【司法研修所起案対策】検察起案

1 全般

司法研修所の検察起案につき解説する。

どのような設問が出て,どのように考えて,何を書けばよいかについては,すべて白表紙の「検察終局処分起案の考え方」(以下では,平成28年版に基づきページ数等を記載する。)に書いてある。実務修習での検察一斉起案の前に,熟読・書写して覚えるぐらいしてしまえば,その後はとても楽になる。なお,平成28年版は山中弁護士のブログで公開されている。72期で若干の改訂箇所(「記載を省略してよい」となっていたものが「きちんと書け」に変わっている部分がある。)のプリントが配られ,73期はその改訂が反映されたものが使われている。

起案では,「検察終局処分起案の考え方」の記載項目をベースに,起案要領で「求刑意見は記載不要」「被疑者両名に関する犯罪の成否等について記載すること……犯人性及び情状関係を記載する必要はない」「●●供述の信用性については検討不要,信用性があるものとして使ってよい」などと指示されているので,それに従って書く。

犯罪の成否等についてのみ書くことを求められているのに,フル起案であると勘違いして犯人性について沢山書いていても,犯人性の部分は0点のようである。二回試験本番でこれをやると大変である。

私は,起案開始時間の直後は,まず白紙に「検察終局起案の考え方」どおりのフルの目次を書き,続いて起案要領での指示に従い,書くなと言われている部分に×をつけて消して書かないようにした。その後,その目次に犯人性の間接事実(別途メモ作成)以外のメモをすべて書き込み,答案構成として使えるようにしていた。

2 犯人性

(1) 勉強の仕方

「検察終局起案の考え方」10ページに,犯人性の間接事実の7つの類型が記載されている。ただ,どれも抽象的であり,かつ,どのようなレベル感の事実を「認定した間接事実の概要」として書くべきなのか迷う。

この点については,「状況証拠の観点から見た事実認定」(法曹会)という先行研究があるので,その33頁から72頁までを読めばよい。大部な本であるが,500頁ほどはすべて事例分析に費やされており,エッセンスはこの約40頁に詰まっている。どのようなレベル感の間接事実が,どのような意味で犯人性を推認させるか,推認の程度はどうか,どのような事実があればその推認が妨げられるかなど具体的事例に基づき解説されている。やや古いもののではあるが,現代版を作るとした場合のアップデートとしては,本書で「血痕」云々について説明されている部分がDNA型鑑定の発展により飛躍的に証明力が高まった,という程度のことで足りると思われる。犯人性の間接事実の考え方は,この約40頁を読めばそれ以上勉強することはないと思う。

(2) 解き方

ア 間接事実

(ア) 記録の読み方

犯人性の間接事実は,逮捕状・勾留状が発せられる前の証拠から大枠は認定できるはずである。被疑者が犯人だと認定できるからこそ,逮捕状・勾留状の裁判所の審査をパスできる建前だからである。なので,記録の目次から逮捕状・勾留状を探して,付箋を貼り,その前の資料から犯人性の資料を捜すのだという意識付けをする。なお,DNA型鑑定の結果などは,逮捕状・勾留状の前に鑑定嘱託して,最後の方になって結果を受領する(しかも,「鑑定書」ではなく「捜査報告書」というタイトルであるなど,目次から検索しにくい場合もある。)ような構成の記録である可能性もあるので,留意する。

次に,記録の最初の方の送致書等を読んで,大体の事件の概要をつかむ。そして,途中を飛ばして,最後の方の被疑者・被害者等の検察官調書を読む。最後の方の検察官調書は,いくつかのテーマについて,一問一答で詰めの取調べをしていたりする。これらは,最後まで捜査上問題になった論点につき裏取りをしたり,裏取りをしようとしたが「覚えていません。」という供述に留まったり,というような内容になっていて,ここから犯人性・犯罪の成否等の捜査上の論点がわかる。ここで出てくる論点は起案で使うに決まっているので,最初に読んで頭に入れておいた方が効率が良い。記載すべき間接事実が大体わかることもある。

なお,検察官が必死に裏取りをしようとしているのに被疑者が「覚えていません。」に終始している場合,検察官として立証したいことを立証するに至らなかったということになり,認定落ちの罪名となると想定できる。

(イ) 答案構成・起案の仕方

犯人性の間接事実の答案構成メモは,横3列,縦6行くらいの表を作り,左の列はNo.,真ん中の列は犯人側の事情,右の列は被疑者側の事情を書く。

この表を用意した後,記録を改めて最初から読む。(1)で勉強したとおりのパターンの間接事実に使える証拠が出てくるから,メモの犯人側の事情に「ハサミにV血,4/16実,4/20報」,被疑者側の事情に「ハサミにA指紋,4/16実,5/1報」のようにメモしていく。逮捕状・勾留状までに4・5個程度の間接事実があげられるはずである。それ以降の記録は裏付けの追加情報や,犯罪の成否で使う行為態様の供述があるのだろうなどと想定をしながら最後まで読み,メモに追記していく。

その後,間接事実のうち推認力が高い順にNo.の欄に番号を振り,起案していく。一番推認力が高いものとしては,例えば凶器に被疑者の指紋があったこと,被害品を被疑者が犯行直後に持っていたことのようなものが想定される。人相着衣は,社名入りの作業着のようなものを着ていない限り推認力が高いとは言えないが,書く事項はそれなりにあり,点数がのっていることが予想されるので,優先順位を下げて書くようにしていた。動機は,推認力はどうせ低いので,時間がなければ省略した。

起案で書く小項目としては,「検察終局処分起案の考え方」のとおり,「認定した間接事実の概要」「認定プロセス」「意味付け」となる。

①「認定した間接事実の概要」

例えば「凶器にAの指紋が付着していたこと」と書く。

②「認定プロセス」

「認定した間接事実の概要」に対応する内容を,犯人側の事情と被疑者側の事情に分けて書いていく。なお,一番最初の間接事実の認定プロセスの犯人側の事情のうち,一番最初に書くものは,「犯人は,平成●年●月●日●時●分頃,東京都●●区●●丁目●番●号●●方において,Vに対し,●●を用いて●●する等の暴行を加え,Vの財布等を奪った(4/16実,4/14VKS,…等)。」のように,事件の概要+間接事実に使う凶器・被害品等の事情をカバーする書き方をするよう求められている。

この間接事実の記載は「どのような事件の犯人性を論じているか宣言」を兼ねているので,やや詳しめになるのである。2つ目以降の犯人性の間接事実の「認定プロセス」の犯人側の事情は,上記の詳しい一番最初の犯人側の事情を引用しながら書いていく。対する被疑者側の事情は,「上記包丁の柄からAの指紋が検出された(4/16実,5/2報)」のように書く。

③「意味付け」

①認定した間接事実がどのように犯人性を推認させるのか(刑裁でいう「意味合い」と同じ。)を説明し,②認定した間接事実が存在するにもかかわらずAが犯人でないといえる事情の内容とその存在可能性の程度(反対仮説の成立可能性の程度。刑裁でいう「重み」と同じ。なお,検察でいう「反対仮説」は,刑裁でいう「反対仮説につながる事情」と同じ意味で用いられている。)から推認力を判定する。

例えば,「この間接事実は,犯行に使用された凶器にAが触れたことがあるという意味で,Aの犯人性を推認させる。この点,Aが使用したことがある包丁を犯人が入手して犯行に及んだという反対仮説が考えられる。もっとも,中古の包丁に流通性がないこと等を考えると,反対仮説の成立可能性は低く,本間接事実の犯人性の推認力は高い。」というようなことを書く。

④小括

犯人性の間接事実を一通り列挙した後,「小括」として,犯人性の間接事実の総合評価を書く。すべての反対仮説を満たすストーリーはあり得ないこと(Aとよく似た第三者が,AからAの包丁とAの服を借りて,Vを殺害して財布を奪い,Aに服と財布を渡した上でAに犯行態様を説明し,Aが翌日あたかも自己が本件犯行をしたかのように友人に嘘の犯行告白をした可能性は到底考えられないこと)を書けば十分である。

⑤供述の信用性

なお,犯人性の間接事実の認定に当たって使う供述の信用性は,以下のいずれかの箇所で論じる。

A:個々の間接事実の「認定プロセス」の犯人側の事情(又は被疑者側の事情)を列挙した後で,「なお,Vは4/15VKSで●●した旨述べる。この供述は,……から信用できる。」と論じる。

B:間接事実をすべて列挙した後,「小括」の前の項目(例えば,間接事実が5個挙げられていれば,「(1) 間接事実1」~「(2) 間接事実5」の後に「(6) ●●供述の信用性」という項目を立て,次が「(7) 小括」となる。)で,「Vは,4/15VKSで●●した旨述べ(間接事実1で使った供述が記載される。),4/18VKSで●●である旨述べ(間接事実2で使った供述が記載される。),……と述べる。これらの供述は,……から信用できる。」とまとめて論じる。

教官はBを勧める。Aでは供述の動機等で重複が生じるし,後で時間が無くなってくる。Bの場合,それぞれの供述の都合のよいところを指摘して,だからすべての供述が信用できる,というような書き方になってしまうが,そこは時間がないからしょうがない。

供述の信用性の判断の具体的な書き方については,別記事参照。

イ 直接証拠

集合・二回試験では出題されなかった。
なお,犯人性の直接証拠となる供述は,犯行を現認し,かつ,犯人がAであることを断定的に述べているものである必要がある。「犯人はAと似ている」は,断定していないから直接証拠ではなく,「犯人とAの人着が似ていること」という犯人性の間接事実として使うルールになっている。

ウ 共犯者供述

共犯者はAが犯人であることを述べていることが多いので,供述の信用性のメルクマール,特に客観証拠との一致等を挙げて信用できるとすればよい。

エ 被疑者供述

通常は否認から認めに変遷しているので,変遷前・変遷後に分けて検討する。犯人性を否定している変遷前供述につき,間接事実の検討結果等をもとに,客観証拠との不一致等を指摘して信用性を否定し,犯人性を認める変遷後供述については,客観証拠との一致等から信用できるとすればよい。

なお,ここでは「犯人性」についての供述の信用性を論じることに注意すべきである。被疑者は,時に犯人性は認めるが殴ってないなどと述べるところ,殴ったかどうかの信用性ではなく,犯人性の供述が信用できるかがここでは問題となる。

3 犯罪の成否等

(1) 勉強の仕方

司法試験の刑法各論の復習と,「犯罪事実記載の実務 刑法犯」の出そうな項目の構成要件の確認等で十分である。

(2) 解き方

「検察終局処分起案の考え方」の項目の順番に従い,淡々と書くだけである。実行行為等はAPS・VPSを中心に供述を書き写して認定していくことになる。使えるところを漏れなく書き写したうえで,これらの供述は信用できるということを述べて事実認定し,これを構成要件の意義に合致するように評価して結論を出していく。解いていて面白みはない。

注意すべきは,犯罪の成否等で認定していない事実を公訴事実に書いてはいけないということである。公訴事実を先に起案した場合,公訴事実を見ながら,その内容と同じか広くなるように注意して書くようにしていた。

また,送致事実にとらわれず,証拠から認定される事実に基づいてどの犯罪が成立するかを検討する必要がある。集合・二回試験では,すべての問題で送致罪名から起訴罪名を変更するのが正解であった。警察からの送致罪名を安易に信じて起案すると,公訴事実も構成要件も全部間違い,犯罪の成否等・公訴事実が0点となる可能性がある。最後の検察官調書で必死に裏取りをしようとしているのに「覚えていません。」で終わっているものは,起訴罪名変更の可能性が高まるように思う。

4 公訴事実

「検察講義案」(二回試験では,その必要部分の抜粋が配布される。)の起訴状・不起訴裁定書の公訴事実等を参照しながら,今回の問題に沿うように事実を置き換えて起案する。筆者は,一通り記録を読んだ後,一番最初に公訴事実を書いていた。犯罪の成否等の構成を完了してから書くと両者の整合が図れてよいはずだが,時間配分を誤ると,それなりに配点が多いと言われている公訴事実がきちんと書けなくなるので,良し悪しだと思う。

5 小問

刑事手続に関する小問が1題だけ出題される。

配点自体多くなさそうであること,司法試験の刑訴法の知識である程度の解答はできることなどから,筆者は特段の対策をしなかった。

「令状基本問題上・下」や「令状に関する理論と実務1・2」(別冊判例タイムズ)を読んだり,東京修習であれば隔週で検察庁での勉強会が開かれていたのでそれに出席するなどして勉強することも可能である。

以上

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