ、シュッ

〇〇:パシッ、シュッ

一也:パシッ

次座るから30%くらいの力で投げろ
シュッ


〇〇:はい!パシッ



栄純:史緒里ちゃん

史:はい!

栄純:〇〇は昔からあんな感じなの?

史:そうですね…
小さい頃から野球に関することには誰よりも熱いですね

栄純:そうか…
俺も昔はそうだったんだけどな
大人になってから守りに入るようになってしまった

史:………

栄純:若菜…

若菜:私は栄純が信じる方についていくわよ
どんな選択でも栄純が決めたことだもん
私が口出しする必要ないもん
ずっと栄純を信じてきたから

史:(これが野球をサポートする人の相手を信じる気持ち。私は〇〇を信じきれていなかった。1番信じないといけないのに
こういう1つ1つのことも吸収する
私ももっと精進しないと…)


栄純:若菜ありがとう


〇〇はどんなピッチングをするのか
観とくか

史緒里ちゃんは〇〇は勝てると思う?

史:多分も無理だと思います
それでも〇〇はタダでは負けないとは思いますよ
そういう人なので

若菜:そんなにわかるんだね

史:私が〇〇を1番近くで見てきたからですかね
ボールを受けてもきましたから


栄純:えっ?
受けれるの?

史:一応…
中学まで〇〇とバッテリー組んで休みの日はキャッチボールしてました

若菜:凄い…


若菜は久保史緒里と検索した
すると…


"消えた天才久保史緒里"
No.1キャッチャー
次世代を担う中学3年生の女の子


若菜:栄純!これ

栄純:マジ?
史緒里ちゃんこれ…


史:それですね
もう昔の話ですから

若菜:野球したかったんじゃ無いの?

史:無いと言ったら嘘になりますけど今は満足しています。今は〇〇をサポートすることが楽しいので…
それに普通の女子高生を謳歌してますから

それに偶に〇〇とキャッチボールできますから
それだけで十分です


栄純:そうかそれも1つの人生だもんな

史:はい!今が一番楽しいですから

若菜:(〇〇君絶対離したらダメだよ)



一也:温まってきただろ?
真カットボール改


〇〇:はい!
ふっ、久しぶりだな…

〇〇2:やっとだな

〇〇:あぁ…

ザーッ

ドン

グググ

少しクロスステップで

指先一点集中

小指と薬指を握って
最後に中指で擦る!

ココ!

らぁ!

ビュン

シューーーー


ギュン


一也:!?
ズバァーーーン

(沢村と同じだと思っていたけど全然違う
もしかしたら沢村より曲がりが鋭いぞ
それに少しボールが跳ね上がるような軌道…)

(これが高校生の球だとは思えない。
今もボールがミット中で暴れている…)

シュー

一也:ナイスボール!シュッ


〇〇:ありがとうございます


一也:次、スリーシーム

〇〇:はい!
いけるか?

〇〇2:任せとけ

〇〇:ふー

中指で押し出せ!

ジュッ


シュルルルルル

グン

一也:パァン!


栄純:御幸先輩が弾いた


一也:このボールも面白い


最後、チェンジアップ


〇〇:はい!

〇〇:ん!


拓:バザーッ

うんオッケー


◯父:うちの息子がすみませんでした


翔平:いや大丈夫ですよ
今、なかなか勝負されることが少なくなって
あんなに闘争心むき出しされるのが嬉しくて

自分の立ち位置が嫌いなんですよ

神様みたいに崇められるのが

俺は努力でここまできたのに

俺は野球人、"大谷翔平"なんですよ

◯父:!?

翔平:だから〇〇君と対戦するのが楽しみですよ

◯父:ありがとうございます。
思い知らせてやってください
野球の怖さを…

翔平:勿論、対戦するからには全力で行きますから


1時間後

〇〇:よろしくお願いします!

翔平:よろしく


一也:まずはアウトコースにフォーシーム

〇〇:コク

ん!

シューー

スパァーン

◯父:ストライク!

翔平:綺麗なスピンだ

拓:次は高めに

〇〇:コク

ビュン

翔平:ピクッ

バン!

◯父:ボール!

〇〇:翔平さんはスリ足だからどんな球でもついていけるしボールの軌道も追いやすい

拓:インコースに

〇〇:コク

んぁら

シューーーー

翔平:ふん!

カァン!

ファール

史:インコースに真っ直ぐ
強気ですね

栄純:あれが御幸先輩のリードだ

拓:スリーシームをインハイに

決めに来い!

〇〇:ふっ

ザーッ

重心を落とし

体重をしっかり乗せ

放つ

ンァ!

ゴゥーー

翔平:真っ直ぐ…

グン

翔平:!?

ギュッ


ズバァーン!!


◯父:ボール

〇〇:マジかよ…

一也:止めたよ


翔平:危なかった〜〜

今の何だよ

ボールが上擦ってきた


◯父:2ボール2ストライク


栄純:今のを振らないのは流石ですね
これで不利になったのは〇〇の方か…


〇〇:やべぇな
これが世界一のバッター…

初見のボールすら見れる

こういうバッターが俺の知らないところにたくさんいるのか…


果てしねぇ

上には上がいるのか


楽しいわ

〇〇2:俺も楽しいわ


一也:ナイスボールだ。シュッ

〇〇:ありがとうございます。パシッ


一也:さぁどうするかな

栄純はチェンジアップを運ばれた

〇〇のチェンジアップは球速が落ちるいい球だけど沢村ほどの落差はない

どうする?

〇〇:行かせてください

御幸は昔の沢村を思い出していた

そして、2人が重なる

一也:そうだったわ
このピンチで逃げる奴じゃなかった
アイツも


なら、投げてみろ!


〇〇:さっきはイメージできてないって言ったけど実は史緒里と〇〇2の3人で作った新球種
栄純さんとは違うチェンジアップ…

試してみるか…



"チェンジアップ改"




御幸さんなら初見でも捕ってくれる


俺はいつも通りに



あのミットに向かって…


ンァ


翔平:ピクッ

栄純のより球速差もないし落差も小さい

余裕で耐えられる…

バットを掬い上げるようにいれていく



一也:これは捕らえられる…


栄純:落ちが甘い…






〇〇:ニヤ

一也:!?
アイツ今笑って…


〇〇:なぁ史緒里

史:どうしたの?

〇〇:チェンジアップなんだけどさ
改良できないかな?

史:なんで?
試合でも数球しか投げてないんでしょ?

改良する必要ある?


〇〇:いや、投げるならさ
俺だけのチェンジアップを投げたいんだよね


史:ホント欲張りだよね
前言ったこと覚えてる?


〇〇:なんだっけ?


史:チェンジアップにはいろんな種類があるって

〇〇:あぁ!史緒里の家で話したときのね
思い出した


史:今の〇〇のチェンジアップは球速を落としたチェンジアップ

落差は無い

これはこれでタイミングを外すにはもってこいだと思う

でも、〇〇は落差が欲しいってことでしょ?


〇〇:よくわかってるなぁ

史:〇〇の球種は真っ直ぐ系
小さい変化が殆ど

唯一真カットボール改は大きいけど


下への変化


三振を狙う球
言わばここぞって時に使える球種ってことだよね


〇〇:そうなんだよ。奥行きを使いたくて


以前成宮さんが投げてたチェンジアップを見て思いついたんだけどうまく行かなくてさ


史:アレはほぼスクリューだよね

投げてから左下に落ちていく軌道


〇〇:アレって球速も落ちて沈んでいくじゃん

俺の頭にあるチェンジアップは
球速は勿論落ちるけど大幅に落とさずに

落差に注力したチェンジアップを考えてるんだよね


史:いいの考えてるじゃん

これ見て!

史緒里はタブレットを出し、〇〇に見せた

理想の軌道的には2段階落とせれたら


〇〇:それは最高

少し落ちているところからさらに落とす


そして、握りや指の抜き方、リリースポイントなど2人で作っていった

〇〇:〇〇2、投げれると思う?

〇〇2:そうだなぁ
難しいとは思う

でも、イメージができてるならそれ通りに絶対になるってことだ

その想いが強ければ強いほど現実になるってもんだよ


〇〇:そうだよな
ありがとう
チームに戻るために…
みんなも強くなってるはず
俺も負けないように頑張らないとな


シュー


ギュゥン!?


一也・翔平・栄純:えっ!?

スカッ

ザーッ!!!


ボン

〇〇の投げたボールはミットに収まることなく後ろに転がっていた


一也:なんだ今の…

翔平:………

◯父:今の軌道は…


史:やったー♪〇〇!!!

〇〇:おぅ…

疲れた〜


〇〇は大谷翔平から三振を取ってしまった


翔平:あんなボールを隠していたとは

一也、お前も捕れないとはな笑

一也:アイツ俺にも隠して投げたんですよ


まぁアレは知っていても捕れたかはわからないですけどね

凄いやつが誕生しましたね

翔平:そうだな
次の日本の野球は〇〇が変えるかもな

一也:楽しみが増えましたね


翔平:〇〇!負けた!


〇〇:対戦ありがとうございました


翔平:でも、次は打つ


〇〇:ゾクッ
自分も負けません!


翔平:お腹減ったしご飯にしよう!

明日から練習だしな


〇〇:くぅ〜〜〜

やったー!!!


栄純:〇〇、おめでとう

〇〇:ありがとうございます

栄純:約束だったな
大谷さんのチームに入るかはわからないけどメジャーに挑戦はするから


お前もいつか対戦できることを期待してるからな
そして、日本代表で同じチームでやろう


〇〇:はい!


一也:お前ふざけんなよ!
俺に恥かかせてんじゃねぇよ

イメージあったのかよ


〇〇:すみません
御幸さんなら捕れると思って投げました


一也:なんか俺が悪い感じになってる


〇〇:いや、自分もまさか成功するとは思わなくてびっくりしました。


一也:まぁいいや
でも、バッテリー組む時は隠し事は無しだからな


〇〇:それはわかってますから


史:〇〇!成功したねギュッ

〇〇:よかった〜

史緒里、ありがとう

史:🙂‍↔️
自分の事のように嬉しい!!


若菜:〇〇君ナイスボール

〇〇:ありがとうございます

若菜:栄純、〇〇君に負けてんじゃない?

一也:それはあるな…


栄純:いや、御幸先輩まで〜


翔平:お〜い!
早く来い!飯だぞ!


5人:行きま〜す


◯父:〇〇、よかったな

〇〇:お父さん…

◯父:言えてなかったけど克服してきたんだな

〇〇:うん

◯父:お前を信じて正解だった
それでこそ俺の息子だ

〇〇:キツかったけどなんとかね

◯父:明日からはきついからな
覚悟しとけよ


〇〇:わかってるよ



史:〇〇、なんか嬉しそう…

To be continued…

〇〇は次のステップへと進んだ

この経験はしっかりと〇〇の身に刻まれた

アメリカ編はまだ続く…

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