スウィンドル・ミラの自宅

⚠ミラの自宅を脳内脚本に添わせて描写を追加したものです 一部追記しつつ、なるべくシンプルに書いてますが、苦手な人は苦手かも。私の主観なのでそこらへんもオッケー、なんでも来い!好きやねんそういうの!…という、方向け。
すこしでも、脳内再生を濃くできますように。

第8場C ミラの自宅

♪フレッシュなストロベリー
   熟したダークチェリ
   すみれにたばこ

重厚で大きなドア

足を止めたシエロはフゥと浅く息を整えた

ノックに返ってきた「入って」の声に、重たいドアをぐいと開ける

ゆったりとカウチが置かれた広い部屋 間接照明の灯りが夜に合っている 奥の大きな窓からは細い三日月がのぞいていた 

カウチに腰かけたミラに声をかける

「ステキなご自宅ですね」

「急に呼び出してごめんなさいね … 大事なお話があったものだから」

「専務の呼び出しを断る男はいませんよ」

「そう言っておきながら、あなたはちっとも私を開けようとしない」

――喉の奥深くにどろりとするものを感じたが、気づかないふりをする

「さては、先に飲み始めてましたね」

「えぇ、今日は大変な1日だったの」

… ミラの差し出すワイングラスを受けとり、くるりと回してから口に含む   この味わい… すぐに思い当たる

「エルミタージュ・ラ・シズランヌ」

「まったく! 一体これまでどれくらい開けてきたのかしら」

言い当てられ、どこかはしゃいでいるミラに話を合わせる 今夜はずいぶん機嫌がいいようだ

「いちいち数えちゃいませんよ まぁ、でも年に3000本ほどは集めています」

「それだけたくさんあればニセモノをつかまされることもあるでしょう。 どうしてもっと慎重に吟味して選ばないの? 」

「ひたすら用心深く生きて、一度も騙されることなく生涯を終える 。そんな人生に価値がありますか? 」

「騙されるのも人生のスパイスってこと? 」

「えぇ」

「確かにそうね、悪くないわ」

ミラはシエロの答えが気に入ったようだ 

相手の期待するレスポンスを与えてみせる こんなことが10年の間にすっかり身についていた

シエロはもう一度ワインを口に含み、立ち上がる

「ローズマリーで焼いた羊のローストなんか合いそうだ」

「えぇ もしくは味の濃いメキシコ料理なんかも合うんじゃないかしら」

「うん、いいですね」

「作ってちょうだいよ あなたナチョス作るの上手でしょ」

―――グラスを揺らしていた手が止まる 空気が気持ち悪くゆらりと揺れた気がした

「やっと思い出したの もう10年くらい前かしら」 

「ワインの買い付けでカリフォルニアへ行った時、フードフェスに寄ったことがあったの 差別的な酔っ払いが暴れだして会場は騒然」

「でも大丈夫 勇敢な青年が追い払ってくれたわ」

「… 勇敢で… 貧しそーうな青年だった」

―――肩に力が入る 動けない まさか

「人って変われば変わるものね」

衝動的にグラスをテーブルに戻し踵を返す 

――知られている――

出ていこうとするシエロを止めるように、ミラは続ける

「あら誤解しないで 非難したいわけじゃないの」

「もちろん訴えるつもりもない これまで通りやっていきましょう」

ミラは優雅にタバコに火をつけ、そしてゆっくりとけむりをはく

「でも、マージンは少しあげさせてもらうわ」

伸びてきたミラの白い手がシエロのスーツの襟をつかんでたぐりよせた そのままカウチまで連れてくる

「そうね・・・落札額を・・・半分こってことでどうかしら」

ミラはいいながらシエロの赤いストールをシュルリと抜き取る 

「… ワインの味が 分からなくなりますよ…」

「酔えれば一緒でしょ」

絞り出した言葉もかき消された

ミラのタバコをシエロにくわえさせる

 ―― お望みのままに ――

シエロはミラを乱暴にカウチへ押し倒すと、気づかれないよう小さく息を吐いた

そして、ゆっくりミラに覆いかぶさっていく

……… 暗転………

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