美女の視線

  目が合う。なにげに目がある。

自分としては意識していないのだけど、ぼんやりあらぬ方向を見ていると、そこにいる人がこちらを見つめる。


それが、美人なんかだと、うれしい。てなことはなく、やっぱり気まずい。
今日も、書店の帰り、長いエスカレータを下りながら、ぼんやりと下に広がるエントランスを眺めていると、上がってきた美女が、突然、クッキリとした目を広げ、見つめてきた。


最近こんな感じで、なんだかよく目が合う。それも、けっこう美人と。


あからさまに顔を背けるのも、美人を見つめているよからぬ奴と思われそうなのでしゃくに障る。さりとて、一直線上にある二つの眼をどうどうと見続けるには、我がハートは貧弱だ。


出会った瞬間に、恋の火花が飛び散って、すれ違いざまに声をかけ、そのまま、求め合う。なんて映画のようなことは頭の中だけ。
結局、それとなく目をそらして、じんわりとした敗北感を味わうはめになる。


きっと、あんまりにも男前なので、自信過剰な美女達は、自分が見つめられていると錯覚して、こうしてしっかりと描いた瞳で、見つめるのだろう。そうだ、違いない。


なんて、妄想を働かせて、何ともいえぬ残尿感のある敗北をとっとと頭から追い出す。僕である。

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