【司法研修所起案対策】民裁起案1(全般・訴訟物)

1 全般

司法研修所の民事裁判起案について解説する。

まずは,問題文をきちんと読んで,問われているとおりに答えるのが大事である。

例えば,「なお,設問2以下は,附帯請求について考慮する必要はない。」と問題文にあれば,設問1(訴訟物,個数,併合態様)では附帯請求を含めてきちんと書き,設問2(主張整理と争点)以下では附帯請求に触れない。

具体的な例としては,訴訟物が,
主請求:準消費貸借契約に基づく貸金返還請求権
附帯請求:履行遅滞に基づく損害賠償請求権
で,弁済期が10月1日の場合,主請求の要件事実は弁済期である10月1日の「到来」,附帯請求の要件事実は弁済期である10月1日の「経過」となる。設問2で附帯請求について考慮せずに主張整理せよと指定されているのであれば,主請求の要件事実を摘示することが求められているので,弁済期である10月1日の「到来」を摘示しなければならない。

また,二回試験では,事実認定の問題で,請求原因事実のみ認められるか認められないか解答するよう指示があった。この場合,抗弁・再抗弁について解答しても,その部分は0点になるはずであり,時間の無駄となる。

対応としては,問題文の指示のうち結論として何を書けと言っているのかについて線を引くこと,通常の問題文と比べて特別な指示がないか意識的に確認することなどがある。また,教官は,昼食後のタイミングでもう一度問題文をきちんと読み直すことを推奨していた。

2 訴訟物,個数,併合態様

訴訟物,個数,併合態様は,これ自体それなりに配点されているようであり,また,起案の解説によると多くの人が外していないようである。ここを間違えるということは,主張整理も丸ごと間違いだということであり,それを受けた争点も事実認定も全部間違いとなる可能性もある。自信を持って解答できないと,設問2以下を解答する場合の心理状態にも影響する。そういう意味でとても重要な問題である。

ア 訴訟物

「新問題研究 要件事実」に,司法研修所が求めている考え方・書き方が丁寧に説明されている。ただ残念なことに,たった13問しか説明されておらず,説明されていない訴訟物につき具体的な記載の仕方に迷う。

そこでまず,「10訂民事判決起案の手引別冊 事実摘示記載例集」の請求原因記載例のカッコ書きを参考にすればよい。ここから,約束手形・請求異議等の出そうにないものを除いたものを把握すれば,出題可能性がある訴訟物は概ねカバーされるのではないかと思う。

イ 個数・併合態様

「新問題研究 要件事実」に,訴訟物の個数についての司法研修所の考え方が記載されている。ただ,残念なことに,すべて1個の場合の記載例である。どういう場合に2個になるのかピンとこない。

併合態様も,「新問題研究 要件事実」では訴訟物が1個である以上,併合態様なんてないから理解できない。

「10訂民事判決起案の手引別冊 事実摘示記載例集」の請求原因のカッコ書きでは,訴訟物が1個の場合には「及び」でつなぐ(例:10 土地建物引渡及び所有権移転登記手続(売買契約に基づく土地建物引渡請求権及び所有権移転登記請求権)),訴訟物が2個の場合には「,」でつなぐ(例:11 建物明渡し(賃貸借契約終了に基づく目的物返還請求権としての建物明渡請求権履行遅滞に基づく損害賠償請求権))という書き分けがされている。ここから,研修所が考える「個数の正解」は大体わかる。ただ,併合態様はわからない。

ウ お勧めの対応

ここでお勧めするのは,岡口基一「要件事実問題集」の第1問から第20問までのすべてについて,設問1(訴訟物等)を,問題文の関係しそうなところ,参考答案,解説の順にざっと読んでいくことである。具体的な問題をベースに訴訟物の個数・併合態様が説明されていて腑に落ちる。設問1だけ読むのであればそれほど時間はかからない。ここまでやれば,設問1についてはかなり自信を持って解答できるようになるはずである。

訴訟物の個数などは,民事訴訟法の基本書でもきちんと説明されていない印象である。実際の起案の際に,実体法上の請求権の個数はなんであるかを真面目に考え始めるとハマる。こういう場合はこうだ,というパターンを押さえておきたい。

設問2以下は次の記事で。

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