【司法研修所起案対策】民裁起案2(主張整理・要件事実)

3 設問2(主張整理と争点)

(1) 主張整理

ア 総論

民事裁判起案における主張整理は,事実認定と比べて,現場で考えたり気付いたりする必要に乏しい。請求原因事実は,基本的には訴状の「請求原因」の記載からピックアップするのであり,一からひねり出すものではない。抗弁事実は,答弁書の「被告の主張」の「1 通謀虚偽表示」の記載などに従って抜き出せばよい。再抗弁は,原告の第1準備書面か,先回りして訴状などに書いてある。要件事実をきちんと勉強していれば「思いつかなかった」ということはない設問なので,安定して点が取れるはずである。

イ 要件事実の勉強の仕方

要件事実には書き方に一定の作法がある。書き方のベースとなる理屈は「新問題研究 要件事実」に説明されているので,これを読む。

一読したら,「10訂民事判決起案の手引別冊 事実摘示記載例集」を,助詞の使い方,読点の打ち方,送り仮名,言葉遣いの端々,項分けの仕方など,「事実摘示記載例集」の筆者がどのような気持ちでこの書き方をしたんだろうかと感情移入しながら,一旦全部書き写してしまうのがよいと思う。

研修所起案で最低限求められている要件事実の理解とは,結局「事実摘示記載例集」の型枠に当てはまるように,主張書面の事実を切り刻み,余計な部分を切り落とし,主張の言葉尻を捻じ曲げるなど加工して並べる作業ができることのように思えるので,まずは型枠を正確に把握するのが大事である。

もっとも,上記だけでは理屈が足りない。理屈がないと「事実摘示記載例集」にない要件事実が書けない。そこで,大島眞一「完全講義 民事裁判実務の基礎」か,岡口基一「要件事実問題集」を修習のどこかで読む必要がある。ただ,あくまでもこれらは「事実摘示記載例集」の型枠を用意した上での肉付けだと思った方がよい。集合修習前の実務修習の合間に,可能な範囲で読めば十分だと思う。

ウ 主張整理の解答の考え方

具体的な主張整理の解答の考え方は,以下である。

①設問1で解答した訴訟物の要件事実を,「事実摘示記載例集」の請求原因の例をベースに,変数に当たる部分(当事者,日付,合意内容等)を抽象化して,メモに略記する。

②メモの抽象化された変数に当たる部分に,訴状の請求原因事実の該当事実を,「事実摘示記載例集の筆者であればこう抜き出して書くだろうな」と想定されるような書き方でピックアップして追記する。

③抗弁以下も,「事実摘示記載例集」の抗弁以下の例をベースに,変数を抽象化してメモに略記し,答弁書・第1準備書面・訴状等から該当事実をピックアップして追記し,以下繰り返す。

④全体として違和感なければ,解答用紙に書き写す。

大事なのは,まず「事実摘示記載例集」の型枠ありき,ということである。

契約に基づく請求であれば,「事実摘示記載例集」の各請求原因例の(1)の項目を見ればわかるように,基本的に,当事者・契約締結日・当該契約の要素を過不足なく書くようにされている。主張整理の解答でもそのとおり書くことが大事である。

例えば,「事実摘示記載例集」は貸借型理論をとっているので,「事実摘示記載例集」の請求原因記載例11では,
「(1) 原告は,被告に対し,平成14年4月1日,別紙物件目録記載の建物を,期間の定めなく,賃料1か月6万円で賃貸した。」
と,当事者,契約締結日,賃貸借契約の要素(目的物,賃貸期間,賃料)を過不足なく記載している。建物の引渡は賃貸借契約の要素ではないから,
「(2) 原告は,被告に対し,同日,上記賃貸借契約に基づき,同建物を引き渡した。」
と,わざわざ項を分けて書いている。主張整理の解答では,黙ってこれに従って,変数に当たる部分に主張書面の事実をピックアップしてはめ込んで書けばよい。消費貸借の摘示例のうろ覚えから「貸し渡した」などと書くと教官は大喜びで間違いだと指摘してくる。

抗弁記載例9(免除)では,「原告は,被告に対し,平成18年3月6日,本件元金債務及び遅延損害金債務を免除するとの意思表示をした。」という型枠が用意されている。これに従い,「免除した」ではなく,「免除するとの意思表示をした」と書けばよい。工夫はいらない。「免除した」の「した」に意思表示をしたというニュアンスが入っているといえないか(記載例11では「賃貸した」で賃貸借の申込みの意思表示と承諾の意思表示を表現しているんだし)などと思ってはいけない。上記型枠での変数は,日付・免除対象だけであり,それを主張書面からピックアップして型枠に収めるのが,研修所から求められている主張整理の作業である。余計なものを付け足してはいけないし,「意思表示をした」を削って「免除した」と書いてもいけない。

なお,72期集合Aでは和解の要件事実が問われた。教官としても,修習生が和解の要件事実を覚えているとは考えておらず,要件事実の考え方にのっとって,条文から要件事実を導き出せるかを見たかったようである。

このような場合には,
①民法695条から「争いの存在」「互譲」「争いを止める合意」が契約の要素であることを導き出し,「互譲」は「争いの存在」と「争いを止める合意」の比較で表れていると「事実摘示記載例集」の筆者は言うであろうな,と想像し,
②契約の要素である合意内容はすべて摘示しなければならないというようなルール(大島眞一「完全講義 民事裁判実務の基礎 上巻 第2版」505頁,岡口基一「要件事実問題集」のどこか,河村浩+中島克巳「要件事実・事実認定ハンドブック 第2版」81頁など参照。)(例えば,土地2つの売買契約を摘示する際は,仮に内訳価格があって実質的には土地1つずつの売買契約として分断して整理できそうな場合でも,契約を分断せず,売買契約の目的物としては土地2つを摘示するのが原則である,というようなルール)に従って,争いの内容と争いを止める合意の内容を主張書面からほぼそのまま引き写すというような考え方で,研修所が求めるような答案を書くことができる。

(2) 争点の設問

争点とは,民裁起案では「争いのある主要事実」を指す。

よく訓練された修習生は,「事実摘示記載例集」の項の区切りに従って,「(1) 原告は,被告に対し,平成14年4月1日,別紙物件目録記載の建物を,期間の定めなく,賃料1か月6万円で賃貸した。」というような主要事実を,例えば(1)から(5)まで記載しているはずである。そのうち,否認又は不知となっている主要事実の項番号を記載すればよいだけである。例えば,「争点は,ア(3)である。」などと解答する。

主要事実を抽象化したり,省略して記載すること(「争点は,賃貸借契約の成立の有無である。」など)は不可である。「ア(3)のうち,被告が承諾したこと」などと一部だけ取り出すのもいけない(ジレカン8ページでは「被告が2000万円借入れの申し込みをした事実」が争点の重要なポイントだと述べられていて,そのような分解した事実を争点として書いてほしいかのようで紛らわしいが,あくまで民裁起案の「争点」は「ア(3)」でよい。)。賃貸借契約書が偽造かどうか,という実質的な争いの焦点を書くのも駄目である。

争いのある主要事実を一言一句省略せずに書き写すか,項番号を記載して引用するかの二択しか許されていない。注意が必要である。

4 設問3 (主張分析)

設問3は,主張の攻撃防御方法としての位置付けを説明したり,主張を撤回した理由を記載する問題である。設問の自由度が高く,対策しにくい。

要件事実プロパーの出題であれば,大島眞一「完全講義 民事裁判実務の基礎」や,岡口基一「要件事実問題集」などを読んでいれば解答できるものもある。

主張の撤回は,要件事実プロパーの設問の場合以外に,実体法上主張が成り立たないから撤回するというものもあり,司法試験から大分時間がたっているから思いつかない場合も考えられる。

すぐに解答筋が浮かばなければ,設問2と設問4に時間を回した方が得策であると思う。

設問4については次の記事で。

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