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飯田圭織バスツアー伝説

あまりに唐突かもしれないが、僕は「飯田圭織バスツアー伝説」の逸話が大好きだ。これはもはやレジェンドともいえるレベルでインターネットでも有名なので、多くの人がご存じだろうが、端的にその内容をまとめておく。

・AKB48よりはるか前に国民的アイドルグループだったモーニング娘。で2代目リーダーとして人気を博していた飯田圭織さんが7年間の活動を終え、2005年、グループを卒業した。

・その2年後の2007年、7月7日、奇しくも7が揃ったこの日にファンにとって待望の再会となるバスツアー「飯田圭織・前田有紀“大人の七夕祭り”日帰りバス旅行」が企画された。

・古参ファンにとっては特に待望のツアーであったはずだが、実施の前日となる7月6日、飯田圭織さんの結婚と妊娠が報じられる。ファンたちは阿鼻叫喚となったが、バスツアー当日はほとんどキャンセルがなく何事もなかったように実施された。

・参加費19000円という日帰りにしては高額なツアーでありながら、昼食のバーベキューにおいては一人につき肉1枚、ソーセージ1本、バナナ1/3本という何かの間違いとしか思えない分量。ちなみに、バナナを一人で2つ食べた参加者がスタッフから「人間失格」と宣言されて怒られたという逸話あり(※追記  この部分はデマである可能性が高いようです)。

・なぜかテーブルに置かれていた「キッコーマンのウーロン茶」がこの事件の代名詞的存在になってしまう。あさま山荘事件で一気に有名になったカップラーメンのごとく、バスツアーといえばキッコーマンのウーロン茶、と言われるまでにのぼりつめる。

・バーベキューもそこそこに、謎のイベント「巨大迷路でクイズ大会」が始まる。

・季節は7月7日、夏の入口、食後に巨大迷路まで歩かされ、異常な気温と湿度、もちろん結婚報道による心労もあったのか、体調不良となるオタが続出。なかには嘔吐するオタも(※追記  この部分は真贋不明です)。

・時間が押していたため、半数以上のオタを巨大迷路に置き去りにしたまま、ミニライブが始まる。(※追記  この部分は真贋不明です)

このような状況にかかわらず、オタたちは強いもので、虚実入り混じった様々な名文が誕生するに至った。以下に引用しておく。

“夜短冊を飾ってたら
ガイドが「七夕は一年に一度織姫様と彦星が会える日なんです」
とかいってさ、ファンの皆さんも飯田さんに会えて良かったですね、なんて言うんだよ
そしたら誰かが急にちいさいこえで「彦星様見つかってよかったねカオリン」なんて言って
みんながざわざわしてから口々におめでとうを言い始めた
俺はそんなこと言えるわけないから下向いて唾飲んでたんだ
どんなバカヤロウがそんな偽善ぬかしてるのかと隣みたらさ
おめでとうとかいってるオッサンがみんな泣いてた
俺も泣いた“


“巨大迷路に向かってリュックを背負ったヲタがぞろぞろと歩いていく様子の画像は哀愁を感じさせるものであった。(飯田の体を気遣い、飯田と前田と一部のスタッフは園内を自動車で移動していた)

実際の当日の天気は特別快晴というわけではなかったが、湿度が異常に高く非常に蒸し暑かったため、体調を悪くしたヲタもいたと思われ、飲みすぎてしまったヲタの中にはリバースした者もいたといわれている。

「人生の迷路」という名言も生まれた。“

“ようやく巨大迷路から抜け出した後はミニライブの会場に向かったが、迷路に閉じ込められたまま置き去りにされたヲタもいたという情報があるが真相は不明。

なお迷路に閉じ込められたヲタは結局帰りのバスに乗ることもできず自力で東京まで戻ったといわれている。

ミニライブのステージは紅白幕をバックにしたあまりにも質素で粗末なものだった。

笹には飯田が「みんながいつでも笑顔でいますように。」と書いた短冊が吊るされていた。

最後の握手会も終わってすべてのイベントを終了し、ヲタを乗せたバスは飯田と前田の周りをまわった後、東京への帰路についた。“

“解散して帰宅の電車に一人で乗った途端に嗚咽してしまった

他の乗客の視線を意識してみっともないとは思ったが涙も泣き声も止まらない

席から立ち上がる気力もなく家の最寄り駅を大分過ぎてから漸く下車した

今だに家に帰る気持ちにはなれずホームのベンチにへたり込んでいる

こんな惨めで虚しくて情けない気持ちになったのは生まれて初めてだ

電車が入線してくる度いっそホームに飛び込もうかとも思ってしまう

帰りのバスの車内では十年間応援し続けてきた人間に対して最後にこの仕打ちは酷過ぎるとも憤ってもいたが今はどうでも良い

本当にもう何もかもどうでも良い“

とくに最後の文章がすさまじく、人間ってここまでの文章が書けるんだと恐怖すら感じる。ここまで何もない、がらんどうみたいな気持ちを表現できる文章ってそうそうない。特に「本当にもう何もかもどうでも良い」が深い余韻を残していてすさまじい。たぶん僕が10年文章を書き続けたとしても、この境地に達することはできない。

さて、こうして大きな伝説を残した飯田圭織バスツアーだが、その後も何らかのバスツアーが話題に出るたびにたびたび槍玉にあがる存在となった。けれども、実はこの話には続きがあって、実はあれから10年以上経過した今でも、七夕となると当時の参加者たちが惨劇の現場となった野田清水公園に集結し、バーベキューオフをしているらしい。もちろん、飲み物はキッコーマンのウーロン茶だ。

あれだけの戦禍を潜り抜けた者は一生涯の盟友、ということだろうか。なんともうらやましいものだ。

これを言うと怒る人もいるかもしれないけれども、誤解を恐れずに言ってしまうと、さすがに巨大迷路嘔吐置き去りや、肉1枚バーベキューはひどすぎると思うが、バスツアー前日に結婚報道自体は、そこまで大きな問題ではないと思う。

僕は常々、アイドルとは疑似的な恋愛を提供してくれる存在だと思っている。好きなアイドルを応援し、喜び、一緒に感動する。それはやはり恋愛に近いものなのかもしれない。

そうなると、やはり恋愛とはうまくいくことばかりではない。むしろ、失恋や、別れ、そういった悲しいケースの方が多いんじゃないだろうか。

それを考えると、アイドルを疑似恋愛ととらえた場合、きちんと失恋や別れを経験させてくれるアイドルこそが真っ当だと考えることもできるのだ。

だから、当人にとってはたまったもんじゃないけど、こういった熱愛発覚で阿鼻叫喚となるオタたちを観ていると、ちょっとした羨ましさを感じる。

そこまで熱狂して好きになれることも、傷つくことも、羨ましい。いい恋をしている友人を羨ましく思うのに似ているのかもしれない。本人にとったらたまったものじゃないと思うけど。

ただ、こうして「いいじゃん、失恋みたいで」なんて呑気なことを言えるのはやはり距離が遠いからだと思う。飯田圭織さんのバスツアーの伝説もやはりインターネットの中のお話で、その逸話のいくつかも虚実が入り混じっているのだと思う。ぜんぜん遠い世界のお話だから呑気なことが言えるのだ。

そう、こういった衝撃のバスツアーは遠い世界のお話であるはずだった。無関係な別世界のお話であるはずだった。あの瞬間までは。

ある年の冬の出来事だった。僕らはバスを借り切って温泉に向かっていた。これは僕の周りの人々の恒例行事になりつつあるのだけど、30人ぐらいが集まってバスに乗って温泉地に行こうというものだ。

イメージとしては社員旅行に近いのだけど、社員旅行だと上司や同僚とかに囲まれていてあまり楽しくなので、いつもの仲間と社員旅行みたいなことをしたら楽しいんじゃないか、というコンセプトだ。

ちょっと名前を出すわけにはいかないが、そこに今を時めく人気Webライターの〇ッピー氏も友人として参加してくれていた。

〇ッピー氏はバスに乗り込むと、買ってきた弁当を平らげながら、仮想通貨で大損した隣の席の知人をひたすらバカにし始めた。それからしばらくして、〇ッピー氏はバスの中からこんなツイートをする。

いきなりストロングゼロ飲みまくるようなやばいバスツアーだぜ、という揶揄を込めたツイートだ。現に、僕はストロングゼロを飲みすぎて途中でおしっこが我慢できなくなり、何度かバスを止めている。死の予感がするバスツアーという表現は正しい。けれどもこの表現が大きなうねりを生み出した。

しばらくして、なぜか〇ッピー氏が炎上していた。バスに乗っているだけで炎上するのはこの男くらいである。

何が起こったのか分からなくてバスの中が騒然とした。ただみんながスマホを駆使して情報収集をした結果、だいたいの全体像が見えてきた。

どうやら、とある舞台俳優が彼女らしき女性といちゃいちゃしている写真が流出してしまったようなのだ。最悪なことにその流出のタイミングで、その舞台俳優と「恋人気分で」と題したバスツアーが実施されてしまった。多くの参加者はその流出を知りながらバスツアーに参加するしかなかった。どこかで聞いた話である。

悪かったのはその地獄のバスツアーと同じ日、同じタイミングで、影響力のある人気Webライターヨッ〇ー氏が件のツイートをしてしまったことである。もう一度前述のツイートを、今度は推しの熱愛が発覚してそのバスツアーに参加してピリピリしている気持ちで読んでみて欲しい。

まるで人気Webライターがピリピリしているバスツアーをネタにしたろうと潜入したようにも見える。っていうか、後から知ったのだけど、向こうのバスツアーは参加者が全員女性だったので、ヨッピーみたいなでかいおっさんが紛れ込んでいたら一発でばれる。普通はあり得ないのにそれでもそう思ってしまうピリピリさがあったんだと思う。

「いやあすごい偶然ってあるもんだね」

こちらのバスの中はそんな話題で持ちきりだった。同じ日、同じ時間帯、そしてバスツアー、しかも行き先の温泉地まで同じだった。

「バスに乗るだけで炎上する男」と煽りつつ、みんなで仮想通貨で大損した友人をバカにしながら、宿泊するホテルに到着した。そこでここまでの偶然はほんの序章でしかなかったことをしる。

ホテルのロビーに到着すると、そこには若い女性がたくさんいた。そして、何か書かれたホワイトボードがロビー中央に置かれている。

「〇〇さんとツーショット撮影は何時から。〇〇さんお部屋訪問は何時から」

そんなことが書いてある。

「これってもしかして、恋人気分バスツアーじゃないの」

「ホテルまで同じやないけー!」

こんな偶然ってあるか。ガチで俺たち全員が結託してツアーごと潜入したみたいになってるじゃないか。

ただやっぱり、ロビーにいた参加者の皆さんは沈痛な感じでしたよ。それは「失恋を味わえていいじゃん」なんてのが何も知らないバカのセリフですよ。そりゃそうだ、決して安くない金を払ってこんな目に遭うんじゃたまったものじゃないですよ。

熱愛写真流出後に、恋人気分でツーショット、お部屋訪問、そこでどんな地獄が展開されたのか僕らは知る由もありません。けれども、なぜかヨッピーがホテル前のコンビニのストロングゼロを買い占めて配布するという訳の分からないことをやっていました。

ファンの方たちの何人かがゲハゲハ笑いながらストロングゼロを持っていくので、僕は愚かだったので失恋できていいじゃんとかバカなこと言ってたし、推しのバスツアーに参加する気持ちもわかりません。でも、あなたが手にしているそのストロングゼロは本当に救いですよ。しっかりと飲んでくださいと祈ることしかできませんでした。

こうして偶然と偶然が交錯する温泉宿での夜が更け、次の日の朝食では、ウーロン茶のペットボトルが出されたのですが、それが普通のウーロン茶で、これがキッコーマンの謎ウーロン茶だったら偶然として完璧だったのになあ、と思いました。




参考資料 https://togetter.com/li/1198085

※追記を行いました




(ひとりNIKKI SONIC 2020 No.11 Numeri pato)