ポピュラー音楽のステージング研究の現在地 #3
休み中に紹介したい&忘れないようにまとめておきたい本が入手できたので、まずは文章にせねば…ということで書きました。
サザランド・ライアル『メガロステージ:驚異のロックコンサートデザイン』
マーク・フィッシャーとジョナサン・パーク(フィッシャー・パーク)によるロックコンサートのステージデザインをまとめたもの。事例としてピンク・フロイドの「ザ・ウォール」、ローリング・ストーンズの「スティール・ホイールズ」、U2の「ZOO TV アウトサイド・ブロードキャスト」、ロジャー・ウォーターズの「ザ・ウォール」などが挙げられており、彼らが活動をはじめた1970年代後半からのそれらの製作とライブの模様、設計のための図版などが詳しく紹介されています。
この本の最初の方にライアルの論考が収録されています(p.6-15)。ライアルによればロックのビジネス化とともにステージはスタジアムや広場に仮設ステージを組む形で巨大化し「使い捨て、一度限り」のものである点で建築としては唯一「ポップ」なもので(p.8)、彼らのステージングには風船を用いたものが頻出しています。ウォーホルの《銀の雲》(1966)、レス・レヴィンの《星の庭》(1967)、クリストの《梱包》作品、大阪万博(1970)の富士グループパビリオン……といった、ポップな美学をもとにした1960~1970年代の空気芸術や空気を用いた建造物の流行からの連続性が見て取れます(空気芸術・建築の成立については、遠藤徹「空気の(再)発見 : 60年代後期から70年代初めにかけて空気構造が担った社会的な意味をめぐって」を参照)。
さらにステージから離れた観客とスペクタクルを共有するためのスクリーンの設置やセットの巨大化、花火といった演出を用いることは現在においても行われていますが、その始まりとしてローリング・ストーンズが1976年に行ったコンサートでの観客席へのスクリーンの設置が挙げられています(p.15)。セットを巨大化し「人目を引くことを最優先」にすることが巨大なライブスペースにおけるスペクタクルの共有の近道とされており、金満なバンドのその要求にフィッシャー・パークが応えたということです。
中村滋延『現代音楽×メディアアート:音響と映像のシンセシス』
メディアアーティストであり音楽家でもある中村は、まず20世紀以降の現代音楽におけるコンピュータを用いた「現代」性に着目し、それによるマルチメディア的な創造性を指摘する。その上で自らが制作する「映像音響詩(ビデオアート)」の制作における「音楽」と「視覚」「聴覚」それぞれの要素の関連性を理論づけていく。
本の筋とは若干それますが、ステージング研究と関連して「演劇的要素を視覚的要素として構成に取り込んだ音楽作品」のミュージック・シアターにおける「出音と演奏者の動きの分離」に関心をもちました(p.94~)。ここではピアノのC4(ド)の音を演奏者が思い切り腕を振って指を鍵盤に叩きつける……ふりをして弱い音を鳴らした、という例が出されていて、中村はその結果「意外感」「はぐらかし感」が生まれるとします(p.95)。
増田聡、椹木野衣、クリス・カトラーなどがいうようなテクノ・ミュージックetc.の「出音と演奏者の動きの分離」を考えるうえで面白い例になる気がします(ミュージック・シアターも知らなかったのでかなり勉強になりました)。
https://kup.or.jp/booklist/hu/art/980.html
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