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育児戦争/家政夫と一緒。~その3~

旅の途中


「ねぇあーちゃー、むかしばなしして!」
「⋯⋯ん?そうだな」

―――あるところに、頭の悪い男がいました。
その男は、自分の手で誰一人不幸せにすることなく
皆を笑顔に出来ると信じて旅に出ました。

「いいひとだねー」
「⋯⋯どうかな?」

―――ですが。
男が一人笑顔にするたびに、どこかで誰かが泣いてしまいます。
どんなにどんなにがんばっても、絶対に誰かが泣いてしまうのです。
男は悩みました。

「……。
 なんかかわいそうだね……」

―――頭の悪い男は、自分の力が足りないのだと思い、

〝自分の事はどうでも良い、だからみんなを笑顔に出来る力が欲しい″

と、神様に祈ったのです。

願いが叶って、男は大きな力を得ました。
―――けれど。
たくさんの笑顔を守る代わりに、もっとたくさんの泣く人が生まれてしまいました。
当たり前の話でした。
誰かを助けるという事は、誰かを助けないという事だから、です。

「な、なんで⋯⋯?」
「ん⋯⋯?」
「そんなのないよ⋯⋯。
がんばってむくわれないのは⋯⋯ぐすっ⋯⋯かわいそうだよ⋯⋯」

「―――。
 ⋯⋯⋯⋯」

―――でも。
男は何も後悔などしませんでした。
だってその力で笑顔になってくれた人たちは、男に一杯の笑顔で笑ってくれたから。

いつしか男は、その笑顔を見たいから旅を続けるようになりました。
男は頭が悪いから、それだけでどんなに辛くてもがんばれてしまうのです。
遠い空、いまでも男は旅を続けています。
苦しくても辛くても、その手につかめる人たちの、ほんの小さな幸福と笑顔を守るために。

「⋯⋯おしまい」
「ね、あーちゃー」
「ん?」
「そのひとは⋯⋯いまでもしあわせなのかな?」
「―――ああ。
幸せだ。
君達のこんなに素敵な笑顔を、そいつは守れているのだから、な」

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