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「魅惑の心理」マガジンvol.243(ニュースな心理学/2024年6月後編)

新聞、テレビ、ネットのニュースを見ていると人の言動が不思議に見えることがあります。「何でこんな事件を起こすのだろう」「何でこんなことを言うのだろう」人の言動は、まさに謎だらけ。そこで、報道された小さな手がかりから、人の行動の「なぜ?」を心理学で紐解く、「ニュースな心理学」です。今月は心理的に注目したいニュースが多いので、全編・後編に分けて心理を通して報道の裏側を覗いてみます。

・ラーメン店「1000円の壁」壁より怖い思考の呪い
・新紙幣の裏の話
・ヒグマ駆除 町と猟友会が交渉決裂
・ストーカーによる被害に歯止めがかからない

・ラーメン店「1000円の壁」壁より怖い思考の呪い

最近の物価高で様々な飲食店が値上げを余儀なくされています。この値上げの話でよく出てくるのがラーメン店の「1000円の壁」です。食材にこだわって美味しいものができたとしても、「ラーメン」1杯の価格が1000円を超えてしまうとお客さんが心理的に「高い」と感じてしまうという問題です。この話を信じるラーメン店はとても多く、1000円を超えないと利益が上がらない、でも1000円以上にするならば、お店を閉店しようと廃業してしまうお店も出てきました。

ビジネス的に考えるならば、チャレンジしてみてお客さんが本当に遠のいてから判断しても良いのに、事前にあきめてしまう店主さんたちも少なくありません。これは値上げによる手間やコストアップなどの経営的な側面よりも、日頃から値上げに対して「申し訳ない」という心理があり、店主さんたちの言動を見ていると、そのストレスが耐えられなくなってしまうことが大きいと考えられます。

このような1000円という壁が生まれるのは、私たちの持っている「アンカリング効果」という認知バイアスの影響です。アンカリング効果は認知バイアスの中でもかなり強い効果があります。私たちはある判断をするときに、先に与えられた情報、最初に見た数字に無意識のうちに影響を受けて判断をしています。認知バイアスとはこの認知上の歪みのことを言います。 最初に見たものから離れられない様子が、まるで海にいかり(アンカー)を下ろした船のようだからです。

ポーポーも何度かこのアンカリング効果の実験をやりましたが、この効果の強さは驚くほど強力です。笑ってしまうぐらい強い効果があります。そして恐ろしいのは自分が影響を受けたことの自覚がないのです。

ではその効果の例を端的に表しているアメリカ小児保健協会の調査をご紹介します。ニューヨークの小児科医師A先生は、扁桃腺を除去していない11歳の子ども400人を診察し、45%に手術を勧めたといいます。B先生はA先生が手術を勧めなかった子どもたちを診察して46%の子どもに手術を勧めました。また、C先生はB先生が手術の必要なしという子どもを診察して、44%の子どもに手術を勧めたのです。この判断と奇妙な数字の一致には、人のアンカリング効果が影響していると思われます。人は直前に見た数字や最初に受けた印象の影響を受けて、物を判断してしまう傾向があります。先生たちは「11歳の子どもには約50%の扁桃腺除去の必要がある」という予測の影響を受けていたのです。そしてこの効果は数字の影響を受けた自覚症状がほぼありません。消費者は野菜の高騰に敏感に反応しますが、それはこの野菜は○○円、これは○○円といったアンカー(基準)を持っているからです。

「ラーメンは1000円まで」という先入観を最初に与えられた人はこのこの呪いに簡単にかかってしまうのです。お客さんもそうですが、実は強くかかっているのはラーメン店の経営者です。

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