世界史漫才再構築版13:唐王朝編

　苦：今回は唐王朝です。前回同様に色々な人に登場してもらうんで、個人ではなく王朝です。
　微：単に一人だけでネタを作れなかったんだろ。キカイダーから戦隊モノへの転換と同じだな。
　苦：お母さん枠のイケメンも、子ども部屋おじさん枠のビキニ幹部もいませんから大丈夫です。ですが、鬼畜な親子関係とか息子の妻を父が横取りするとか、まあ東海テレビ的世界ですね。
　微：「オラ、ワクワクしてきたぞぉー！」
　苦：勝手にクレしんを使わないように。まずは高祖李淵です。
　微：ああ、坂東玉三郎とか海老蔵とかがいる世界ね。
　苦：それは「梨園」、歌舞伎界だよ!!　念のために言うと歌舞伎町でもないぞ。
　微：坂東玉三郎が進化すると、「三」が「触」になるという噂は本当か？　さらに進化する・・・
　苦：止めなさい!!　発禁処分を食らうよ！　話を戻します！　唐の高祖李淵は、隋末の混乱の中で山西の太原で挙兵し、618年に隋の恭帝に禅譲させて唐を建国しました。
　微：脅しというか、帝位のカツアゲだな。クロマティ高校でもやらないぞ。
　苦：イジメ被害者が加害者に忖度した自発的に証言をするようなもんですね。李淵の一族は五胡十六国の西涼の武昭王の末裔ですが、隴西李氏の漢民族と自称してます。
　微：その無理筋が「我々は老子の子孫なので道教を保護する」という展開につながって。
　苦：大野(だいや)氏という胡姓も持ちます。「大」に無頓着な時点で非漢明族は一目瞭然です。
　微：また出た、学齢詐称ならぬ家系詐称。まあ、学歴詐称なら日本、裏口入学なら韓国が本場。
　苦：その隴西李氏は北周の八柱国の家系で、北魏では皇后を出せる名門です。李淵が隋の文帝の信任を得るきっかけも独孤皇后が李淵の叔母だったことです。
　微：まあ、外戚に近い存在だったと。
　苦：李淵は北周の唐国公・安州総管を務めた李昞の子です。
　微：王朝名は発祥の地を冠する習わしなので唐王朝なわけか。もし歌舞伎町なら歌舞伎朝か。
　苦：まだ歌舞伎は存在しなから心配無用です。李淵はまず隋の千牛供身から職務を始め、州刺史、郡太守、殿内少監・衛尉少卿などを歴任しました。
　微：その「千牛供身」って何だ？　スペインで牛追い祭りでも担当するのか？
　苦：唐の軍制から推察すると、「南衙禁軍」と呼ばれた国の正規軍の、長安城内に駐屯した中央十六衛の一つです。ただ皇帝直属の「北衙禁軍」とは違い、折衝府から送られた府兵の軍です。
　微：ザコキャラ軍団からスタートしたのか。そう考えると大出世だな。
　苦：李淵に戻すと、煬帝治世には高句麗遠征の懐遠鎮で兵站を監督します。楊玄感の乱では関右の諸軍を統率して楊玄感軍の進軍を防ぎました。
　微：その時には軍団と民間人を分ける「バブル方式」を採用し、拡大を阻止したそうです。
　苦：それじゃザルだよ!!　その功で李淵は615年に山西河東慰撫大使に任じられ、突厥が辺境に侵入すると、馬邑太守の王仁恭とともに撃退し、617年には太原留守に任じられました。
　微：ただの留守番ではないんだな。実質的な最高責任者。
　苦：618年5月に煬帝が殺されたことを知ると、李世民や劉文静らの進言を受け、対隋反乱を決意します。翌月に諸郡に檄を飛ばして蜂起し、一気に軍を南下させ、大興城を陥しました。
　微：山西なら近いし、鮮卑系の支援もあっただろうしなあ。
　苦：先程の説明通り、長安の留守をしていた代王楊侑を恭帝とし、禅譲させたわけです。
　微：問題はその後だな。溜まりに溜まった煬帝への不満もあるし、先を越された武将もいるし。
　苦：はい、洛陽では王世充が皇帝を称して鄭を建国、河北では盗賊上がりの竇建徳が勢力を築き、長江以南では梁の末裔の蕭銑が梁朝を再興、と群雄割拠の様相を呈していました。
　微：犬上御田鍬の派遣はかなりの英断というか、遣隋使随行組の情報が正確だったのか。
　苦：隋滅亡後の混乱鎮圧で一番頑張ったのは皇太子の李建成ではなく李世民でした。李世民と行動をともにした李世勣らは626年に玄武門の変で李淵を退位させ、兄を殺して太宗に即位します。
　微：明の永楽帝とムガル帝国のアウラングゼーブを合成したような強烈な奴だな。
　苦：余計な話をすると、李世民の治世に唐律・唐令が完成するんですが、彼の名前が日本史に大きく影響するんです。まず来日した裴世清が『唐書』では「裴清」になります。諱ですね。
　微：畏れ多いので庶民は皇帝の名の文字を使うな、と。
　苦：均田制というか日本の班田収授や墾田永年私財法に波及します。というのも「民」が諱となって、私有地は「民田」から「私田」に表記が変わります。
　微：日本は「民法」、ドイツが「私法」となっているやつだな。
　苦：「民」と「私」の意味が重なりながらもずれるのもここからです。
　微：「民意」だと公共性が感じられるけど「私欲の集合」と書くと下劣な欲望の塊みたいに響くな。
　苦：それは自己投影ですね。なお、ついでに言っておくと、中国の「田」は「耕地」で水田とは限りません。乾燥地帯である黄河流域で稲作は無理でしたから当然ですが。
　微：じゃあ、近畿の「畿」は耕地だらけということか？
　苦：「田」は人為的な区画の象形文字で、その典型が牛耕でできる田畑です。ですから「畿」は道教と儒教的理念に基づいて計画・建設された都城制の都を意味します。
　微：今回、初めてキミの説明に感動した！　目からナマコ、いや鱗が落ちた。
　苦：目は「マナコ」です。そして太宗で言わなければならないのは突厥から630年に「天可汗(テングリカガン)」に推戴されたことでしょう。このあたりも唐王朝の北方的性格が現れています。
　微：いい歳したオッサンがでんぐり返りかよ。
　苦：昔は、突厥に貢物をして撤退してもらっただけだと、潤色された話だと言う人もいました。
　微：まあ、昔は隋と突厥が敵対していたと平気で教科書に出ていたもんな(遠い目)。
　苦：現在は唐を攻撃的な「北朝系王朝」「胡漢融合国家」と理解するのが主流です。でなければ、7世紀の倭国の動揺と遣隋使や遣唐使派遣の必死さも説明できませんから。
　微：倭国も663年に唐との交戦国になってしもたしな。
　苦：なお、太宗は即位翌年の627年に元号を「貞観」(じょうがん)に改めます。先ほどの天可汗推戴と合わせ、太宗は中華世界の天子と遊牧世界の王の二つを兼ねました。
　微：でも西突厥とチベットは勝手なことをしたというか、強敵だったんだろ。
　苦：それでもこれなくして羈縻政策や六都護府設置もあり得ません。なお、唐直轄地というか州県制施行地域の人間が域外つまり遊牧世界やオアシス世界に出ることは固く禁じていました。
　微：唐というより「牢」だな。でも外国の使節というか朝貢使が来るのは拒まないと。
　苦：それでも玄奘はヴァルダナ朝インドに行って仏教を学び、仏典を収集しました。唐王朝は道教を保護してるんですが、645年に彼が帰国した時には玄奘を支援して漢訳を進めさせました。
　微：現状維持を「玄奘意地」とでも意訳しんだな。さすが建前と実態の乖離こそ中国。
　苦：おそらく唐王朝自体が北方遊牧民、オアシス国家そしてチベットを強く意識し、外交カードとして仏教を捉えていたんでしょう。それとやはり東西交易の利益を分配して安定させた。
　微：そう考えると、長安が絹の道の東の起点というか終着地というのは納得できる。だが、奈良がやったシルクロード博覧会は便乗にも程がある、プンプン！
　苦：まあ、記念館のフタコブラクダの剥製が、アラム文字、ソグド文字の伝播の説明に使えるので許してあげなさい。正倉院宝物も「おこぼれ」にすぎないけど現存していることに価値がある。
　微：いや、ソグド人や胡伎をモティーフにした唐三彩の名品も日本にあるしな。
　苦：そして太宗は能筆家でもあり、楷書の大家を臣下に登用するなど、書にこだわりました。「書聖」と謳われる王羲之の真筆を手に入れることに執念を燃やします。
　微：何百枚という贋作を摑まされたそうです。
　苦：ついに王羲之の子孫が持っていた「蘭亭序」の真筆を手に入れ、自分の陵に納めさせました。
　微：ゴッホの絵を遺体と一緒に焼いてくれ、とほざいたバブル期の保険会社の社長じいさんがいたな(遠い目)。芸術を公共財、せめて王朝の正統性を示す威信財と捉える観点がない。
　苦：ただ、太宗晩年には後継問題が起こります。立太子されたのは長子の李承乾だったんですが、太宗は四男の魏王李泰がお気に入りでした。
　微：江戸幕府将軍吉宗の家重問題と同じだな。
　苦：これが皇太子の奇行を生んで廃太士。四男も家臣を増やしたことが謀反とされ廃されました。
　微：それで消去法で最も凡庸だった九男の李治が立太子されたのか。
　苦：後に高宗に即位する彼です。彼の皇后が中国史上唯一の女帝となった、あの則天武后です。
　微：ああ、中国史のエリザベス2世だな。
　苦：話を戻すと、7世紀末から8世紀初めは東アジアで例外的とも言える女帝・女王の時代です。
　微：サリカ法典関係ないのにまずいのか？
　苦：高校生は知らねえよ!!　儒教的発想では女王がいること自体が夷狄である証で、裴世清が推古女帝本人と対面した可能性はゼロです。替え玉が謁見しています。それくらい女王はまずかった。
　苦：よほど不快な気持ちを湧かせる容貌だったんだな。
　苦：外見ではなく儒教的にアウトです。その中国で女帝が登場したんです。女性が天子でることを正当化できる宗教は、手間がかかりますが、仏教だけでしたから、彼女は仏教を保護した。
　微：渋谷センター街で不審な女性がいると通報を受け、午前2時に警察が保護したそうです。
　苦：そっちの意味じゃねえよ！　高宗は武后廃立を計画しましたが、失敗します。高宗本人も丹薬による中毒で眼病を患いました。
　微：道教がここで生きてきたんだな。やっぱり水銀使って朱色だったんかな。
　苦：健康を損なった高宗をいいことに実権は完全に武后が握り、高宗は683年に死にました。
　微：まあ、「唐の領土が最大になった時の皇帝」という箔はついたからいいでしょ。
　苦：次の皇帝中宗の時は韋后が実権を握りますから、もう「女難の相」ですね。しかし、8世紀前半の玄宗で盛り返します。しかし、既に7世紀後半に唐の根幹は崩れ始めていたんですがね。
　微：さっきの朝鮮半島進出と矛盾しねえか？
　苦：隋唐帝国北部の土台は胡漢融合国家、骨格は均田制、租庸調制、府兵制セットにあります。
　微：マクドのハッピーセットだな。
　苦：これは遊牧民が副業として畑作をやるなら大丈夫ですが、騎馬技術のない本物の農民を兵士として使うのは防衛でも無理なんです。持ち場の国境地帯に張り付くと農業できませんから。
　微：日本の古代でも兵制が一番最初に破綻したもんな。防人歌も貴族の「ごっこ」だし。
　苦：その国境に農民兵を居させるのも大変な上、国境地帯まで江南地方の物資を輸送させるのも大変だったんです。極論すればオール実物で租庸調制・均田制・府兵制の三位一体は動きましたから。
　微：水田だけ班給された日本の農民はもっと大変だよな。それで妻問婚で責任回避したのか。
　苦：均田制も基本は華北と支配下に入った西域だけ。トゥルファン文書で均田制が確認できるのは、征服地かつ絹の道の維持と補給に不可欠でしたから国家が相当テコ入れしたからです。
　微：乾燥しているから史料の残存状況も良かっただろうしな。
　苦：そもそもが農業はしんどいし不安定なんです。天候や病害虫に左右され、予測も立たない。
　微：政府のコロナ対策よりも当てにならない。でもさっきの時間のズレはどう説明するんだ？
　苦：それは唐王朝の生命線がシルクロード交易とそれによって結びついたソグド人やトルコ系民族の協力にあったからです。前近代なので唐を農業国家と思い込むのは根本的に間違いです。
　微：日本会議関係者が「ちゃぶ台での家族団らん」を日本家族の伝統と思い込むのと同じだな。
　苦：玄宗治世の安定は「開元の治」と呼ばれ、また8世紀前半に長安は国際的な文化が花開きます。中国文化史の言葉で「国際的」という形容詞が付くのは唐の文化だけです。
　微：東京の新大久保とか群馬の大泉町をイメージしたらいいのか？
　苦：それも先程のソグド人、トルコ人に加えてチベットも関係しています。唐の生命線が国際性、つまりシルクロードにあったことは少し考えると見えてくるんです。
　微：ここでモリヤス先生にサービスする腹だろ、オマエ。
　苦：少しはあります。皮肉にも玄宗治世の政策立案を担ったのは則天武后が抜擢した科挙官僚たち、特に姚崇・宋璟の両宰相です。経済や文化の繁栄と太平の世に、玄宗は政治への関心を失くします。
　微：香ばしい事件が起きない時のホームズか。
　苦：それに反比例して玄宗は737年に死去した寵妃武恵妃の代わりとなる女性を求め始めます。そして見出したのが息子寿王の妃だった楊玉環、いわゆる楊貴妃です。
　微：残された絵を見ると森公美子をちょっと痩せさせたくらいの、つまりかなりポッチャリ系だな。
　苦：天平美人と一緒で、当時の好みです。政務に倦んだ玄宗に代わって政治を運営したのは、宰相李林甫、李林甫の死後に実権を握ったのは楊貴妃の親族楊国忠と節度使の安禄山でした。
　微：YO! YO! YO!とラップ系政権になったんだな。「YOUは何しに長安へ？」ってノリ？
　苦：安禄山はサマルカンド出身で、ソグド人と突厥の混血で、「安」「康」「石」「史」「何」は典型的なソグド姓です。安禄山はまずは貿易関係の業務で唐王朝に仕えて頭角を現します。
　微：まあ、本業だもんな。
　苦：李林甫経由で玄宗から信任され、楊貴妃に取り入って北方辺境の三つの節度使を兼任しました。モンゴル高原のウイグルを封じ、東西交易の利益をソグド系による独占を狙ったようです。
　微：そう考えると、安史の乱でウイグルが唐王朝を支援したり、アッバース朝のマンスールやチベットが唐に援軍を派遣したのもすんなり理解できるな。
　苦：一時は長安を奪った安禄山ですが、間もなく病に倒れて凶暴化し、結局757年に暗殺されます。
　微：狂牛病だったそうです。
　苦：長安までの漕運を強制する力がなくなり、洛陽に遷都します。絹の道がもたらす富と問答無用の強制力あっての長安なんです。もうここが首都になることはありませんでした。
　微：そしたら、6～7世紀倭国の首都はなんであんな田舎の飛鳥だったんだ？
　苦：それを説明できないし、する必要があるとも考えないところに日本古代史の問題があるんです。
　微：そもそも日本律令国家を古代国家と定義していいのかという問題がある。
　苦：中国でも同じで、三国時代から中世なのか、唐が古代帝国完成形なのか、今も問題です。