見出し画像

天才芸人、望月衣塑子論


望月記者の質問は葬式中のおならに似ている

年の瀬で慌ただしく時間が過ぎる12月27日、産経新聞に目を疑うような記事が掲載された。

週刊文春にお笑いコンビ「ダウンタウン」松本人志氏による性加害を告発する記事が掲載されたことを受けて、東京新聞社会部記者の望月衣塑子記者が林官房長官に質問?した内容が記載されている。ちなみに僕は週刊文春を煽情的な記事で部数を稼ぐ三文タブロイド誌の類と認識しているため記事の信ぴょう性自体を疑っているが、そのことは今回関係がない。本稿はあくまでも「望月衣塑子論」である。
上記で引用した記事の見どころはたくさんある。林官房長官にも政府にもなんの関係もない性被害告発の件について質問する内容があまりにも面白いので以下、書き起こしてみる。

【望月記者の内閣官房長官に対する質問 冒頭部分】
あの~週刊文春の今日発売の文春の報道についてお伺いいたします、ダウンタウンの松本人志さんによる2015年とのことなんですけれども、まあ高級ホテルで部下の後輩芸人に3人の女性を呼び出してそのままホテルの中で性加害を加えたということが報じられております。昨日ネット上ではかなり騒ぎになっておりました。まあ今年は~、ジャニー喜多川氏の性被害を受けた元ジュニアの方たちがたくさん告発をいたしましたが、再びこのような芸能界の中での性加害、しかも松本人志さんという非常に著名な芸能界の大御所と言われているような方がこのように性加害の疑惑を複数の女性やその関係者の男性によって告発されている、まあ~芸人に関する疑惑についてコメント出来ないかもしれませんが、一般論も含めてこの報道をそもそも林さんが承知しているかも含めてお答えください。

これは本当に高度なお笑いだと思う。この定例記者会見は行政府を代表して内閣官房長官が記者の質問に答える場である。メディアが権力を監視し、その様子を主権者たる国民が知ることで次の投票行動の決定要因となる、民主主義社会の存立に関わる真剣な場である。そんな場で政府にはなんの関係もない「松本人志氏のスキャンダルについてどう思うか?」という給湯室OLの世間話をぶっこんでくる。これぞ笑いの王道「緊張の緩和」である。
緊張の緩和とは亡くなった名人落語家の桂枝雀師匠がかつて提唱したお笑い理論であり、文字通り緊張のなかに緩和が生まれたときに笑いが生まれるという理論である。例えばお葬式の最中、ご家族がさめざめと泣き参列者が神妙な面持ちで手を合わせるなか・・・、どこかから「ぷ~」という軽やかなおならの音が聞こえてきた時のことを想像してほしい。日ごろはおならなど臭いだけの不快なものであるが、お葬式という緊張が前提にあることにより、たかがおならによって人は笑いをこらえられない状況へと追い込まれるわけである。
いわば望月記者の質問は「葬式中のおなら」なのである。
しかし天才芸人望月記者はこんな程度の笑いで終わらせるような人ではない。後半にかけてまさかの大オチを繰り出してくる。

リベラル派イメージ構築からまさかの大オチまで


しかし望月記者の実力はそんなものではない。官房長官定例会見で給湯室トークをぶっこんでくるだけなら単なる出オチである。普通出オチ芸人は後半失速するものであるが、望月記者の場合は出オチと思わせて実は長尺の本ネタを後半に仕込むという大谷翔平もびっくりの二刀流をお披露目してくるのである。

【望月記者の内閣官房長官に対する質問 クライマックス部分】
相変わらずこういった芸能業界でのセクハラ、パワハラが、まあ一般論としてでいいんですが、政府にこういった芸能や音楽業界をしっかり監督し指揮するような監督官庁なるものがはっきりないことから、結果としてこのようなセクハラが横行してしまっているんじゃないかという指摘もあります。

ここで「政府は芸能界を監督せよ」という金正恩もびっくりの、独裁者でしか思いつかないような大オチを、怒りの口調でぶっこんでくるのである。

関係ないのになぜか怒られて納得がいかない林官房長官

なお望月記者が自身の主張にがんばって客観性を持たせようと「そういう指摘もある」と人が言ってることにしているのに、にべもなく「持論」とツッコミを入れる産経の記事によりさらに笑いが増幅する現象が起きている。もしかすると望月衣塑子氏と産経新聞はコンビなのかもしれない。

産経新聞に突っ込まれて輝きを増す望月衣塑子氏のネタ

なぜ望月衣塑子氏の「政府は芸能界を監督せよ」という金正恩もびっくりの際どいブラックジョークが成立するかというと、彼女は日ごろリベラル派としてのイメージが強いからであると思われる。
例えば同じ発言を亡くなった前安倍首相がしたとしたら、という世界を想像してみてほしい。おそらく日本中のメディアで「ヒトラー再来!」の社説が躍り、ドラム缶で癇癪玉をぶちまけたみたいな騒ぎになることは必至であろう。国会前には安倍晋三氏の顔にちょび髭を足した画像をプリントした太鼓を持つ鼓笛隊が参集し「アベタイホ、アベタイホ!」と叫びながら連日練り歩くことになるのは目に見えている。それぐらい望月衣塑子氏のネタは際どいのである。

安倍晋三氏の顔にちょび髭を足した画像をプリントした太鼓を持つ鼓笛隊のイメージ図


そんな際どいネタがなぜブラックジョークとして成立するのか。それは彼女が日ごろから念入りに念入りに、自分はリベラル派であるという前振りをしているからであると思われる。
リベラルとは文字通り個人の自由、個人の尊厳、多様性を尊重する立場であり何よりも国民の精神や営為が国家権力に統制されることを嫌う思想である。
そして芸能界とは国民大衆の間で愛される表現家で構成される職域社会を言い表す用語であり、「芸能界」という法的な地位を持つ特定の社団が存在するわけではない。
つまり「芸能界」を政府で指揮監督せよ、という提案は国民大衆の娯楽全般を政府の監督下に置け、という内務省もびっくりの統制社会を構築せよという提案なのである。
相方の産経新聞にはぜひ「喜び組でも作る気か!」みたいなツッコミを期待したい。

2024年はリベラルの望月衣塑子化現象を積極的に取り上げて参ります


また昨今では「リベラル派」と前フリしておいて、統制社会を望む大オチで笑いを取る人々の増加現象が止まらない。例えば最近はリベラルの看板を掲げながら国会議員の世襲禁止を唱える人が増えている。政治家の子供は選挙区の地盤を引き継げるからずるい!という心情の問題に止まらず、世襲を法律で禁止しようというのである。
確かに政治家には2代目、3代目と政治家の子供が政治家になる現象が多いが、それは別に無投票でそうなっているわけではなく、有権者による投票を経て議員になっているのである。この世襲を禁止しようという見解の背景には「有権者みたいなものはアホだから、本来選ばれるべきではない世襲議員みたいなものに投票してしまう、これでは正しい投票とは言えないから法律で規制して有権者が正しい投票が出来るように導いてやらなければならない」という意識がある。
およそ価値相対主義に基づき手続きの正義を尊重する本来のリベラルとはかけ離れた主張である。もちろん望月衣塑子氏ほどのキレはないが良くできたネタであると思う。

本年はこのような事例を取り上げるnoteを積極的に発信しようと思っておりますので、どうか変わらぬご愛顧を賜りますようよろしくお願いいたします🐶

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?