ドリーとジャンゴ、そしてみどりちゃんのこと(広島ジャンゴ2022)

ジャンゴって何者だったんだろう

ジャンゴは娘を守るために一日一日を生きている。相手の事情への深入りは避け、自分たちに火の粉が降りからないように、慎重に生きている。

酒場では娘のケイをもっと自由にさせてやれ、かわいそうだ、と言われ「なんにも知らないくせに!」と感情を爆発させる。宿代を払ってとせがまれ契約が違う、筋が通ってないと堅物ぶりをみせる。

郷に入っても郷に従わないジャンゴ。娘を守るためなら手段を選ばないジャンゴ。

そんな彼女は最後、ヒロシマに戻るという。
娘を一人で生かすことになっても、命をかけてティムを倒すことを決意する。 

そこまでジャンゴを変えたのは何だったんだろう 何だったんだろうか 

思い当たるのはただ一人 ドリーだ

幼なじみであるはずのドリー

ジャンゴが処刑場に飛び込んできて、娘の絞首刑を私と変わってくれと訴え、リンチを受けて絞首台へ向かうとき、ただ一人とうとう声を上げた、それが幼なじみのドリー。


あの時のドリーの熱弁は本当に救いだった。客席も追い詰められすぎていて、その”ヒーローの登場”を待ち望んでた。
ジャンゴは倒れて遠のく意識の中でドリーの声を聞いたのかな。

ドリーをいじらしいと思ったのは「あたいにはよくわからないけどさ、むやみやたらに解雇したらいけないって法律で決められてるんだ」「法律書にちゃんと書いてあるんだ」というようなことを叫んだこと。

酒場を守ろうとひそかに法律書をめくっていたのだろうか。法の知識とは無縁そうなドリーが必死に、生きる上で弱きものを守ってくれるはずの法を盾にしてティムに立ち向かった。
「大の大人がおんな子どもに暴力奮って殺してさ!」と。

ドリーこそ、木村が大好きだった西部劇のヒーローになり得る人だった。

「あんたたちだって本当は気づいているはずだ、ティムがあたいたちを苦しめているんだってことを!」
ドリーの叫びに人々は力をもらい、ティムへの恐ろしさをはねのけて顔をあげた。立ち上がり、今こそ変わるときだ、尊厳を取り戻すんだと拳を挙げた。

____しかしそれは、つかの間の 本当につかの間の拳だった_____

あっという間に、ティムによる演説、応援歌による洗脳、卑怯な脅しで仲間たちの手のひらが返り………そしてドリーは、あっという間に帰らぬ人となった。

・・・どこかで聞いた話だと思いませんか。度々、現実世界の社会でもドリーとティムのような関係性の下剋上がニュースになりますね…そして忘れ去られていく。
野球界の某巨大チームでも似たようなことがありませんでしたか。結局大きな力にのまれてしまったように記憶しているけれど、あれのオマージュにも感じた。

あっという間に扇動されていく仲間たちが恐ろしかった。赤く照らされた舞台がもうドリーの運命を物語っているようで。まるで操り人形になったかのような仲間たちの手で、ドリーは殺された。

ジャンゴがヒロシマへ戻った理由

結果的に助かったジャンゴと娘のケイ 

今まで本気でジャンゴと娘のことを“気にかける”存在は誰もいなかった みんな表面だけ見て、やれかわいそうだ、もっと自由にしてやれだ、無責任に言ってきた。
そんな中ドリーは危険を承知で声を上げた。ジャンゴたちのためだけではないかもしれない、町の人達のためかもしれない。

“だれも自分たちを理解などしない”と頑なだったジャンゴに、そうじゃない、誰かのために手を差し出そうとする他人がいると身を挺したドリー
ドリーがジャンゴを変えたのかな。
一幕終わりには、若かりし頃ドリーとナイトクラブで楽しそうに踊るジャンゴがいた。それから時がたちしんどい経験から殻にこもったジャンゴに、あの頃のジャンゴを思い出させたのかもしれない。

ドリーがふりしぼった勇気がジャンゴを街に戻した。

ジャンゴとみどりちゃん

戻ったヒロシマの街で不条理と戦い傷を負ったジャンゴ。そこに現れた木村の姉、みどりちゃんはジャンゴに自分を重ねたのかもしれない。誰もみどりちゃんの事情を、胸の内を知ろうもとしなかった境遇はジャンゴと似ている。
傷ついたジャンゴを優しく抱きしめて、そしてみどりちゃんはその戦いを引き継いだ。

このシーンはおそらく意味のあるシーンで、みどりちゃんは今まで木村の前には現れていたけれど、夢のなかであるヒロシマの出来事に自ら関わることはなかった。
それがジャンゴがヒロシマのために手を差し伸べそして倒れた時、ヒロシマに現れたみどりちゃんは精悍な表情でジャンゴの戦いを引き継いだ。この時のみどりちゃんはブラック企業で愛想笑いを浮かべ続けざるを得なかったみどりちゃんではない。覚悟のきまった人の顔をしていた。

みどりちゃんがブラック企業に苦しんでいるとき、そんな彼女に誰かが気づいていたら。声をかけていたら。そうしたらみどりちゃんの道は違ったかもしれない。あの時は誰かに助けてほしいとさえ考える隙間も残されていなかっただろうけれど、もし伸ばされていた手があったとしたら、掴めていたかもしれない。
今度はヒロシマの世界で、みどりちゃんはみどりちゃん自身がその伸ばされた手になった。ジャンゴに手を差し伸べた。

そして後々、今度はその一部始終を見ていた木村が、現実世界の牡蠣工場で山本に声をかけることになる。手が、手を紡いでいき、小さな一人が救われる。

「あんたは、できる子なんよ」
弟とおでこをぴったんこして、みどりちゃんは弟に伝えていたね。。。

ドリーってだれなんだろう


ドリー。
ドリー、後半でとうとうティムに耐えかねて反旗を翻したように映りがちだけど、よくよく思い出してみるとエリカが襲われそうになったとき「やかましいんだよ」と迷惑を装って場を止めたり、生活に困ったチャーリーの妻を雇ったり、実はあの中で唯一、最初からみんなをそっと見続けていた人だったんだなとじんわり思い出す。
あの酒場の女亭主然たるドリーが、自分を、みんなをティムから守るために六法全書だか法律書を影で読み漁ってたなんて泣ける。

ドリーの勇気がジャンゴを街に戻らせ、ヒロシマで戦ったジャンゴが倒れると、今度はジャンゴのためにみどりちゃんが現れて、そしてジャンゴの代わりに戦う

なんて構図なんだろう

夢の世界”ヒロシマ”と現実世界”広島”の登場人物が二役で重なる舞台で、ドリーは牡蠣工場のシーンに出てこない。

その意味するところとは…

ドリーとミドリー
やはり私は、ドリーはみどりちゃんのもう一つの姿のように思う。

誰も手を出せなかった処刑場で、声を上げたドリー。弱きものが無力に痛めつけられるのを見ていられなかったドリー。一生懸命、なけなしの法の知識をふるったドリー。
みどりちゃんが木村に見せる夢の中で、ドリーは一人、勇気の持ち主だった。

みどりちゃんはジャンゴに己を重ね、ドリーに希望を託した。ドリーは殺されてしまったけれど、その行動はジャンゴの心を動かした。ジャンゴがヒロシマに帰ってきたことで、守ってほしかったあの日のみどりちゃんを、ジャンゴが守ったのだ。倒れたジャンゴに代わって、みどりちゃんはまるでジャンゴの分身のように、ドリーの分まで戦っているようだった。

牡蠣工場の山本はブラック企業のみどりちゃんであり、ヒロシマのジャンゴもみどりちゃんと同じ立場だ。そして帰らぬ人となってしまったドリーは、みどりちゃんの必要としていた存在だった。

みどりちゃんはブラック企業でジャンゴの苦しみを味わったし、ドリーの勇気が必要だった。ジャンゴとドリーは、みどりちゃんの苦しみと勇気の象徴だったんじゃないかな。






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