見出し画像

『光る君へ』色彩と色彩心理の世界

平安時代中期に書かれた「源氏物語」。短い詩のような言葉は世界に古くからあっても、煌びやかな平安時代の恋愛模様を描いた「長編」の作品としては世界最古の作品です。美しい色の言葉を紡ぎ、複雑な心を描く、世界でもっとも古い文学が日本にあるというのは、日本の誇りともいえる偉業だと思います。

冒頭の写真は京都市上京区にある廬山寺(ろざんじ)。この場所に「源氏物語」の著者でる紫式部の邸宅がありました。この場所で彼女は生まれて育ち、執筆をしたといわれています。この寺には源氏庭という白砂と苔の庭があり、初夏には美しい紫の色が開きます。「源氏物語」に出てくる朝顔の花は、今の桔梗のことなのです。

彼女の人生を描く大河ドラマ『ひかる君へ』が2024年1月7日から始まります。平安時代は大陸から様々な色彩が入ってきて、色が溢れるほどに広がっていった時代でもあります。この時代の貴族たちは、多彩な色を使いこなし、色彩感覚は教養の一つとして広がっていきました。複雑な人間関係と色彩の世界、色が人の心にどのように影響を与えていったのかを知ると、このドラマがより楽しると思います。そこで、ドラマを楽しむためにこの色の世界を一緒に勉強していきたいと思います。

『ひかる君へ』は「源氏物語」をドラマ化したのではなくて、「源氏物語」の著者である紫式部を主人公にしたというのが面白いです。

主人公であるまひろ(紫式部)はどんな女性だったのでしょう。ちなみに「紫式部」は本名ではありません。この時代、女性は本名を公開しませんでした。家系図を見ても名前が載っているケースは稀です。家族、夫になる人などごく一部の人しか知らされないものでした。歴史に残っている女性の名前は上級貴族のごく一部の女性の名前だけです。

この紫式部という名前は、『源氏物語』発表後に、付いたあだ名のようなものです。『源氏物語』の登場人物である「紫の上」と父、為時の仕事が式部省(現在の文科省)の役人だったことが関係しています。

彼女の生い立ち、その優れた色彩感覚についてはこちらにまとめてあります(どなたでも読んでいただけます)↓

ドラマ『光る君へ』は原作があるわけではなく、大河ドラマ用に書き下ろされたオリジナルの物語です。この物語で紫式部は「まひろ」という名前で呼ばれます。あくまでもドラマ上の設定になります。脚本、作はラブストーリーの大石静さんですから、初回から激しい展開が待っています。ドラマに出てくる色も資料が豊富にあるわけではないので、史実を参考に考えられていますが、フィクションやドラマ用に考えられたものであります。リアルよりもわかりやすさと見た目の美しさにこだわって表現されている部分が多く見受けられます。謎に包まれ、複雑な紫式部と色の世界、ドラマを楽しみながら、その背景がわかるように解説したいと思います。

○ドラマにおける色の役割

平安時代は390年も続きました。「源氏物語」が書かれたのが1008年、『光る君へ』の時代は平安中期になります。ぜひ登場人物の衣装の「色」に注目してください。当時の貴族たちは服の色にたいへん苦労しました。なぜなら、色がその人の品位を表すものとして重要なものだったからです。

ここから先は

3,033字 / 6画像

¥ 500

期間限定 PayPay支払いすると抽選でお得に!

いつも応援ありがとうございます。 みなさまからいただいたサポートは研究や調査、そしてコンテンツ開発に活かしていきます。 ミホンザルにはバナナになります。