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健康診断の結果からみる淘汰

健康診断を始めて30年近く、今までに数多くの方々が目の前を通り過ぎてゆきました。当初出会った方々の中にも、もう亡くなってしまわれた方もいるかと思われます。健康診断はそういった方々の人生に貢献できていたのか……。高齢化社会と言われて久しく、自分自身もその中の一員になった現在、自問自答してみることが近年増えてきました。

健康管理にたずさわる身ですので、健康診断は健康長寿に貢献していると思いたいところですが、数々の矛盾が現実には存在します。

パターンプロセス理論に辿り着くまでにも紆余曲折はあり、現在の健康診断に対する疑問や矛盾について、自分なりに答えを求めてきた結果が本理論に通じていると感じています。今回健康長寿とは相反する淘汰について考えてみました。
職域健診及び地域健診のように受診者の年齢域の異なる健診の場合、健診結果における異常パターンの構成が異なる事には以前から気づいていましたが、その意味や意義について考察するに至らず長年悶々としてきていました。

今回も対象者は487067名(男性248885名 49.3±16.6歳 女性238182名 53.5±16.4歳)です。多くの健康診断で実施され、パターンプロセス理論でも用いられた、汎用検査6項目(判定基準値)を用い、これら6項目の検査異常パターン64群について考えてみます。もともと6項目の理由は今までの紆余曲折の中に存在しますが、単純に有所見率の高い順番で選んでもこの6項目となります。

「健康診断の汎用6項目」でお話ししましたように、素因型項目と定義した、血圧、耐糖能異常、LDL-Cの有所見者は、加齢とともに増加傾向を示すとともに性差が存在し、性差の生じる年齢域及び程度にも各々違いがあります。LDL-Cは加齢と共に増加して見えますが、実はその多くが、体内の酸化環境に呼応しているらしいことは前回お話ししました。

生活習慣型3項目にも明らかな性差が存在し、男性は20歳代からからいずれも上昇し50歳代をピークに下降しますが、女性は40歳代後半から上昇を開始します。これら6項目の組み合わせによる異常パターン64群において、各群健診で存在しうる年齢域があり、各人固有のパターン群間で変移しながら年を重ねてゆきます。パターンプロセスにおいてはBMIと年齢の関係を表現した強い法則性が存在します。(1)(4)

異常パターン64群の有所見率の年齢階級別推移を見ますと次の図のようになります。

素因型のみのパターン群は加齢とともに増加するものの、生活習慣型を含むパターンは加齢とともに減少傾向がみられ、特に肝機能異常を伴う群は著しく減少します。一見、素因型群に比べて生活習慣型群は少なく見えますが、後者は素因型項目の重症例の多くを含み、脳卒中や虚血性心疾患の90%が含まれ、がん発症者も多く含まれます。

従来から生活習慣病と考えられ、スクリーニングとして実施されている素因型項目には、実測値の高低とは別に、生活習慣型項目との関係において異常が生じる過程に質の違いが存在し、生命予後に深く影響していると考えられます。

汎用検査6項目の検査異常パターン群において、健診集団で高齢者として残ってゆける群と残れない群が存在し、健診集団における淘汰の存在が示唆されます。

淘汰というと、生物の進化において、環境の変化に対する適応や種の存続のために強いものは生き残る形のように思いますが、人間の場合、自分自身の素因に応じて生活習慣における欲求をコントロールできない場合の自己淘汰のような気がします。

人類全体を見ると生活習慣以外の欲求でも自己淘汰している気がしないでもありません。生きているうちが華ですし、いかに本人の欲求を尊重しながらも各人の気づきに健診結果を活用するか、人生を楽しみつつ淘汰されないために考えてみる必要がありそうです。



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