顧問弁護士は使えないのか

サマリ

  • 顧問弁護士の対応事項は法務機能との棲み分け次第

  • 顧問弁護士が「使えない」理由は、解決策の提案がない、回答納期を守らない、費用対効果が悪いなど

  • 相談者が相談方法を工夫して「使える」顧問弁護士を育て上げるのも一案

1. 背景

多くの会社さんでは、顧問弁護士を起用する。いつでも法律相談ができ、専門的なアドバイスをもらえるようにするためだ。現に発生している紛争解決のためというのもある。

顧問弁護士は知り合いから紹介によって起用されることが多い(※1)。知り合いのお墨付きがあるから安心できる、弁護士の知り合いがいないから他の選択肢がないなどが理由であろう。

一度起用した顧問弁護士はなかなか変更されない。知り合いからの紹介経由で起用した場合は、その知り合いへの「申し訳なさ」が出てきて、なおさら変更されない。

変更する場合でもスイッチング・コストが考慮される。新たな顧問弁護士に自社のことを深く理解してもらうための説明コストに加え、知り合いからの紹介を受けられなければ、会社さんが自分で一から弁護士を探すことになり、時間と労力もかかる。きれいなHPを出している法律事務所がその会社さんに合うかどうかは未知数だ。

「使える」顧問弁護士に出会うことは難しい。今の顧問弁護士を「使える」ようにする方向で頭を切り替えるのが手っ取り早いかもしれない。これらのことも踏まえつつ、今回は、顧問弁護士は使えないのかを書く。


2. 顧問弁護士は何をするのか

会社さんの法務機能との棲み分けにより決まる。顧問弁護士は契約書や議事録のチェック、法律相談や紛争解決などに対応する。これらのうち、定常的な業務については内製化が可能である。対応方法がわかれば都度相談する必要がなくなるためだ。定常的な業務以外の業務についても対応可能な場合がある。鍵は豊富な経験を有する法務人材がその会社さんにいるかどうかだ。

定常的な業務の外注先として弁護士を利用することもある。Legal Process Outsourcingと呼ばれるこのサービスは、弁護士が受託するため、弁護士法72条(非弁行為)に抵触しない。従来の顧問弁護士のイメージと異なるものの、法務の内製化が困難であるか、内製化の必要に駆られていない会社さんには一つの選択肢かもしれない。

専門的な領域は顧問弁護士に任せる。労働、知財、医療など特定の領域を専門的に取り扱う法律事務所や弁護士は存在する。彼らの強みは他社での解決事例を元にした解決策を提示できる点にある。その領域特有のリスクや解決策は本に載っておらず、専門外の弁護士には対応できないこともある。顧問料という一定金額を支払うだけで、豊富な経験を通じて弁護士が獲得したノウハウを頼ることができるため、会社さんが利用しない手はない。


3. 顧問弁護士は使えないのか

相談者が顧問弁護士を「使える」と判断する基準は何か。基準が「今契約している顧問料の水準で、相談者の想定よりも早い時期に、その会社さんの実情に合わせた具体的な回答と提案が出てくるかどうか」だとする。その裏返しが「使えない」のかもしれない。もしこれが正しい場合、「使えない」基準は重要度の高い順に次の3つに分解できる。

(1) 解決策の提案がない

「私は弁護士にできるかできないかを聞いているのではない。どうしたらできるかを聞いているのだ。」この言葉は「解決策の提案」の重要性を説く。「No/NG」だけを回答してくる弁護士は、そもそも法律相談に対して真剣に向き合っていないか、弁護士に求められる何らかの能力が欠落していて相談者が本当に解決したい課題や問題の本質を捉えることができていないものと心得る。本に書いてあることをそのまま回答してくる弁護士も、場合によっては相談者の期待に応えたことにならない。

(2) 回答納期を守らない

法律相談がボトルネックとなって事業スピードが減速することは許容されない。他方、相談が来た順番を元に、緊急性や重要性を考慮して適宜順番を入れ替えて、順次対応していく。これが多くの顧問先を抱える弁護士の対応方法と推測する。対応漏れも稀に発生する。

(3) 費用対効果が悪い

客観的に見て大した論点ではないのに、「調査や検討の時間にこれだけかかった」ということで顧問料以上の費用を請求されたら、心外だろう。(1)と(2)のどちらかに不満がある場合も、費用対効果が悪いと感じる。

以上のどれかに該当した「使えない」顧問弁護士を「使える」顧問弁護士に変化させることはできるか。自分の意思で他人を変えることは難しい。自分にできることをして、他人に影響を与えていく方向で考えるのが懸命だ。


4. 顧問弁護士はどうすれば使えるようになるか

「使えない」と判断する基準を相談者自身のできることに引き付けて次のように変化させるのはどうか。

  1. 解決策の提案がない
    →解決策を提案させる

  2. 回答納期を守らない
    →回答納期を守らせる

  3. 費用対効果が悪い
    →費用対効果を合わせる

そのうえで、個別の対応方法を考えてみる。

(1) 解決策を提案させる

相談内容を工夫する。相談者から相談背景を正確に伝えたうえで「相談したいポイントはxxだが、他の問題点はないか」、「今のままでは問題点を解決できない場合はどうしたら解決できるか、前提条件を変更したり一定の条件を付けたりすれば解決できるのであればどのように対応すればよいか」のように具体的に聞いて、顧問弁護士から「解決策の提案」を引き出す。

生成AIでプロンプトを打ち込むような感覚である。背景や相談内容は具体的であるほどよい。解決策の提案が欲しいなら、相談者から明確に要望する。これほど明確に要望しても具体的な解決策が提案されない場合は「使えない」と判断して間違いない。

(2) 回答納期を守らせる

回答納期を明確に伝える。相談者は顧問弁護士に今回の相談への「回答納期」を「xx月xx日xx時まで」と指定して、顧問弁護士の対応リストの上位に滑り込ませる。

もし当日中に、または翌朝に顧問弁護士からの回答を検討したい場合は、「xx月xx日まで」との指定は避けるべきである。弁護士は「xx月xx日23時59分まで」とか、「翌朝の御社の始業時間前まで」とか、自分に都合の良い方に捉える傾向がある。相談者に都合があるならば、日付だけでなく時刻まで指定する。「その後、xx時からの部内の打ち合わせで使用します」と次の予定を伝えることも一案だ。

回答納期にはバッファを見ておく。顧問弁護士からの回答遅延がボトルネックになることを防ぐためだ。追加回答を得たい場合の時間を確保する意味もある。

回答納期を過ぎても回答が出てこなければすぐにリマインドを行う。回答納期前にリマインドを行う方法もあるが、あまり効果はない。実際に対応しているかどうかにかかわらず、「まだ検討中」と回答してくるだけだ。

回答までに数週間以上かかるものは中間報告を求めることも検討する。多くの場合、顧問弁護士から出てくる成果物の質は出たとこ勝負になる。顧問弁護士に業務を「任せた」後、成果物が出てくるまで、相談者が進捗状況を把握していないためだ。

(3) 費用対効果を合わせる

ピンポイントで相談する。背景や相談内容は具体的に伝えつつ、択一式で回答を求める。顧問弁護士が瞬時に回答できるようにするためだ。自分なりの回答、理由、調査結果なども付記すると、顧問弁護士が検討するときの参考になる。場合によっては、相談者がどこでつまづいたかを指摘してくれる。

見積りをもらう。顧問弁護士への戒めとするためだ。相談をピンポイントで行うならば、回答納期までに稼働時間を目一杯使う必要はない。

見積り交渉を行う。見積りは一度もらったら終わり、ではない。見積金額は一定程度の余裕を持った金額で算出される。変数は弁護士の稼働時間だ。ピンポイントな相談を行うことによって、変数を削りに行くのがよい。

見積り金額を超える前に弁護士から報告させる。事前の連絡なく、見積金額を大幅に超過した弁護士費用を請求し、そのことを何とも思わない弁護士が少なくない。通常のことすぎて、違和感すらを覚えないのであろう。「想定外の確認や検討時間がかかった」というのが弁護士の言い分であるが、会社さんの中では通用せず、「相談者のコストコントロールが甘いせいだ」と経営者から苦言を呈されるのがオチだ。「見積り金額の何%を費消したら報告する」との条件を付けておき、見積り金額の範囲内で適切なアドバイスを貰える見込みが立たなければ、その時点で他の法律事務所に切り替えるのがよい。それまでにかけた弁護士費用はサンクコストである。お金がもったいないからといって今の法律事務所にしがみついても、適切なアドバイスが得られないとの意味で、回収不能であることを肝に銘じる。

以上が即効性のある方法である。顧問弁護士をより一層「使える」ようにするには次の方法もあり得る。

(4) 契約内容を見直す

法律相談を行うには顧問契約を勧められることがある。顧問契約は弁護士が定期的な収入を確保する手段となるが、会社さんにとっては必ずしもメリットとはならない。法律相談がない月は顧問料の支払いが無駄になるからだ(次の記事もご参照)。

弁護士は単発契約でも法律相談にのってくれる。弁護士費用はタイムチャージや固定金額などで設定される。前述の方法で見積りをもらい、コストコントロールを行えば顧問契約よりも費用対効果がよい場合もある。

(5) アソシエイトを変更してもらう

その会社さんと直接やり取りする弁護士は若手弁護士であることが多い。彼らはアソシエイトと呼ばれる。大きな法律事務所の場合、パートナー弁護士に就任するまでの、弁護士歴10年未満くらいの弁護士だ。

顧問弁護士を起用する当初は法律事務所の代表弁護士やパートナー弁護士の専門性に期待して顧問契約をしても、遅かれ早かれアソシエイトとのやり取りに切り替わる。代表弁護士やパートナー弁護士は他の会社さんの顧問も務めていて対応できる時間が取れないからだ。実務経験を積ませて、アソシエイトを育成するという観点もある。

会社さんはそれらの事情を無視してよい。その法律事務所に期待したのはアソシエイトの能力ではない。もし代表弁護士やパートナー弁護士がアソシエイトに仕事を任せることが事前にわかっているなら、必ずそのアソシエイトとも面談すべきだ。そして、面談時において、または起用後の日々の法律相談において「合わない」と感じたら、すぐにアソシエイトを変更してもらう。

(6) 事業概要を説明する

弁護士は会社さんのことが全くわからない。未上場企業の場合、登記簿や決算公告、HPのお知らせなどを見ても、その会社さんのことは10%もわからない。会社の概要や事業計画、事業部門の施策、事業ドメインごとの商流、過去のトラブルやヒヤリハット事例、問題は発生していないが気になっていることを起用後の早い段階で理解してもらう。

起用後も事業説明は複数回行うのがよい。会社さんの事業に関連する法律や規制の最新動向についてアラートを出してくれることもある。

(7) パフォーマンスレビューを行う

定期的にパフォーマンスレビューを行い、顧問弁護士に具体的なフィードバックを行うことも一案である。「xxのように解決策を提案してくれて、次の行動に移りやすかったので、良かった」「xxの案件で回答納期をxx日過ぎた原因と再発防止策を回答してくれ」といった具合に事実を具体的に示す。「依頼している立場がそのようなことをするのはおこがましい」との考えは捨てる。顧問弁護士を「使える」ようにするために手段を選んではいけない。


今回は、弁護士は使えないのかを書いた。相談者は顧問弁護士に対して、一定程度の、または過度な期待を抱いている。もし、その「期待」が顧問弁護士に対して明確に伝わっていなければ、顧問弁護士が「期待」を上回る成果を出すことは容易ではない。相談者から「使えない」と判断された顧問弁護士にも自省が必要であるものの、相談者においても、自分のできることをして「使える」顧問弁護士に育て上げることを心掛けてもよいのではないだろうか。


参考資料

※1 株式会社LegalOn Technologies「企業規模に比例して顧問弁護士数は増加、顧問契約のきっかけは「紹介」


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