僕と彼とぐんぐんグルト

出かけ先で一通のLINEが届いた。

送り主は妻で、
「帰りにトイレットペーパーを買ってきて」
とのことだった。

帰路の途中にある薬局で目当てのトイレットペーパーを見つけ、ついでに自分へのご褒美として「ぐんぐんグルト」を買った。

ぐんぐんグルトはヤクルトみたいな色だか全然ヤクルトじゃない乳酸菌飲料で、めちゃくちゃ甘いジュースだけどなんとなく「健康のため」という言い訳を自分の心に置いておくことができる代物である。
私は乳酸菌飲料の味が大好きなので、こういった飲み物を見ると気づいた時にはカートに追加してしまうのだ。

「袋いりません」とクールにレジ袋を断り、スコッティのトイレットペーパー(8ロール入り)を片手にルンルン気分で歩いていると、どこからか小さい子供の声で「あっるーるーるーどあー」みたいな呪文が聞こえてきた。

なに言ってんだろうとよく聞くと、どうやら
「あ!ぐんぐんグルトだ!」
と言っている。どうやら完全に私がいじられているようだ。

声の方向を見ると、近くの幼稚園の男の子がフェンスの向こうから私の方を見て「あ!ぐんぐんグルトだ!」と3回くらい言っていたことが分かった。
少年と私は幼稚園のフェンスを隔てながらも「ぐんぐんグルト」という共通項をキーとして心と心で繋がったようだった。

「あ、これ?」
私は彼に問いかけた。
「うん!ハヤトも好き!」
名をハヤトというらしい少年は目を輝かせながらそう言った。
「そうなんだ。美味しいよね」
「うん!でも、毎日飲むと飽きるよね」
私は心の友を前に、あやうく小さな男の子ということを忘れて「いや、ぐんぐんグルト毎日飲むか!」とツッコみそうになったが、グッとこらえて
「そうだね、飽きちゃうね。じゃあバイバイ!」
と言い、彼と別れた。

ドイツが東西分裂していた頃、首都ベルリンでベルリンの壁を隔ててたまたま知り合い仲良くなった男の子の友情みたいな時間だな、と思った。

世の小さな子どもを育てるお父さん、お母さんへ。
あなたのお子さんが毎日ぐんぐんグルトを飲んでいるかもしれませんよ?
「毎日は止めておきなさい」と言ってあげてくださいね。

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