もっちゃん

特に書くようなことがないので、実際にはなかった架空の夏の想い出を綴ります。


僕が小学生の頃、家が近所でよく一緒に遊んでいた「もっちゃん」という友達がいた。
もっちゃんはとても明るくて元気な人気者で、僕も含めてみんなもっちゃんのことが大好きだった。

小学5年生のころ、夏休みの宿題で図画工作の課題が出された。
僕はどんな絵を描けばいいか少しも思いつかず、お母さんに相談をしてみた。
するとお母さんは、

「隣町のひまわり畑に行って絵を描いてきたら?夏らしくていいじゃない」

とアドバイスをくれた。

僕はさっそくもっちゃんとその他2、3人の友達を誘い、自転車でひまわり畑に向かった。
炎天下のなか隣町まで自転車で行くのは小学生の僕の体力では難儀なことで、途中何度も休みたいと思ったが、友達に自分がへばっているということを悟られまいと気合で自転車を漕ぎ続けた。

到着すると、そこには僕たちの背丈以上のひまわりがところ狭しと並んでいて、楽しくなった僕たちは疲れも忘れてひまわりの中でかくれんぼをして遊んだ。

「もーいーかーい?」
「まーだだよー!」
「もーいーかーい?」
「もーいーよ!」

僕はひまわり畑の中を音をたたないようそろりそろりと歩いて、鬼の死角にいようと努めた。
すると、パッと後ろから僕の手を取るものがあった。

もっちゃんだった。

「え、もっちゃん、どうしたの?あまりうるさくすると見つかっちゃうよ?」
「こっちこっち!」

もっちゃんは僕の懸念など意に解さぬ様子でぐいぐいと僕を引っ張っていった。

「もっちゃんどうしたの?」
「いいから!こっちこっち!」

そうこうしているうちにもっちゃんと僕は小高い丘に来ていた。結構な距離を走らされて僕は疲れていた。

「着いた!」
「もっちゃん、こんな遠くまで隠れたらみんな心配するよ?」
「ねぇねぇ、見てよ!」

もっちゃんが指を指す先には先程まで駆け回っていたひまわり畑があった。
丘から見下ろすひまわり達は陽の光を反射して、なんだか神々しく見えた。

「うわー、すごいね!」
「うん!すごいでしょ!」

もっちゃんはこの景色の素晴らしさを知っていて、それを分かち合ってくれたんだ。その相手として僕を選んでくれたのがなんだかとっても嬉しかった。

今はもうそのひまわり畑ひなくなってしまったけど、大人になった今でも目を閉じると鮮明に思い出せるほどその景色は僕の心に焼きついた。

僕は図画工作の課題でその丘から見下ろすひまわり畑の絵を描いた。
たくさん時間と手間暇をかけて描いたその絵はゴッホにも負けない力作だと思っている。

もっちゃんは歴代のマンチェスター・ユナイテッドの選手たちの写真を集めてファーガソン監督のモザイクアートを作ってきた。
もっちゃんは金賞をもらっていた。



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