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PASSTOマガジン vol.8 | SHIROのリユースプロジェクトへの挑戦

みなさん、こんにちは。
PASSTOマガジン編集長のガクです。

今回は「SHIROのリユースプロジェクトへの挑戦」というテーマでお届けします。コスメティックブランドのSHIROがPASSTOと共に、使用済みガラス容器のリユースに取り組む。その理由や経緯を詳しく紹介していきたいと思います。



REUSE SHIFTとは

「一社では起こせない社会の変化を、共に。」というコンセプトで、PASSTOを運営する株式会社ECOMMITが2024年8月8日から始動するの「REUSE SHIFT」。使い捨てからリユースへの変革を、業界の垣根を超え、一社では実現できない社会の変化を起こすムーブメントをつくる取り組みだ。衣類や雑貨に限らず、PASSTOを通じてあらゆるものが循環される未来の実現を掲げる。

REUSE SHIFTとは、リユースにシフトする作り手(企業)の大胆な挑戦と、業界の垣根を超えてそれに呼応し、行動を起こす企業の未来に向けたアクションの総称である。賛同する企業の自発的な取り組みや発信を通じて、一緒に立ち上がるムーブメントや変化を世の中に起こすことを目指している。

REUSE SHIFT by 【   】、という形で企業がリユースへの変革に挑戦する。記念すべき1stチャレンジャーは日本を代表するコスメティックブランド「SHIRO」だ。使い捨てだったガラス容器を回収し、洗浄してまた製品に戻す、というリターナブルボトル(化粧瓶のリユース)の実証試験がスタートする。1万本の大規模回収を目指したこの取り組みは、世界でもほとんど例を見ない大きな挑戦である。

この挑戦に向けてSHIROの店舗だけでなく、REUSE SHIFTに賛同する50〜100箇所を超えるPASSTO拠点も含めて日本全国でガラス容器の回収を行う。また、SHIROは自社の領域を超え、瓶と同時に使われていない衣類回収も行い、社会におけるリユースそのものを推し進めるプロジェクトにしようとしている。
SHIROをゼロから立ち上げ、この取り組みを牽引してきたSHIRO会長兼ブランドプロデューサーの今井 浩恵さんに話を聞いた。なぜ瓶のリユースに取り組むことになったのか、なぜそこまでやるのか、背景にあるストーリーに迫る。

挑戦の予感、15年目の宣言

今回の挑戦の約半年前、2023年12月に「15年目の宣言」として廃棄物ゼロを目指すことを宣言したSHIRO。その背景に、今井さんは2021年7月に社長を退任し、以降、会長兼ブランドプロデューサーとなった経緯があったという。

今井:「社長を降りて視界が変わって、一歩引いて会社を見た時に、消費を煽る一端を担っていることに気づいたのです。そのことへの反省と、これから先同じことを続けられないという想いがあり、2023年に入ってから1年間ずっと会社とブランドをどのように導いて行くべきかを考えていました」

ブランド立ち上げ時から自然素材を生かした製品づくりを続け、捨てられるはずだった規格外の自然素材を使った製品の開発、パッケージレスでの製品の販売、お手さげ袋の有料化、老朽化した什器の表層替え、等々SHIROは業界的にも、先進的な取り組みを行うブランドである。
一方で、今井さんはこのように語る。

今井:「正直に言うと、それまでの取り組みは『たかが知れている』という気持ちでした。たしかに化粧品業界では企業・生活者それぞれにマインドを変えるインパクトがあったと思います。でもそれだけではなく、業界を超えて直接的にインパクトを出して行かなければならないと考えたんですよね。だからこそ宣言を出すことで会社として社会へコミットする姿勢を示したかった。社内に対しても覚悟を示すということであったかもしれません」

ビジネスを行いながらごみを排出しないという一見矛盾するような廃棄物ゼロ宣言は、SHIROが本当に社会に必要とされるブランドになり、会社を変えていくための大きな一歩だと話す。

フィンランドでのリユースへの確信

この宣言を出すに至った背景として、2023年7月に訪れたフィンランドでの経験が1つのきっかけになったという。現地のスーパーでは使い終わったペットボトル、缶、瓶を回収してデポジット返却の仕組みがあったり、その場で洗浄して再利用できたりなど、リユースの仕組みが日常生活に浸透していたという。
また、セカンドハンド(中古品)のお店がたくさんあり、年配の人が持ってきた物を若い世代が購入し、大切に次に繋いでいくという光景が当たり前だったそうだ。

今井:「もともと、社内で製品の容器のリサイクルを進めようとしていましたが、最初からリサイクルありきでの議論に違和感がありました。まだ使える容器を集めて、洗って、粉々にして、それをまた容器に戻す…というその工程が自然じゃないと感じていたのです。そんな中、フィンランドの光景を見て、『これだ!』と思いましたね。日本ではリサイクルという言葉が先行しているけど、その前にリユースという選択肢があることを社会に広げたいと思いました

そして、ECOMMITとの出会い

もう1つはPASSTOを運営する株式会社ECOMMITの存在があった。もともとECOMMITのChief Brand Officerの山川咲と知り合いだったが、フィンランドからの帰国直後に山川から連絡があった。ちょうど現地での体験からリユースへ脳内がシフトしているタイミングでのことだった。その連絡をきっかけに、ECOMMIT代表の川野輝之との打ち合わせの場が持たれたことが、後の15年目の宣言とREUSE SHIFTへの取り組みに繋がることになる。

今井:「フィンランドでの体験からリユースへの方向性が定まったものの、取り組む内容とタイミングをずっと探っていたところに川野さんとの出会いがありました。数多いる経営者の中では本当に珍しいと思うのですが、自分ではなく地球の未来を本気で考えて行動している彼の純粋さと、ブレない芯の強さに惹かれました。やっぱり私が命をかけて何かをやりたいと思えるのはそこに人がいるからこそで、川野さんや山川さんがいたから私も地球にコミットしたいと思い、一緒に容器のリユースに取り組むことしました」

川野との出会いから5ヶ月後の2023年12月にSHIROの「15年目の宣言」を発表。川野が目指す「捨てない社会」への共感とECOMMITの取り組みが、宣言を発表する大きなきっかけの1つになったと話す。さらに年が明けた2024年2月、使用済みガラス容器の回収を目的に、当時はまだ名前も付いていなかったREUSE SHIFTのキックオフミーティングがSHIROとECOMMIT両社によって行われた。

化粧容器(瓶)のリユースは世界的に見ても事例が少なく、ハードルが高いと言われている。その理由はいくつかあるが、リユースそのものの難しさとして、回収におけるスキーム構築と調達の難しさ、選別・流通のオペレーションとコストのバランスが合わない点、そこに化粧容器ならではの油やフレグランスなどの香りの洗浄が難しい点も加わってくる。

今回チャレンジを支えるのは創業130年の老舗企業、トベ商事だ。牛乳びんやビールびんなど、日本には元々洗びんの文化と技術がある。リターナブルびんの減少から一時期は事業の閉鎖を考えたこともあるそうだが、今回のプロジェクトでは未来を賭けた挑戦だとして、参加を決意。洗浄テストを何度も行い、洗浄レベルやびんの状態など、イメージしていた基準に到達することができた。

回収のインフラと、回収拠点に関してはPASSTOを活用する。ECOMMITと議論を重ねる中で、リユースがコストに見合う可能性を十分に見出せたことで、今回の実証実験ではそのコスト検証も行う。トベ商事の招致だけでなく、全体の循環スキームの構築から運用までの旗振り役がECOMMITだ。
この他にも社内的なオペレーションや製品の仕様変更など、挑戦のためのハードルは上げるとキリがないが、それでもなぜやるのか。今井さんはこう話してくれた。

今井:「やるべきことをやる。SHIROとはそういうブランドです。経営者として、常に挑戦し続けることが重要だと思っています。儲かるからやる。ではなく、会社と社会にとって何が必要なのか?ということを自問し続けた結果、容器のリユースは絶対にやるべきだと思いました

また、環境面については、消耗品容器は一定の仕様回数に達しないとバージン素材で製造した場合の環境負荷と同等以上になる可能性がある。耐久性があり、何度も繰り返し使えるデザインのボトルが求められ、環境負荷についても検証しながら、適切にリユースを行っていく予定だ。

一社では実現できない未来へ

当然、取り組みを進める中でより良い選択肢を探るため他の会社と交渉したり、自社だけで取り組むことも検討したそうだが、最終的にECOMMITとタッグを組んだ理由をこのように話す。

今井:「SHIROだけで挑戦する選択肢もあったけど、ECOMMITと一緒に取り組むことで、より遠いところまで行け、社会的なインパクトを出せると思いました。実際ここまでのスピード感で実現するとは思ってもいなかったです

両社の出会いから、SHIRO一社の挑戦がどんどん拡大して、その実現が見えてきた。最終的には使用済みガラス容器の回収・リユースだけではなく、ECOMMITが取り組む衣類の回収をSHIROでも行うことで、より大きなリユースのうねりを作る取り組みとなった。

そして、冒頭のREUSE SHIFTに話は戻る。未来のために、SHIROのようなチャレンジがこの国に必要だという想いから、社会に渦を作って一社の挑戦を応援し、より多くのチャレンジが生まれるようにとREUSE SHIFTは誕生したのだ。ここには「日本から世界的な事例を作ろう」という想いも込められている。

今井:「SHIROのタイミングは"今"だったけれど、タイミングも規模も時期も、きっと企業によってそれぞれだと思います。それでも、そこに向かうと覚悟することで未来が絶対に変わる。本当にチャレンジできる企業が必要」

これからの展望


SHIROは自社製品や衣類も含めたリユースショップをやります

今回の取り組みはリターナブルボトルの本格運用に向け期間を定めた実証試験だが、その後はどのようなビジョンを描いているのか聞くと、このような返事が返ってきた。自社製品の容器のリユースならもちろん理解できる。しかし、コスメティックブランドであるSHIROがなぜ衣類のリユースまで行おうとしているのだろうか。

今井:「建築材や衣類は量に対してごみになる割合が多く、既に建築材には取り組んできましたが、衣類のごみに真剣に取り組まないと本当に必要なインパクトを社会へ出せないと思ったのです。ECOMMITがいたからこそ、業界を超えた衣類回収という挑戦に取り組むことができました」

SHIROの「15年目の宣言」で目指す廃棄物ゼロは当然自社が排出するごみを無くすということが掲げられているが、それだけではなく社会全体でのごみを減らすという壮大な目標も含まれている。ECOMMIT川野が提唱する「ごみを減らすだけでなく、ものづくり自体を変えていく必要がある」ということと同じ想いを持ってこの壮大な目標に向かって取り組んでいるのだ。

衣類の回収にとどまらず、リユースのカルチャーを作っていくためにも、今後自分たちでリユースの店舗を作って販売も視野に入れる。年内にはポップアップストアを予定しており、すでにその準備を進めているSHIROの意志の強さとスピードには目を見張るばかりだ。
また直近では、ファッション業界で世界的に活躍するショーディレクターやスタイリストの協力を得て、リユースの服の価値をクリエイティブに変えていくことにも挑戦していくそうだ。

8/10にはSHIROの北海道砂川市にある「みんなの工場」でリユースファッションショーを開催する。

挑戦の壁に、企業で皆と挑む。

今井さんの経営者としての姿勢や判断には尊敬の念を抱かずにはいられない。一方で、社員の人たちはどのように感じているのだろうか、社内での様子についても聞いてみた。

最初は「服を集める必要があるのか?」「そこまでやる必要が本当にあるのか?」といった声が上がることもあったそうだが、会話を重ねるにつれ、プロジェクトメンバーの目線が揃っていったという。

今井:「今ではみんな自由に動いて進めています(笑)。結局みんなリユースをやりたかったんじゃないかな。そうでなければこのスピード感では進んでいなかったと思います。そもそもこういったことに興味がある人たちが集まって来て、その想いを発揮して昇華できる場所がSHIROなんじゃないかなと思います」

今回の取り組みが実現するまでには何度も話し合いを重ね、約半年の時間を要した。プロジェクトを進めるためにはコスト、オペレーション、生産体制など様々なハードルがあり、一時難航する時もあった。しかし、「やるべきことをやる」という今井会長の想いが次第に社員にも広がり、メンバーが自発的に進めることで、最終的には自社製品のリユースだけではない、業界を超え社会に必要とされる衣類回収という大きなテーマへ挑戦することが実現した。

今井:「今回の実証試験が上手くいかなかったとしても、諦めるつもりはありません。なぜなら、それが社会に本当に必要なことだと思っているから。そもそも企業はもっと社会的に価値あることに利益を使うべきで、この取り組みを通じて民間企業のあり方自体も変えていけたらと考えています」


いかがでしたでしょうか?

当たり前のことを、当たり前のようにやる。
シンプルだけど実際に取り組んでみるのは難しいもの。ましては企業ならなおさらかも知れない。

それでも挑戦し続けるのは、今井さんの価値観を礎にSHIROというブランドが存在し、同じ価値観を持つ社員一人一人が主体的に取り組んでいるからなのではないかと思いました。

ぜひSHIROのお店に行った際は使用済みガラス容器と洋服を持ってきてみてください。

売る?捨てる?パストする!

関連リンク

REUSE SHIFT
https://www.reuseshift.com/