見出し画像

散文詩📖「往生日の出遭い際」

📝まえがき

一人の❝誕生日めぐって、前々から氣にかけている人々と、
誕生日という情報を当日に知った周囲の人々とでは、
本人も予期しない動向の違いがあるのでしょう。
筆者自身が、誕生日の前日に一部直面しながら予感した情景を綴りました。
完成版としては短縮する余地が大いにありますが、一通り表してみたものです。


売り物の消費期限は 買い物客と暦を共に刻む
曰く付きの日付に重なり 数字が滲んで見える
ふと目を遣った脇に 見過ごすどころか目立つ不思議

行き慣れた商店に 見慣れた商品でも
客足の重力から解かれた 閉店後の一夜干しで
早回しに宙返り 素知らぬ世代交代劇を経てゆく 

ちょうど自分の誕生日が 街中で表示され始め
少し名立たる氣分になるけれど
その日限りで 売れ残りは棄てられゆく
命日の縁日でもある
せめて次の卸し先が見つかればと
次第に自分が浅く振り撒いた縁故も氣にかける

天氣予報が何であれ きっと当日は晴れやかに
疎遠な誰かの一覧表で 無自覚に躍り立っては
無言で祝われたのち 連絡先ごと霧散する日だ

去り際を目がける出会い頭は 視界の外にも興り
ふと目を遣らぬ隙に 見過ごし離別しゆく不思議
早回しに一日で 素知らぬ交際遍歴が書き加わる 

次に落ち合う心当たりもなければ
いつ出会った思い当たりすらなくなっても
一緒に過ごしたほかの仲間を通じて
ほのかな思い出が残っていれば構わない
情報を消去した空欄は 次なる出会いの仕入れ先 
浮かばれず浮遊する名前を 自身が守り抜く相容れ時

ちょうど自分の誕生日に街角が賑わいに溢れ
少し名立たる氣分もそっちのけ
待望でもない新作も発売日は一つの記念
数字目当ての希望の卸し売り 
例年届く割引券の山彦 同じ月日に還らない年齢が 
余計に時の経過を告げる 

新世紀や新元号に劣らじと
氣にかける旧知の誕生日も
自分が時代に生まれたような
時代が自分に生まれたような 
まさに往生のような終わりと始まりに
目の前で立ち会い合わせたのだと思う

修める先の鑑 収まる元の鞘
個々の修業の入出荷に分かたれる刃と峰

学年の周期が物心を巣立たせる後も
羽ばたく時代や世代が名を変えては
定期的に数える元年や同い年
共に若返ろうと試みる頃には
向こうの世界が手招く晩年だろうから
今日この自分だけの年越しに改まる

一地点足りとも歪まず出遅れず
平等な時空が去来し往く相中で













この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?