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とてつもなく陰鬱な歌を50年以上、ライブの最後に歌い続ける男

「暗闇の王子」「メタルの帝王」などと称されるオジー・オズボーンという シンガーがいる。70年代初頭にブラックサバス というバンドでデビューして以来、50年以上 ヘビーメタル 会の頂点に君臨している男である。おっさんである。 いや、じいさんである。


そのオジーが50年以上、ライブの最後に歌っている曲がある。曲名は「 パラノイド」 こういう曲だ。メタルが嫌いな人もいるだろうが、よければ 3分間我慢して聞いていただきたい。

 演奏時間は賞味 3分もない。 一説によると、アルバムの曲数が足らないということで急遽作った曲だとの説もある。 コードも少なくバンドを始めたばかりのキッズたちでも容易に演奏できる曲である。
  
 実は私はこの曲が何を歌っているのかよく知らずにいた。少なくとも明るい曲ではないのだろうということは、薄々感じてはいたが、 これが予想以上に救いようのない曲なのだ。

「付き合っていた女とは別れた(捨てられた)/みんな俺のことをイカれているという/何をしても満たされねえよ/何が本当の幸せかなんてわからねえよ…」

 これ以上ないほどに陰鬱な歌詞ですな…。これを作詞したのはベースのギーザー・バトラー。精神疾患にヒントを得て急いで書き上げた…それが後に代表曲になるんだから世の中わからない。オジーはブラック・サバス時代、その後ギタリストが何人代わろうとも、最後は必ず『パラノイド』で終わる。

 どのような音楽ジャンルであっても、 アンコールに演奏する曲というのはみんなが知っていてごくごくシンプルな、誰もが楽しめる。そういう曲にするというのは定石。そう考えると、このパラノイドをアンコールに配置するというのは ごく自然なことと思える。しかしこの陰鬱極まりない曲で終わりにするということには、それとは違うオジーによるメッセージ、いやある種の「福音」を感じるのだ。

 思うに、この曲はライブに来たメタルキッズ(オヤジ)たちへのメッセージなのではないか?「世の中生きてりゃイラつくことばかりだし、腹も立つし、誰もわかっちゃくれないよな?そりゃ鬱にもなるだろさ。でもよ…それでもこの人生を楽しんで生きてみろよ?」そう語りかけているように思うのだ。
「いくら髪を金色に染めて黒いTシャツを着てライブで弾けても、明日の朝には嫌な学校や仕事にいかなきゃならない。それでも人生ってそこまで悪いものでもねえぜ?オレだって辛いことだらけ。お前と変わらねえよ。さあいけ、お前のどん底な日常に向かってな」オジーのそんなメッセージを感じる。

 そのオジー自身、20代からアルコールとドラッグの依存に悩まされた。それがもとでブラックサバスも解雇され、ランディ―・ローズという若きギターヒーローを発掘して、ソロとして軌道に乗ったかと思いきや、そのランディ―が目の前で飛行機事故に遭い、燃え盛る炎を見て泣き叫んだという壮絶な過去を持つ(それが故に後にずっとPTSDに苦しめられつづけている)。

 明るく、前向きなフレーズが人を支えるとは限らない。その逆に人間のどうしようもなく暗い情念を表した棘だらけの言葉が人を癒すことだってある。いや、むしろそういうものなんじゃないのか?人間って。


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