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世界史漫才21:インノケンティウス3世編

 苦:今回はローマ教皇権に絶頂期をもたらしたインノケンティウス3世(在位1198~1216年)です。
 微:つまり、没落の始まりとなったわけだ。
 苦:嫌みなことを言うな! 本名はロタリオ・デイ・セニ。イタリアの名門貴族の家柄に生まれ、パリ大学で神学を、ボローニャ大学で法律を修めて聖職に就く素地を養いました。
 微:私も声優の専門学校出て、それから代々木アニメ学院でセル塗りを覚え、オタクの素地を養いました。
 苦:彼はその深い学識と人柄を見こまれ、叔父のクレメンス3世によって1189年に助祭枢機卿に叙任されます。覚えているかと思いますが、クレメンス3世は皇帝ハインリヒ4世が教皇グレゴリウス7世を追い落として擁立した教皇です。
 微:私はこの濃い知識と外見を見込まれ、タイムマシーン3号と間違えられました。
 苦:なんで平行して自分のことを言うの? 張り合ってどうするんだよ!
 微:いや、そろそろここで自己紹介しておかないと。でもさすがにYouTuberコースは止めましたが。
 苦:どんだけ情弱だよ! 話を戻しますと、1198年に前任の教皇ケレスティヌス3世が死去すると、枢機卿たちは満場一致で37歳である最年少の助祭枢機卿のロタリオを新教皇に選出しました。
 微:満場一致で決まったら全然根比べじゃないじゃん。看板に偽りありだ。
 苦:教皇選出選挙をイタリア語で「コンクラーベ」って言うんだよ。比喩じゃねえよ!
 微:そうだったのか。でも一般人は知らないぞ。
 苦:176代ローマ教皇となったインノケンティウス3世はグレゴリウス7世の改革と教権統治の思想を受け継ぎ、ローマ教皇庁の強化を図りました。
 微:ペテロから数えて1000年ちょっとで176代って、教皇は小泉チルドレン並みの人気、いや任期しかないんだな。
 苦:それこそ勝手に歴史から消えます。世襲じゃないので交代が速いんです。さて、時代背景ですが、インノケンティウス3世が選出される百年少し前、1095年のクレルモン公会議でウルバヌス2世十字軍派遣を提案し、以来3回の十字軍派遣が行われていました。
 微:胸にでっかい十字架付けて中東まで罰として晒し者にされたんだな、素行の悪い貴族たちが。
 苦:それは文化大革命で紅衛兵に糾弾された共産党幹部だよ! インノケンティウス3世の提唱で第4回十字軍派遣が決まるんですが、これは最初から資金難に陥る泥舟みたいな遠征でした。
 微:カチカチ山だな。その前に背中を火傷してたというか、尻に火が付いてたんだな。
 苦:ヴェネツィア亡命中のビザンツ皇帝の復位計画に乗って行き先をコンスタンティノープルに変更し、さらにスポンサーのヴェネツィアの意向で、商売敵の港湾都市ドヴロヴニークを攻略します。
 微:補給のことを全く考えなかった南京虐殺事件の松井岩根が指揮する日本軍と同じだな。
 苦:悪質さも同レベルかもしれません。第4回十字軍はギリシア正教会とは言え、同じキリスト教国ビザンツ帝国の首都コンスタンティノープルを占領して、ラテン帝国を建設しました。
 微:野球で言うと代打を出して1安打2打点で優秀なんだがな。
 苦:激怒した教皇は彼らを破門しますが、ラテン帝国を否定しませんでした。黙認です。
 微:「やりすぎんなよ~」の滋賀県の教員みたいだな。
 苦:インノケンティウス3世は神聖ローマ皇帝ハインリヒ6世の急死に伴うドイツ国王選挙の際には、教皇権を太陽、皇帝権を月に喩えて仲裁を行います。皇帝という月は教皇という太陽の光を受けてしか輝けず、さらにその輝きも太陽に劣るということでしょう。
 微:これが元祖「太陽政策」だな。ちょうど皇帝は寒い北の国にいるし。
 苦:テポドンは持ってません。仲裁と言いながら、オットーに肩入れし、1209年にローマでオットー4世に戴冠します。ですが、オットーが約束に反してイタリア領を要求すと、即、破門しました。
 微:うーむ、さすが北の将軍様はあつかましいな。
苦:まあ、皇帝は軍司令官ですから、そう言えなくもないですが。またワルド派、アルビジョワ派の異端対策に努め、1209年にはアルビジョワ十字軍を派遣しました。
 微:将軍様は資本主義という異教徒の日本にテポドンを発射するのに、なぜ社会主義市場経済という異端の中国には十字軍を派遣しないんだ?
 苦:微妙な所を突くな! アルビジョワ十字軍は中東以外に派遣された最初の十字軍で、この聖戦思想は13世紀にドイツ騎士団によってバルト海でスラヴ人虐殺や改宗で発揮されます。
 微:十字軍は聖戦思想という点ではイスラーム以上だな。
 苦:また、後の回でも取り上げますが、第3回十字軍に参加したフランス王フィリップ2世の離婚問題に干渉しましたし、さらにイングランド王ジョンを破門し、臣従を誓わせた後に赦免しました。
 微:でも、イングランド全土を一旦は慰謝料として差し出させたんだろ?
 苦:そうです、あくどいです。またジョンもイングランドを軽視していたんで、1215年にイングランド貴族がジョンにマグナカルタに署名させます。ですがジョンにマグナカルタを拒否させてますんで、イングランドでのインノケンティウス3世の評判はジョン王より悪いです。
 微:マルコスより評判の悪いイメルダ夫人みたいだな。
 苦:どんな譬えだよ! まあ、亡くなる1216年直前は頑固老人みたいなもんかも知れません。日本では馴染みのないインノケンティウス3世ですが、彼の最大の実績はフランチェスコ会の認定ですね。
 微:ギネスに代行させたんだろ?
 苦:1210年にアッシジのフランチェスコとドミニクスに面会し、一切の財産を拒否してイエスの清貧を理想とした托鉢修道会の設立を口頭で認可しました。それがフランチェスコ会とドミニコ会です。
 微:ワタシは復刻商品を段ボール買いするオトナ会の会員で、ビックリマンチョコが食べきれてません。2本で食い飽きた王将アイスが冷凍室を占拠してます。
 苦:遠慮なく無視しますね。もう勢いでアッシジのフランチェスコに話を移します。
 微:本当はネタがなくなったんだろ? 連載漫画なら読者投票で主役変更はあり得るけど。
 苦:触れないで欲しかったですが、そうです。アッシジのフランチェスコ(1181~1226年)は、悔悛と神の国を説き、中世イタリアの最も著名な聖人の一人で、シエナのカタリナと共にイタリアの守護聖人であります。意味は「フランスから来た人」で、それまで人名としては少なかったんです。
 微:GHQの占領まで「譲次」「健」がなかったようなもんだな。
 苦:アッシジのフランチェスコはイタリア映画の題材になり、1972年の映画『ブラザーサン・シスタームーン』は彼と弟子たちの青春群像的な映画です。
 微:途中で後ろ向きのアキラ100%が登場するやつだな。
 苦:「一切の富を拒否します」っていう理想を両親の前で示すクライマックスだよ! 織物業を営む裕福な家庭に生まれたフランチェスコは対ペルージャ戦争に参加しますが、捕虜になり、病気にかかります。1206年頃から回心が始まり、家を出てハンセン病患者に奉仕し始めました。
 微:本当はスタン・ハンセンのファンだったそうです。
 苦:映画でも再現されてますが、荒れ果てた聖ダミアノ聖堂の修復を行いました。フランチェスコ会則は当時の主流であるベネディクト会則とはまったく異なり、会士は従順・清貧・貞潔に生きました。
 微:ううっ、まさに将軍様を除いた北朝鮮の人たちじゃないか。あそこは教団国家だったのか。
 苦:小さな修道会が異端の誕生と拡大の温床となります。多くの信仰覚醒運動が弾圧されますが、フランチェスコ会は例外的に発展しました。しばしば“清貧”が強調されますが、それは後代の再解釈で、彼本人は種々の徳の一つとして貧を愛したに過ぎません。財産を否定するあまり、金持ちを全員焼き殺そうとした同時代のドルティーノ派は異端として撲滅されました。理想と狂信は紙一重なのです。
 微:郵政民営化が理想で、靖国神社公式参拝が狂信だった小泉を思い出したぜ。
 苦:フランチェスコの普遍的精神をよく表しているのは、有名な「太陽の歌」で、そこでは太陽・月・風・水・火・空気・大地を「兄弟姉妹」として主への賛美に参加させています。それが映画のタイトルの由来です。彼は自然を人間が利用すべきものと理解するキリスト教徒には珍しいほど自然と一体化した聖人として国や教派を超えて世界中の人から愛されています。
 微:小鳥相手に説教もしてるしな。今の日本にフランチェスコが現れたら、間違いなく救急車で運ばれるぞ。自作詩集を公園で売ってるオジサンとか、犬としか会話できないネエチャンとかと紙一重だよな。
 苦:なお、フランチェスコ会は男子修道者の会である第1会(フランチェスコ会)、女子修道者の第2会(クララ会)、在俗者の第3会(在世会など)に分類され、更にこれらも現在はそれぞれが複数の会に分かれています。1223年の認可から20年ほどで、ドミニコ会に倣った各地の管区に大幅な裁量を認める分権的な組織体制が取られたためです。
 微:怒られるかもしれないけど、クララ会って、不自由な女子の団体みたいだな。
 苦:アニメの見過ぎです。フランチェスコ会の活動の中心は説教活動でしたが、異端との対決から神学的知識が必要とされました。教皇庁も異端撲滅への貢献を同会に期待しており、ドミニコ会同様に次第に聖書研究や神学教育が盛んになりました。これが映画『薔薇の名前』の背景です。
 微:ロジャー=ベーコン路線だな。
 苦:おお、久々のタメになる返し! しかし本来の清貧運動も教皇庁の財産攻撃に向かうと異端とされかねません。しかも神学研究が古代ギリシア哲学、特にアリストテレス哲学のカテゴリー論に及ぶと「原罪」の観念が否定されてしまいかねません。この角度からも異端扱いされる危険がありました。
 微:まじめにやったために、あちこちに敵を作ってしまった鳩山由紀夫みたいなもんか。
 苦:一度異端審問で死にかけた学求派のフランチェスコ会士を主人公にし、中世における信仰と理性の相克を描いたのがさっきのウンベルト=エーコ原作『薔薇の名前』です。
 微:ああ、完読率5%と言われた2巻本だな。
 苦:出てくる人名、地名の含意を理解するのには莫大な知識が必要です。理解できる人は、知に淫するグノーシス主義という名の異端と紙一重になる、という重層的な構造の小説です。さすが記号論の人。
 微:オレは『パルプ・フィクション』で、タランティーノのマクドナルドへのオマージュを理解できたぜ。特に”テリヤキドーナッツ”に。
 苦:誰でもできるんだろ! オタクは貧乏時代から抜け出せねえんだよ、いつまでも。(チャンチャン)

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