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2022.12.20 坂本慎太郎@ZeppNamba を観てきて思うこと

先日、坂本慎太郎(以下、坂本さん)のバンド形態のワンマンライブを観てきた。
今回観たのは、6月に出た通算4枚目のアルバム『物語のように(Like A Fable)』のリリースツアーの振替公演であった。本来ならば11月15日(火)の開催だったのだが、バンドメンバーに新型コロナウイルスの陽性が確認されたとのことで12月20日(火)に延期されたのだった。

ゆらゆら帝国時代からライブチケットの入手が困難だったが、ソロでライブを開催するようになったのが2018年のことで(ソロ活動は2011年からで、既に3枚のアルバムが出ていた)ファン待望だったようで、さらにチケット入手が難しくなっていた感があった。
自分はソロでのライブを2回観ているが、どちらもフェスの出演で長くて1時間ほどだったので、初めて観るフルサイズでのライブがとても楽しみであった。

今回は友人のギタリストがツアーがあると教えてくれて、スマホで発売日の夜にアクセスすると既に「残数わずか」になっていた(2階席は売り切れていたと思う)ので、すぐに購入手続きをした。今回何とか購入できたのは、会場が大きめだったことと平日だったこと、そしてやはりコロナ禍だったことも影響しているのだろう。


社会人にやさしい時間設定(19時開場・20時開演)だったので、仕事が終わって戸締まりもしてから自転車で地元に戻って電車に乗った。着いた時すでに開演20分前だったけど、まだ会場の外にはたくさん人がいた。当日券の人も多かったようだ。僕のチケットの整理番号はかなり後ろだったけど、ちょうど呼ばれたところだったので待たずに入場できた。

入って物販コーナーを見つけたが、既にTシャツは完売していた(泣)
Tシャツは人気アイテムで(というかグッズがこれしかない)これもチケットと同じく入手困難なのである。会場で着て歩いている人を見た(寒いのにわざわざ上着の前を開けて見せびらかしてたのかな)時は少しムカッとした(笑)
友人によると夕方に先行販売があったと(チェックしていなかった…)。ただしそこでも欲しかったLサイズは売切れててXLにしたとか。そう、友人は先に行ってたので頼めば良かったな…けど見て自分で買いたかったのである。

気を取り直して入場する。決してギュウギュウではないが、少なくもない。
メンバー全員が見渡せるように中列の真ん中くらいの位置に行って開場を待った。開演前のBGMは、坂本さんが以前アルファ・ステーション(FM京都)で担当されていた「FLAG RADIO」のように坂本さん自身が選曲されていたようだ。
そしてバンドが登場!
「どうも、こんばんは」
と短い挨拶の後、演奏が始まった。

踊るに踊れない1曲目、ダークで美しい2曲目、聴き入るしかなく立ち尽くす観客。
そして曲が終わると拍手と共にところどころで歓声が上がる。みんな待っていたのだ。
そしてゆっくり踊れる3曲目、しかし歌詞がほんと独特である。

サウンド面で言えば、大人の世界というか。ロックというよりソウル・ファンク。そこに少し懐かしい感じのメロディが乗る。キャバレーとかが似合う感じ(実際、そういった会場でもよくライブをされている)。
だけど、歌詞は色恋ではなく人間関係や社会に感じる違和感などが、時にリアルに時に寓話っぽくユーモラスに描かれる。そういったところが深い共感を呼ぶのだろう。

中盤は新譜『物語のように(Like A Fable)』の曲が連続して演奏された。
新譜の曲はサブスクで配信されてすぐの頃、夜中眠れなかった時に初めて聴いた。歌詞のテーマは「死」や「別れ」などが描かれているものも多い。コロナ禍の閉塞感、疲労感などが感じられる部分もあるが、サウンド的には明るいトーンのものが目立つ。
「悲しい用事」はカラッと軽快な曲で、続く「スター」という曲は対照的にスローで、特に心にじーんと来た。どちらもいなくなった人に思いを馳せた曲である。
続く「浮草」は、先に書いた人間関係の違和感のようなものが歌われている。みんなが同じ方向を向いていることに対して、周りと違って違う方を見ていても浮いていてもいいんだと肯定されている気がする。同様のテーマはゆらゆら帝国時代からあったが、ここまで気負いなくストレートに歌うようになったんだなと感じ入った。

終盤には過去作の人気曲が演奏された。
バンドメンバーを紹介しておくと、ギター・ボーカルの坂本さん、ベースのAYAさん、ドラムの菅沼さん、サックスの西内さんの4人である。坂本慎太郎バンドと呼ばれているようだ。
セカンドアルバム『ナマで踊ろう』のレコーディングでこの四人が揃うのだが、それまでライブに積極的でなかった坂本さんが、このメンバーなら…と思えたのがうなづける絶妙な布陣だと思う。

サックスの西内さんは曲によってはフルートやハーモニカ、パーカッション、音の出るおもちゃ?などを使って曲に様々な彩りを加えていた。もちろん「仮面をはずさないで」等いくつかの曲で熱の入ったサックスソロを聴かせてくれた。去年還暦を迎えられてバンドで最年長と思われる。少し強面ながらどことなくユーモラスで、ムードメーカーという感じがする。
菅沼さんは今回もシンバルはハイハットとライドのみで、クラッシュは不使用(坂本さんのリクエストだと思う)。かのルー・リードもVelvet underground時代に、ギターのハイトーンを邪魔するという理由でシンバルを多用しないようドラムのモーリン・タッカーに指示していたらしい。AYAさんと共にコーラスも務めつつ、タイトでまとまりのあるドラムでサウンドを締めていた。
ベースのAYAさんはバイオリンベースで温かい音色を奏でながら、可憐なコーラス(曲によってはずっとハモったり)をバッチリ決めていた。上品な色気があって、ライブ中半分くらいAyaさんを見ていたと思う(笑)

坂本さんのギターはゆら帝時代のロック的なものと少し違う響きのジャズ的なもので、変わった押さえ方をしていたと友人は言っていた。ギブソンSGの甘い音色で奏でられるリフやカッティングが気持ちいい。ボーカルも独特の色気のある高音からユーモラスなハナモゲラ語?まで表現の幅が広い。
長めのソロパートやアウトロには音源にない盛り上がりがあった。これがライブの醍醐味ってやつですよ。

本編ラスト「ディスコって」の後、メンバー紹介がされ、その場で「アンコールありがとうございます」とアンコールが始まる(笑)
坂本さん自身のアニメーションによるMVも制作された「ある日のこと」はキーがCから2音ほど上に変更されて、少しイメージが変わっていた。坂本さんの1オクターブ上をAYAさんが歌ってたんだけど、キーきつくないのかな…。
そしてアルバムタイトル曲「物語のように」。昭和の歌謡曲のように馴染みの良いメロディーと温かいサウンド、魅惑的なコーラス、サックスの音色で何とも言えない多幸感に満たされて公演は終了した。
時間にして1時間半ほど。ワンマンにしては少し短めかもしれないが、人間の集中力が保てるのはこのくらいという話もあるし、ちょうどいい感じがした。長いのもありがたいけど、足腰に負担があるので(笑)

ライブが終わって、前の方に行ってバンドの機材を間近に見た。菅沼さんのドラムセットは結構小ぶりなもので、このバンドに合わせて選ばれたのだろうなと思った。そして友人と合流。彼は「坂本さんのアンプ、〇〇やったわ!」と興味深そうに言っていた。彼の先輩のギタリスト(僕も顔見知り)も奥さんと観に来ているとの事で、皆で感想を話したりしながら駅まで歩いた(この時はもう夜22時近く、明日も仕事だったのでそのまま解散)。こういうのも楽しかった。

ここで、ライブの内容以外で少し気になったことを。

ライブの最中、前にいた客がスマホを取り出して写真や動画を撮っていたのだ。そういう人は見る限りほとんどいなかったが、その客は二度三度スマホを取り出し、曲の最中にもスマホをいじったりしていた。
ライブ中に視界に入るとライブに集中できなくなるし、決して気分の良いものではない。かと言ってむやみに場所を移動できない。他の観客に迷惑であるということをこういう人たちにはわかってもらいたい。

そしてなかなかTシャツを入手できないという事も書いたが、メルカリやオークションサイトで高値で出されていたりするので、転売屋が買っているのかもしれない。こういった状況が改善されてほしいので、いくら欲しくてもこういう所で買わないでほしい。僕は定価でしか買わない。

(ライブ中にあまりネガティブなことを考えたくないので書かせてもらいました。)


坂本さんの曲には恋愛を歌った歌詞はあまりない。では何が歌詞のテーマになっているのかと言うと生きること、生きる上で感じることである。

ともだち100人できるかな、という歌があったように、昔から社交的である事や前向きである事が良しとされてきた。その方が生きるのが楽だという考え(処世術)なのかもしれないし、ある程度の協調性は必要だとは思う。
社交的と言えない僕は友達を作るのが苦手だったので、そういった風潮に苦しむ事があったが、内心では数なんてどうでもいいし付き合いの深い友達が何人かいればいいんだと思っていた。
ゆらゆら帝国の頃から彼の描く歌詞の中には友達なんて少なくていい、と言った意味合いのものがいくつか見られる。坂本さんのこういった歌詞をみて「これで良かったんだ」と思うことができた。
子供時代が終わってもSNS上でフォロワーの数やいいね!の数が気になったりそれに疲れたり、やたらに前向きなポジティブな言葉を聞かされるとしんどくなったりする。そういった部分に共感する人が坂本さんの音楽を聴くのかなと思ったりした。


今年出た新譜は前作のアルバムから6年のインターバルがあった。その間に出されたEPはコロナ禍の影響の強いものであったが、新譜には入っていない。
今後世の中がどうなっていくのか、そしてそれをどう坂本さんが描くのかも気になるところである。

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