飲酒習慣の影響の個別性
前回喫煙習慣についてお話ししましたので、今回は飲酒習慣の注意点についてお話しします。生活習慣において飲酒習慣は大きな影響因子ですし、パターンプロセス理論においても肝機能異常は重要な意味を持つため外すわけにはいけませんが、極めて個人差が大きいのも事実です。
よく言われる「飲み過ぎに注意……。」という表現も飲む方々にとっては主観的にさまざまに解釈されています。一方で適正飲酒量なども定義されていますが、遺伝素因として飲めない方も存在しますし、影響度の個人差が大きく悩ましい定義です。
多くのひとにそこまでは飲んで良いと解釈されますので、飲酒量の問診でも適正飲酒量程度の答えが一番多く、その上健康診断の結果は千差万別です。また、経験的にも健診時の自己申告による飲酒量はかなり適当なので、私は問診情報をもとに飲酒量との関係を探るような解析はしません。
次の図は毎日飲むかほとんど飲まないかで、肝機能GPTとγGTPの関係をみました。
毎日飲酒の方々のγGTPが高くなりやすいのは一目瞭然です。飲酒以外でも薬物や食物中の成分に反応する方もいますし、脂肪肝で上昇する方もいます。しかしながら、γGTP高値を指摘され、お酒も飲まないしそのほかの原因にもまったく心当たりのない方は、一度精密検査をお勧めします。
次の図は、GPT 中性脂肪(TG)おのおの年齢との関係について飲酒習慣の有無別に散布図で示したものです。
GPT, 中性脂肪も飲酒ありの方に多いと言えますが、飲酒習慣なしの方にも異常者は多く認められます。飲酒とは関係ない脂肪肝炎をNASHと呼び特別視する風潮がありますが、そちらは診断に重きをおく専門家におまかせして、パターンプロセス理論では、飲酒習慣の有無に関わらず生活習慣型と定義した、GPT γGTP TGの基準値を超える上昇の事実とそれらによるパターン形成を重要視します。パターンプロセス理論は生活習慣に対する早期の保健介入で将来のリスク変えてゆく考え方ですので、理論的に背景の考察は進めてゆきますが診断の過程を含みません。
γGTPについて、毎日飲む方ばかりで、年齢に沿った分布を見てみました。
毎日飲む方の中でも基準値を超える方は40%ちょっと。思ったより少なく感じられますが、実際、γGTPの上昇しない方も多く存在します。
γGTPの上昇しないことが過去の健診でわかっている方の中には、相当飲んでいても問診で飲酒しないと申告される方もいますが、大体周辺のデータとの関係から見破れますので、本当の指導はその後からになります。
まれに80歳代でも毎日3~4合以上飲みながらも肝機能はおろか他の異常さえない方が存在します。そういった方に出会えると若い頃からの飲み仲間について聞いてみることにしています。大体彼の飲み仲間の多くは70歳までになくなっており、本人のみが生き残って今もお酒を飲んでいる……お酒飲みの方の中での淘汰が存在することが実感できます。
散布図上でもγGTP200 U/L以上の70歳を超えた頃より密度が急激に低下します。割合で見てみると、60歳までは6〜7%いた方々が、60歳代で一気に減少してゆき、70歳後半以降はほとんど存在しないことがわかるかと思います。75歳以上の後期高齢者は現在の健診制度の関係で受診人数が減少し、図上の減少が助長されて見えますが、それでもこの解析の対象者中では25000人程度存在します。
健診結果を前にしても、お酒が好きでやめられない、唯一の楽しみであるとおっしゃられる方も多いのですが、「γGTP200越えは70歳を超えるのが難しいです。せめて100未満で維持できるような飲み方にしませんか。」…この現実をお伝えしてご自分の問題として考えていただきます。
飲酒量の増加しやすい時節ですが、ご自身の肝機能検査の結果を思い出してお酒とは上手にお付き合いください。