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宇宙杯参加!〜桜の樹の下で〜

「この桜の樹の下には屍体が埋まっているのです。屍体の血を吸収することで美しい花の色となり、人々を惹きつけるのです。」

舞う桜の花びらに身を包んだ美しい女だった。

「旅のお方、あまり長居されぬよう。古い、古い桜でございます。徐々に花の色が薄くなってきており、新しい獲物を求めていたとしても不思議ではございませぬ。」

そう云い、女は微笑み去っていった。

ーー何を。
どういうことだ?

  ***
 宿に着くと中居が女将の不在を謝罪し、部屋へと案内し、茶請けの準備をしてくれる。
「お客さん、運がよろしいことで。丁度今日、桜が満開となったんですよ。なんせ老桜でございますから、三日も持たず散ってしまいます。今年は早く咲いてしまい、稼ぎ時というのに、閑古鳥が鳴いてしまいそうですよ。まぁ、こればかりは自然の理。趣や風情と思って楽しんでもらえたら良いんですがねぇ。」
中居は客がいないためか、もともとの性格か、良く話す。時間があるなら、暇つぶしに付き合ってくれぬかと、茶を勧める。中居はお客さんの要望なら仕方がないですよねぇ、と嬉しそうに自分の茶を入れる。
「見事というか立派というか、言葉では表せないほど素晴らしい桜でした。しかしおかしな話も聞きました。この桜の樹の下に屍体が埋まっていると。」
中居に先ほどあったことを話す。
「客引きのために屍体が埋まっているなんて噂を流している不届き者がいるんですわ。全くそんな噂流さなくても立派な桜だというのに。でもおかしいですねぇ。もう若い者は屍体が埋まっていることまでしか知らないし、口にもしません。うーん、その女性は何者でしょうねぇ。」
中居は顔をしかめる。
「貴方もお若い。なのに詳しそうだ。」
「ありゃ、お客さん、口が上手い。」
「今、女将が不在な理由もその桜のことなんですわ。文明開化のこのご時世ってのにまだ老人たちはそんな迷信を信じている。今年はいつもより花の色が薄い。でもそれは普通に考えりゃ早咲きだったからでしょう。それなのに新しい屍体を埋めないと桜が枯れてしまう、祟りが起こる、と馬鹿なことを云っているんですわ。全く馬鹿な話を真面目にしているんですから、困ったもんですよぉ。」
中居の口調がやや馴れ馴れしくなってきている。誰かに話したかったのであろう。しかし村の人間に話すことは出来ぬ。
「屍体を埋めるって、生きた人間を?」
中居は噴き出した。
「アハハ、お客さんもまだ文明開化されていないご様子ですねぇ。屍体と云っても亡くなった人を埋めるという話のようですよ。小さな村とはいえ、このご時世に祟りだからと人を殺しちゃ、手が後ろに回る。」
中居は再度お茶を自分で注ぎ、笑いながら一口飲んだところ真面目な顔をした。
「でもお客さん、もし本当に樹の下に屍体があるならば、新しい屍体をそこに埋めるなんて、もともとそこで眠っていた人にとっちゃァ、迷惑以外の何物でもない。知らない人間が急に同じ墓に入ってきたようなもんでしょう?その方が罰当たりで祟られそうだと思いやしませんか?何故誰もそう思わないのかアタシは不思議で仕方がない。」
この中居は聡明だ。迷信や祟りを簡単に切り捨てず、共存という考え、これが文明開化の良き新しい風なのだろう。
「そのことはご老人や女将さんにお伝えは?」
「老人たちは女の戯言とアタシの話も、女将の言葉も聞きゃしませんよ。全く頭が固いったらありゃしない。一度叩いてみたいところですがぽっくり逝かれちゃ困りますからねぇ。」
そう云って中居は笑っていると、下から中居を呼ぶ声がした。
「おっと、長居し過ぎてしまいました。今話したことはご内密にお願いします、老人たちの耳に入ると面倒なことになりますから。」
面倒なことを疎いながらも話してしまう矛盾した行動の中居を内心で微笑ましく思う。
「えぇ、もちろん。お忙しい中お付き合いいただき、ありがとうございました。」
男は窓から桜を眺めた。

丑三つ時、男は黒い着流しを羽織り、桜の樹の下に立つ。
「お待ちしておりました。」
足音もせず、背後から昼間の女性が歩み寄る。変わらず、桜の花びらを身にまとっている。
「何故昼間は嘘をつかれたのですか?貴方は獲物など求めていない。」
「妾の口から云わせるのですか?お優しい方かと思っておりましたが、残酷なお方。」
「勘違いしております。私は貴方を祓いにきたのではございませぬ。」
女は悲しい顔をした。
「妾はここに生き埋めされ、その後何百年も人間の欲に利用され、もう疲れました。祓ってくださいまし。それが私の望みでございます。」
「もうここに留まるのはやめませぬか?貴方にはもうここにいる理由はない。もう恨んでいないのでしょう?貴方を連れ出すために私はここに来たのです。」
「妾を連れ出す方法を本当にご存じなら、そのような馬鹿げたお話しは信じられませぬ。」
「やはり覚えておられぬか。私が幼き頃、貴方に助けられたのです。あの出会いで私は決めました。あれから二十年。貴方のことを調べ、貴方を助ける方法を探しました。新しい世界で私と共に過ごしましょう。」
「もしや貴方はまだ簡単な術しか使えず、妖怪にからかわれていたあのときの子供ですか?」
「えぇ、そうです。あのとき私は貴方に魅入られました。あぁ、それと今回は別の話でございますよ。私は自分の意思で貴方と共にいたい。そして妖怪よりも人間の方が怖いものです。」
男は笑い、女に手を差し伸べる。女は少し戸惑いながらも男の手を取る。

 男は呪を唱えると桜の花びらがさらに激しく舞い踊るが、男は迷いなくしっかりとした足取りで女と進んでいった。

 翌日桜は散り果て
「我に関与した者に祟りあり」
と一枚の紙が桜の根元におかれていた。人々はそれに従い、翌年以降は今まで以上に見事に花を咲かし続け、人々を魅了し続けた。

桜舞い異界と現世繋ぐ道
桜散り情緒か見切り何方哉どちらかな
桜散る生き急ぐさま重ねたり

【あとがき】
 宇宙杯参加すると決めていましたが、やっと今日の午後から手が空いたので、珍しくいつもはスマホがPCを開きガチモード(笑)でも物語に無駄が多いし、伏線はれてないけど(泣)
「この桜の樹の下には屍体が埋まっている」を含めた話は大分前から書く気でいて、桜=春の季語=それしか思いつかん!と本来この話はかなりこだわるつもりが、ペラペラ…深堀したくても宇宙杯でこれ以上長くしたくないしで、書いててもどの終わりにするか決められず、とりあえずこれにしたので、今度リベンジすれば良いやーと、物語に3時間、俳句に4時間と完全に今集中力切れ、完全にもういいやーとなりました笑
 毎回テーマ決めてますが、今回は凝ったことは出来ん!と桜三句縛りで良い!と自分で自分を説得。やっぱり俳句難しい。自己点数は3点…参加することに意義がある!次こそ!という気持ちで良し!絶対次も同じこと言いそうだ(笑)

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