恐ろしい話。女子学生と先輩と。

歯切れのいい喋り方をする女の子が、同じ年頃の男の子2人と入って来た。

女の子は男の子に対し、敬語で語りかけている。「先輩」と弾むような声が聞こえた。

なるほどと納得する。

そのあとに続く、足早な彼女の言葉は、敬語を使っているが尊敬も恐れもなく、少し軽視を含んだ快活な表情をしていた。

それにしても、「先輩」なんて言葉、小説かアニメのような風景だ。こんなことも世の中にはあるんだと、目の前の些細な修羅場の合いの手としては最高の言葉だと

ぼんやり頭の中で反芻した。

修羅場書いたが、女の子がしきりに、「言わない、言わない」と、相手の男の子に対して言っている。どうも、彼は彼女にヤバいところを見られたようだ。

それに対し、身なりのいい優等生風の学生男子は、ぼそぼそと彼なりに気弱ながら必死の抵抗と懇願をしていた。

対して女の子はさも楽しそうに、快活な笑い声を振りまいた。なんとも意地悪に。

この女の子はこれからも生きて行く限り、こんな調子で、快活に小気味好く、嘲笑を含んだ言葉を投げかける、生き物に成長するはずだ。

ただ、陰湿さを含まず、知的に鋭利で、跳ねるが如くに弾む彼女の言葉は、男女問わず惹きつけるに違いない。一つの工芸品か芸術作品のように。

特に男は、愛というすっとんきょうな勘違いを繰り返し、彼女の人生に振り回されるだろう。所詮、男はこんな女子にめっぽう弱く製造されている。

俄然、どんな風貌をしているのだろうと興味が掻き立てられてきた。しかし、見も知らずの、それも冴えない中年男がそのためだけに視線を向けることは憚れて、素直に顔を上げて目線を向けることはできなかった。

頭の中で、彼女の言葉の内容と、反射神経の良い発音を反芻しながら、身勝手に顔の造形を組み立てるのが関の山。

しばらくすると、電車が駅に止まった。ここぞどばかりに、何気なく駅を望む風で、女の子の横顔を覗き見る。

そこには、幼いながらも整った顔立ちを持った、末恐ろしい女性の性が、幼いながらも陽炎のように立ち上っていた。きっと、どんどん年を経るごとに、賢く、狡猾に、そして魅惑的に美しくなっていくだろう。

彼女の人生の中で、記憶の片鱗にもならないほどの出会いだったが、なんとも面白い出会いだった。

そんなことを考えていると、「先輩」と呼ばれていた男の子が、駅へ降りた。

それを、見送る女の子。

ドアが閉まった瞬間。かすかに動き出す電車の中から、「言いますからね」と言った。そして、電車は速度を快活に上げ、同じ快活さで女の子は笑った。本当に恐ろしい話だ。

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