食べもねんたる34

世を忍びお天道さんを忍びて己が本心をも忍ぶ。
 これぞ男の道だよ忍者道だよ。やっぱ忍者は最高だ!
 そう思って「真の忍者を育てるのだ!」と志抱き、忍者学校を開設したまでは良かった。
 でもちょっと経営のこと考えてお上品さを出して「おしのび養成学校」と名付けたのがどうやらまずかった。
 どうにもこうにもまずかった。

『おしのび』の文字が悪かった。
「ああこれは、VIPに世の中の世知辛さをほんのちょっと覗き見さしてくれる学校だな」と誤解された。
 いや誤解と言うか、文字解釈的にはそちらの方が正しい。
 正しいんだが違うだろ。
 日本中というか世界中からVIPの数々が、ここ信楽の地に集まってくるのは。
 超財閥のご令嬢やら、悪のフィクサーの隠し子やら、科学が間違って生み出してしまった人間型生物兵器やら、
「何かあったら世界が終わる」肩書をものする子たちを預けられて、もう無理1人でキャパオーバーでござる。
 いや違う。一人でもキャパオーバーだった。
 おなかいっぱいでござる。どんぶり飯をライス大の大皿に乗せて半チャーハン付きます、おかわり出来ますと言われても困るでござる。
 
 まあそれはどうあれ、それがしに出来ることはただ一つ。
 忍の文化を伝えるのでござる。っていうか、自分が忍ぶ。
 こいつら全員卒業して去って、地味な片田舎の忍者学校に戻せる日まで大過なく日々を過ごすでござる。
 そうした拙者の日常を皆さんにちょっと見てもらおう。LET’Sでござる。

「今日はね、苦無という武器を紹介するよ」

 拙者は通販番組のように両手で包むように刃物を掲げ持って説明をはじめる。
 ちなみに口述する際は、決してござらない。
 何かどこかでややこしい事態と引っかかりを作りたくないからだ。もったりした標準語を心がける。
 本来なら刃物も表に出したくはない。
 しかし忍者学校を標榜する以上、なんにも出さない訳にもいかないのでやむを得ず!なのだ。
 なにも出さないのもどこかにややこしい事態の引っかかりを作るかもしれない、そいつもまずい。

 ところでちょっと説明するとこの刃物。苦無と書いて『くない』と読む。
 投げ手裏剣の一種で刃の数は1つ。クサビのような形をしている。

「先生。その『くない』という呼び名は、やっぱり『ヤバクナイ?』を語源としてるのでございましょうか?」

 超財閥のご令嬢が右手を上げて質問する。
 この娘は『ギャル文化』に過剰な憧れを持っていて全てをギャルに結びつけようとする。やばい。だが語尾はお嬢様口調だ。

「うーん、惜しい。ほぼ大正解だけど、ほんのちょこっと違うんだよねー」

 深窓のご令嬢の機嫌を損ね、いずこからか投げ手裏剣を遥かに超える光速兵器が額に打ち込まれないようそれがしは盛大にお茶を濁す。

「そうか。苦しみが無くなると書いて苦無。そいつを喉に突きつければこの病気の苦しみも無くなって、世界から争いも消える。素晴らしい名前だね」

 女の子と見紛う小柄で病弱な坊やは悪のフィクサーの隠し子。
 過剰なまでに正義を愛する悲観主義者でめんどくさい。
 ちなみに隠し子であることは献血に行った結果判明したという逸話を持つ。
 献血に変な機能を足さないで欲しいし、病弱なら献血に行かないで欲しかった。

 刃物に伸ばしてくるか細い手を偶然を装ってかわし、ついでに本来の目的たる的への投擲ポーズを取る。
 と、

「プロフェッサー。その尖ったものの使用目的はなんですか?ぶつけて破壊することデスカ?私もなにか破壊すべきデスカ?」

 ああそうだった。心を学ぶ生物兵器がいたんだった。
 こいつを預けに来た御茶ノ水顔の天才博士曰く「こいつの心が破壊衝動に染まれば世界は終わる」とのことだった。
 そんな危険なもん信楽のおじさんに預けに来るなよ。こちとらシャーと叫ぶ猫でも預かる自信ないんだわ。

「違うよ、これは食材を切るためにあるんだよ。とっても便利だね」

 拙者は忍者7つ道具『懐のなんか鉄板』を取り出し包丁替わりにニンジンをトントンして見せる。
 苦無ちっさ!切りにっく!何が便利なもんか。

「あらまたお料理のお話ですの?わたくし『ぷりくら』をお学びしたいですわ」

 出た。お嬢めが。
 しょうがないだろ、忍者稼業は刃物とか投網しか商売道具がないんだから。安全に事を運ぶためには大概クッキングになっちゃうよ。
 もういっそフラッシュに見立てて閃光弾でも使ってみっか。

「ぷりくら・・・発光装置を備えた筐体。私のスタングレネードを使用しますか?破壊シマスカ?」

 駄目だよ、こいつがいたんだった。あの御茶ノ水め!お茶を濁させろよ。

「発光のショックで僕が目の光を失えば、きっと世界は希望の光を取り戻す」

 あんたの目が世界にどんな影響を与えるかは知らないけど、少なくともこっちは命を失うよ!

「俺は旧型ターミネーター。あいつの命を守って世界に希望の光を取り戻す」

 別の人型兵器もいたんだった。こんなところで油売ってないであんたは任務に戻れ。

「それより蹴鞠でおじゃる。蹴鞠でおじゃる」

 今の誰だ?ああ、公家がいたんだった。いや、公家って!


 もう本当にごちゃごちゃしてきて「もう嫌だー」って叫びたくなるタイミングで崖の上に5体の人影が立つ。
 いつも通りだ。
 ポーズと共に爆発の演出。

「ご都合戦隊ラチルンジャー参上!!俺たちの老後に平和をもたらすため、今日こそVIPを残らず誘拐する!」

 めんどくさい奴の相手してたらめんどくさい奴らが追加されて、当然うちのめんどくさい奴らも騒ぎ出す。

「この状況ってギャル辞典で調べると『マジ卍』だそうですわ。でも卍ってなんでございましょう?」

「万など知らん。俺のライバルはT-1000だ」

「卍は薬師如来の足の裏に彫られとる呪文の文字でおじゃるな。足の裏を上手に使ってこその蹴鞠」

「いや、公家て!」

 あ、今のは拙者。

「老後の平和、いい響きだ。僕を誘拐してください!」

「プロフェッサー、目標を破壊シマスカ?」
 
 もう本当にどうでもよくなって目標も世界も破壊してもらおうかって考えだしたその時。
 崖のさらに一段上から誰かが馬で駆け下りてきた。何者かがは
 なんちゃらレンジャーに飛び掛かる。
 秒で蹴散らす。レンジャーが怪人よろしく爆発四散する。
 何者か氏が改めて崖の上で歯を光らせる。

「参上!いやぁ君たち危ないところだったね」

 あー、そうだった。もう一人生徒がいたんだった。
 世界を裏で操ってて数々の財閥を支配下に置いていて生物兵器の研究にも金を出している日本かぶれ。
 暇つぶしにうちに来ている。そして何より腹立つことには、

「ワターシのようなSAMURAIがいる限り、世界に悪は栄えない!VIVA、サンキンコータイ!」

 侍かぶれだと来ている。
 背後にトム的に白い鳩も飛んでるし、ラストサムライにはかなり近い。
 他の生徒たちからSAMURAIコールが起こる。いやいや、忍者学校ですが。

「さーよい子のみんなにはいつも通り『兵糧MESHI』をあげよう。並んで並んで」

 自称サムライは自称『兵糧MESHI』を配り出す。
 イカ飯にお焦げせんべいを乗せた、
 盤面に所狭しと手毬寿司を並べた、
 挙句薄揚げで包もうとした(包めなかった)
 兵糧を絶対知らない代物に皆が歓声を上げる(特に公家は手毬寿司に大喜びだ。鞠ならなんでもいいのか)
 
 いつ見ても『どんぶり飯にライス大の大皿に乗せて半チャーハン付きます』の方がマシだって思う。

 こいつのおかげで拙者の人生ギリギリなんとかなってる。それは確かだ。
 でも心情的には一番最初に本国帰ってほしい。
 この気持ちを忍べる程、拙者男らしくも大人でもないでござる。

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