【司法研修所起案対策】民裁起案3(事実認定)

5 設問4(事実認定)

(1) 設問の概要

請求が認められるか否かの結論を解答した上,理由を説明する問題である。

請求が認められるか否かの結論は,起案要領に「全部認められる」「一部認められる」「認められない」などの選択肢が書いてあるので,その中から選んで記載する。

理由の説明では,請求原因事実のうち,設問3で争点であると解答した要件事実につき事実認定をして,請求原因事実が全部認められるかどうかを検討し,請求原因事実が全部認められるのであれば,次に抗弁以下について同様に検討し,結論を出すことになる。

なお,二回試験の事実認定の問題では,請求原因事実についてのみ認められるか否か解答するよう指示があった。この場合,抗弁以下を書いても点にならないので,注意が必要である。

(2) 理由の説明部分の解答の考え方

ア 争点の分析

複数の請求原因事実のうち,まとめて検討すべきものがあれば,「争点の分析」を書くことが推奨されている。具体的には,請求原因事実として「賃貸借契約の締結」と「基づく引渡し」があり,両方とも被告が否認して争点となっている場合,「後者を否認しているのは前者を否認しているからだ」と理由を述べて,「賃貸借契約の締結」が認められれば「基づく引渡し」も容易に認められる,と宣言するようなことである。

とはいうものの,この「争点の分析」は加点要素のようであり,無理に項目を設ける必要はないと思う。「基づく引渡し」の有無を検討する項目で,「上記のとおり,賃貸借契約の締結は認められることからすると,この間接事実から基づく引渡しがあったことが強く推認される」というように書けばよいだけである。

イ 要件事実の事実認定

各要件事実が認められるかの部分の記載は,私見では、「直接証拠・判断枠組みに関する規定演技」,「間接事実の検討による実質的結論」,「判断枠組みに沿った表現による結論の記載」からなる。

(ア)「直接証拠・判断枠組みに関する規定演技」・「判断枠組みに沿った表現による結論の記載」

まず,「事例で考える民事事実認定」49ページの4つの判断枠組みのどれに当たるかを検討し,どのように結論を出すのかを宣言する。その際,第何類型であるということを明示的に言うか,それとも中身を書くだけにするかは好みであると思う。宣言の仕方の具体例は以下のとおりである。

①第1類型(直接証拠である類型的信用文書があり,その成立に争いがない場合)で,かつ,処分証書に当たり特段の事情の検討を要しないパターン

例えば,以下のような記載(適当)になる。
「この賃貸借契約については,甲1という,XY間で賃貸借契約が締結されたのでなければ通常作成されない直接証拠たる類型的信用文書があり,甲1の成立には争いがない。そして,Yは賃貸借契約の締結を否認しているが,甲1は,これによりX・Yが賃貸借契約締結の意思表示をした文書,つまり処分証書といえ,処分証書であることについてYも具体的に争っていないから,特段の事情の検討を要することなく,XY間の賃貸借契約の成立が認められる。」

②第1類型(直接証拠である類型的信用文書があり,その成立に争いがない場合)で,処分証書に当たらず(類型的信用文書だが報告文書),間接事実の検討を要するパターン

例えば,以下のような記載(適当)になる。
「本件貸付について,Yは金銭交付を否認しているところ,甲1(領収書)という,XがYに●●万円を交付したのでなければ通常作成されない直接証拠たる類型的信用文書があり,甲1の成立には争いがない。そこで,成立に争いのない類型的信用文書があるにもかかわらず記載通りの事実が認められない特段の事情があるかにつき,間接事実を総合して検討し判断する。」

③第2類型(直接証拠である類型的信用文書があり,その成立に争いがある場合)

例えば,以下のような記載(適当)になる。
「Yは,本件貸付につき●●万円の交付を受けたことを否認している。もっとも,甲1(領収書)は,Yが●●万円の交付を平成●●年●●月●●日に受けたことを認める文書といえ,直接証拠に当たり,かつ,記載や体裁から見て類型的信用文書に当たる。甲1につき,Yは印影が自己の印章によるものであることは認めるが,押印した覚えはないと主張していて,成立に争いがある。この点,Yの印章による押印からYの意思に基づく押印が事実上推定され(一段目の推定),Yの意思に基づく押印から甲1の真正が推定される(民訴法228条4項,二段目の推定)。そこで,この二段目の推定に対するYの反証が成功するかにつき,間接事実を総合して検討し判断する。」

④第3類型(直接証拠である類型的信用文書はないが,直接証拠である供述証拠がある場合)

例えば,以下のような記載(適当)になる。
「この和解については,書面による合意はなく,口頭による合意であると主張されており,直接証拠たる類型的信用文書はない。Xの甲7(陳述書)第6項(3)エ及びX26が直接証拠たる供述といえ,その信用性につき,間接事実を総合して検討し判断する。」

通常は陳述書と供述の両方に「直接証拠たる供述」があるので,きちんと両方指摘する必要がある。

なお,「事例で考える民事事実認定」51ページの第3類型の「*」で,当事者本人の供述は主張に準じるものと扱って「実質的に」第4類型で判断するという記述があるが,極めてミスリーディングなものである。これを真に受けて,陳述書・尋問調書を無視して第4類型にしてはいけない。あくまで第3類型であることを前提に,実質的には第4類型と同じだと言っているに過ぎない。形式的には第3類型で起案する必要がある。講評では教官が散々言い訳しながら第3類型で書くようにと強調するが,「事例で考える民事事実認定」を改訂した方がよいと思う。

⑤第4類型(直接証拠である類型的信用文書も直接証拠である供述証拠もない場合)

例えば,以下のような記載(適当)になる。
「この和解については,書面による合意はなく,口頭による合意であると主張されており,直接証拠たる類型的信用文書も供述証拠もない。かかる和解合意があったかにつき,間接事実を総合して検討し判断する。」

以上のうち大事なのは,第1類型で処分証書に当たる場合以外は,すべて「●●(特段の事情の有無/Yの反証の成否/X供述の信用性/和解の合意の有無)につき,間接事実を総合して検討し判断する。」と結論付けていることである。判断枠組みがなんであるかにかかわらず,間接事実の総合評価によって「●●につき」結論を出すのである。間接事実の総合評価によって導き出された実質的な結論をもとに,「判断枠組みに沿った表現」により,つまり●●についての結論であるという表現を使って,要件事実の結論を記載する。

例えば,第2類型では,「以上からすると,二段目の推定に対するYの反証が成功したといえるから,●●万円の交付の事実は認められない。」と結ぶ。第3類型では,「以上からするとXの供述は信用できるから,和解契約締結の事実は認められる。」と結ぶ。

なお,例えば第2類型について,Yの印章をXが盗用した可能性等に関する間接事実だけを検討するのが,この点の「反証」というからには正当であり,それ以外の検討は不要なようにも思える。しかし,それは現在の研修所の求める解答ではない。「事例で考える民事事実認定」73・74ページのとおり,研修所は「全事情」を総合考慮して結論を出すことを求めている。判断枠組み如何にかかわらず,実質的な結論を出す間接事実の検討内容は変わらないのである。

以上のような判断枠組みの宣言と「判断枠組みに沿った表現による結論の記載」は,結局は司法研修所の求める規定演技を定石通り行うだけのことである。第1類型の処分証書のパターンを除き,研修所起案という観点からは,どの類型を選ぶかは結論そのものに影響を与えない。選んだ類型を受けて,間接事実による実質的な検討を行い,間接事実の検討結果を受けて「判断枠組みに沿った表現」で結論を記載するだけである。とはいえ,教官は講評で,判断枠組みをきちんと明示するようしつこく求めているので,判断枠組みに関してはコンパクトにどれを選ぶのかを宣言し,結論を「判断枠組みに沿った表現」で書く,ということにつき是非留意してほしい。

なお,以下の京野哲也「『処分証書』概念と『三段の推定』を巡って」では,処分証書・類型的信用文書・二段の推定について詳しく説明されている。引用されている文献は実務修習先の裁判所等に揃っているはずであり,これも読めば,この規定演技の実質的背景・法的意味がよく理解できるはずである。もっとも,そこまで理解していようといまいと,書くことは上記程度で結局変わらない。
http://www.lawschool.tsukuba.ac.jp/wp/wp-content/uploads/2018/02/e7fa58ea7584cb1f962db8b449ba773c.pdf

(イ)「間接事実の検討による実質的結論」

①動かし難い事実のピックアップ

民事事実認定では,動かし難い事実といえる間接事実を認定し,間接事実から要件事実を推認するということになっているようである。なので,動かし難い事実を具体的にどのような作業を経て認定するのかは大事であり,以下説明する。この点については「事例で考える民事事実認定」の58頁以下で基本的なことが説明されている。

なお,そもそも何を動かし難い事実として認定するか(例えば,「Xは男である」という動かし難い事実は認定できるが,意味があるのか。これに通常意味がないとすると,果たしてどういう動かし難い事実に意味があるのか。)は,間接事実から要件事実をどう推認するかということに直結するので,②で触れる。

■争いのない事実

当事者の訴状・答弁書・準備書面等の主張書面で,相手方が認めている事実は,起案で「●●であること(争いなし)」としてピックアップできる。
見つけ方として,主張書面で相手方が認める記載を,消せる蛍光ペンでマークするようにしていた。蛍光ペンでマークした部分は,争いのない事実として使えることになる。

応用的な作業が必要となるものとして,名詞+形容詞に対して形容詞部分を一部認める場合がある。原告が訴状で「W社の代表取締役であるZは,●●した。」と主張し,被告が答弁書で「ZがW社の代表取締役であることは認め,その余は否認する。」と認否する場合には,答弁書の「ZがW社の代表取締役であること」をまずマークするとともに,原告の訴状の「W社の代表取締役であるZ」もマークする。訴状の該当する形容詞部分だけマークすると後で混乱するかもしれないので,答弁書で何を認めたのかを明確にするため,答弁書もマークするものである。

後で見て,何が争いのない事実なのか,容易にピックアップできるようにするのが大事である。

■当事者双方の供述等が一致する事実

陳述書,調書等で当事者双方の供述が一致する事実は,起案で「●●であること(X21,Y15)」などと,双方の一致する供述を参照してピックアップできる。

供述が一致するというためには,両方の供述の一致箇所を見つける必要があり,すんなり見つけられるとは限らない。時間がない中,この点だけに時間をかけるわけにはいかないので,「(X21,不利益事実の自認)」として不利益事実の自認であるとこじつけたり,「(X21,弁論の全趣旨)」とこじつけることも,答案としてはあり得る。

■不利益事実の自認

陳述書,調書等で当事者が,相手方の主張に沿う自己に不利益な事実を認めている場合,起案で「●●であること(X21,不利益事実の自認)」などとしてピックアップできる。

そもそも不利益事実と言い切れるのか,取引の間に入った人が原告側証人として出てきて原告に不利益なことを供述した場合に本当に不利益事実の自認といえるのかなど,起案をしていると気になるが,悩む時間はない。

■成立の真正が認められ信用性が高い書証に記載された事実

登記所,銀行等第三者が作った書証に記載された事実や,成立に争いがない契約書等に記載の内容・日付・当事者等から「●●であること(甲1)」などとしてピックアップできる。

当事者が,自己の主張に沿う自社作成の決算書等を出してきた場合等,悩ましいことがある。

■弁論の全趣旨

「事例で考える民事事実認定」58頁以下では独立の項目として挙げられていないが,講評では使われていた。「契約につき書面がないこと」などについて主張に明確に出ていないが明らかである場合には,弁論の全趣旨を使うことになる。

②動かし難い(間接)事実から要件事実への推認

私見では,「動かし難い事実とストーリーとの整合性による判断方法」と,「間接事実から要件事実への推認力による判断方法」があり,起案の講評を聞いていると,両方の考え方を併用しているように思える。

■「動かし難い事実とストーリーとの整合性による判断方法」

これは,「事例で考える民事事実認定」61頁以下で説明されている。当事者の主張するストーリーが動かし難い事実と整合しないのであれば,そのストーリーが真実である蓋然性は低く,整合するのであればそのストーリーが真実である蓋然性は高い,というようなことである。

実際に起案してみると,この判断方法は使い勝手がよくないように思った。当事者双方は,事実をうまく説明できるようにストーリーを組み立てているのであり,そうすると結局,それぞれのストーリーと動かし難い事実は整合すると説明できることが多い。優劣をつける場合,「この証拠はこのような理由で作成された」という被告の説明は不合理だ,よってこの部分のストーリーは信用できない,そうすると動かし難い事実と被告のストーリーは整合しない,というような立論をすることになる。結局,ある一点についての説明がうまくないことを理由に被告を負けさせるものであり,それでいいのかと思える。かといって,あれこれ動かし難い事実を検討しましたがどちらも大体整合します,結論はどちらとも言えません,という話となれば,これはこれで意味がない。

また,どのような事実を動かし難い事実として拾うかも悩ましくなる。当事者双方のストーリーに合致する事実は結論に影響を与えないとすると,これを沢山拾ってどこまで意味があるのかと思われ,といって不整合となる事実だけ拾うのは答案として不十分で,点数も伸びないはずである。

「事例で考える民事事実認定」の事例の検討が,なんだか原告・被告どっちが勝つのかはっきりしないでもやもやしながら進んでいくのは,この判断方法の上記の性質によるものだと思う。

他方で,この判断方法は利点もある。「間接事実から要件事実への推認力による判断方法」ではうまく説明し難いものについても,「金銭の交付がないのに借用書が作成されている事実は,Xのストーリーからは合理的に説明できるが,Yのストーリーからは合理的な説明ができない。だから,Xのストーリーが正しく,Xのストーリーで主張されている一連の事実が認められる」というように,おおざっぱに認定できることがある。そのような場合には有用な判断方法といえる。

■「間接事実から要件事実への推認力による判断方法」

これは,刑事事実認定と同様の考え方,つまり「意味合い」「重み」による判断方法である。この判断方法だと,意味合い・重みの考え方を使って,間接事実から要件事実への推認力が強いのか弱いのか説明しやすい。行為時の事情として「契約書がないこと」を拾い,通常このような重要な契約を締結したのであれば契約書を作ること,●●という事情で契約書を作らなかったという反対仮説は不合理であることを指摘して,契約が締結されたことにつき消極の強い推認力があると結論付けるのは整理しやすい。実際の民裁起案の講評で「意味合い」「重み」という表現は使われないように思うが,実質的にはこの考え方で推認力を判断する説明が多く見られた。

動かし難い事実を拾う視点としても有効である。主張一致・不利益事実の自認・信用できる書証記載の事実などのうち,ある程度以上の積極・消極の推認力があるといえそうな事実を拾えばよい。どのような事実が推認力があるかについては,法曹会「民事訴訟における事実認定」,加藤新太郎編「民事事実認定と立証活動 Ⅱ」,河村浩・中島克巳「要件事実・事実認定ハンドブック」などに具体的な例示があり,勉強もしやすい。

もっとも,上記のとおり,原告・被告の一連のストーリーのどちらが正しいか?というざっくりとした事実認定が求められる場合,「動かし難い事実とストーリーとの整合性による判断方法」によった方が説明しやすいことがある。問題に応じて,争点に応じて,起案しやすい方に寄せて書くということである。

③着眼点

研修所は,動かし難い事実を着眼点ごとにまとめて整理し,それぞれの着眼点ごとに一定の結論を出し,最後に着眼点を総合評価して結論を出すことを求めている。しかし,そのような整理を,時間がない中で手書きで行うのは困難である。

対応として,着眼点は,基本的には「行為前」「行為時」「行為後」という分類でまとめてしまうと決めておけば悩みが少ない。答案構成メモでは,横2,縦3の6マスの表を作り,横2は要件事実との関係で積極か消極か,縦3は「行為前」「行為時」「行為後」とし,そのマスの中に,上記の「積極・消極の推認力がある間接事実」をピックアップしてメモしていけば,十分な答案構成となる。

「行為時」の事情が多めになれば,「契約書に関する事情」「その他の行為時の事情」というように2つに分けてしまってもよい。

司法研修所としては,「着眼点」でカッコよく間接事実を整理してほしいようだが,実際の起案ではなかなかそこまで時間がない。「行為前」「行為時」「行為後」で御の字であり,そこから更に分けるかは時間等と相談して決めればよいと思う。実際,何月何日より前の事情,何月何日から何月何日までの事情,何月何日より後の事情,というような立派な「着眼点」で整理された起案解説があった。

このように,着眼点ごとに間接事実を整理して,それぞれにつき一定の結論を出して,それを総合評価して間接事実の検討による実質的な結論を出した上で,おもむろに「判断枠組みに沿った表現」で結論を記載すればよい。

以上

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