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知的財産法 (8)・・特許要件:発明該当性と産業上利用可能性(特許法第29条第1項柱書)


特許法第29条第1項柱書の意義

特許法第29条第1項柱書では、「産業上利用することができる発明をした者は、・・・・その発明について特許を受けることができる。」としている。
この条文は、発明が特許として保護されるためには、産業上利用可能性がなければならないことを規定しています。これは俗に「有用性」ということもある。
また、この条文から、発明完成時に、特許を受ける権利が生まれていることが推察される。
さらに、特許法2条1項で定めた「発明」概念に相当しない場合も、「発明該当性」なしとして特許法第29条第1項柱書違反として拒絶の理由となる。

発明該当性

特許法2条1項で定めた「発明」概念に相当しない場合は、そもそも保護価値がないので、登録されない。
「発明」といえるためには、「自然法則を利用した技術的思想の創作」でなければならない。
発明該当性については、下記の記事で説明しているので、参照のこと。

コンピュータソフトウェアを利用した発明については、その発明該当性につき、かつて、実務上種々議論があったが、今では、以下のように判断基準は確定している。
まず、

(i) 機器等(例:炊飯器、洗濯機、エンジン、ハードディスク装置、化学反応装置、核酸増幅装置)に対する制御又は制御に伴う処理を具体的に行うもの
(ii) 対象の物理的性質、化学的性質、生物学的性質、電気的性質等の技術 的性質(例:エンジン回転数、圧延温度、生体の遺伝子配列と形質発現との関係、物質同士の物理的又は化学的な結合関係)に基づく情報処理を具体的に行うもの

特許庁審査基準 第III部 第1章 発明該当性及び産業上の利用可能性 2.2 

は、問題なく発明該当性が認めれられている。

ただ、ビジネス方法を実現するコンピュータソフトウェアは、その判断はなかなか難しい。

☆審査基準では、「ソフトウエアによる情報処理が、ハードウエア資源を用いて具体的に実現されている」場合は発明該当性ありとされていますが、そのためには、

  • 「ソフトウエアとハードウエア資源とが協働した具体的手段」によって、

  • 「使用目的に応じた情報の演算又は加工を実現する」ことにより、

  • 「使用目的に応じた特有の情報処理装置(機械)又はその動作方法が構築されること」

が必要である。そして、ソフトウエア関連発明の成立性の具体的判断手法としては、
1)情報処理に、ハードウエア資源を用いているか、
2)ソフトウエアとハードウエア資源とが協働して具体的手段が構築されているか(個々の機能実現手段)
3)当該具体的手段が使用目的に応じた情報の演算又は加工を実現しているか
4)その結果、使用目的に応じた特有の情報処理装置(機械)又はその動作方法が構築されているか(全体としての装置・システム・方法)
が判断されます。入力装置、演算装置、出力装置からなるコンピュータにそれを当てはめてみると、以下のように図示されます。

ソフトウェア関連発明の発明該当性

ソフトウエア関連発明の場合、請求項の書き方により、上記のような使用目的に応じた処理手段が認識できない場合、発明成立性なしとされることが多々あるので注意を要します。

産業上利用可能性の定義と趣旨

1.産業上の利用可能性とは生産業はもとより、生産を伴わない補助産業を含む広義の産業界において、発明を実施できることをいい、学術的、実験的にのみ利用できる発明を排除する意味である。
2.特許法は発明の保護及び利用を通じて産業の発達に寄与することを目的としている(特第1条)。
  従って、法が保護すべき発明は産業上利用され産業の発達に寄与するものでなければならない。
  そこで、法は、特許要件として産業上の利用性を定め、産業上利用できる発明でなければ特許を受けることができないものとしている(特第29条)。

特許法第29条 産業上利用することができる発明をした者は、・・・・その発明について特許を受けることができる。

なお、PCTでも国際予備審査で産業上利用性を問題にしている。

「産業」とは何か

産業とは、工業、農業、漁業、鉱業、生産業だけでなく広く補助的な産業、サービス業を含む概念

なお、意匠法では、工業上利用できればよしとしている。
(意匠法3条①・・工業上利用)・・・なぜでしょうね。考えてみてください。

「利用」の意義

産業上「利用」とは
(イ)実施を意味・・少なくとも実施できなければ産業発達望めない。実施とは生産・使用のみ。発明自体が利用できるかの問題、結果物は無関係。
(ロ)実施は可能性あれば足りる
基本発明ほど現実の事業化に相当期間要する
(ハ)経済性は必要なし
経済的社会的要件に左右されるもので発明の技術的価値と無関係
(二)技術的不利益伴うもの
程度問題・・発明は通常何らかの不利益伴う
・不利益が到底除去できないその発明に本質的なものや、発明による利益よりはるかに不利益大きく、発明利用の可能性失わせるもの→産業上利用性なし
(ホ)技術的価値のないもの→産業上利用性なし
産業上利用可能性のないもの
産業上利用できないもの
人間を手術、治療又は診断する方法
その発明が業として利用できない発明
(ⅰ) 喫煙方法のように、個人的にのみ利用される発明
(ⅱ) 学術的、実験的にのみ利用される発明
実際上、明らかに実施できない発明
例:オゾン層の減少に伴う紫外線の増加を防ぐために、地球表面全体を紫外線吸収プラスチックフイルムで覆う方法。
以上、審査基準より
https://www.jpo.go.jp/shiryou/kijun/kijun2/pdf/tjkijun_ii-1.pdf

上記において、人間を手術、治療又は診断する方法(治療方法)が産業上利用できない発明とされるからといって、医療で使用される機械・器具が産業上利用できる発明でない、とは言えないので注意を要する。

参考:医療関連行為発明の特許法上の取扱いについて(特許庁)


https://www.jpo.go.jp/resources/shingikai/sangyo-kouzou/shousai/iryoukoui-wg/document/01-shiryou/tokkyo_iryou_siryou3.pdf

未完成発明(発明成立性)


なお、未完成発明も当然、産業上利用できない発明として、29条1項柱書きで拒絶する。



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