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モスクワのマジシャン インタビュー

マジシャン トゥイチー・ハン氏「私は兄の結婚式の日に生まれ、常に自分はアーティストになるものだと確信していた。」

雑誌『今週の論点』第7(498)号2016年2月26日
インタビュー:オレーシャ・ヤクーニナ 露語原文

 ロシアのアーティストで、マジシャンとして名誉ある功績をおさめられているトゥイチー・ハン氏。現在、踊る噴水サーカス『アクアマリン』にて、3つの演目『槍刺し』『空間移動』『水中解脱』に出演中である。

Q. 噴水サーカス『アクアマリン』の『ドリームショー』では、トゥイチーさんのマジックは以前よりさらに難しく、インパクトのあるものになっていますね!」

A.「はい、演目のストーリー、音楽、衣装とも、どちらかというと古典的なものに変えました。オリエントっぽさも残していますがね。私が水槽の中で姿を消す演目では、金襟とルビーがついた明るい赤の上着と、キラキラの乗馬ズボンを着て、ステージに登場します。私は様々な姿になりますが、外見だけでなく、振る舞いも変えます。演目の難易度について言えば、『解脱』の時には極限まで長く水中にとどまります。他のショーの時は、反対に、演目が長くなりすぎないよう水の中に居座らず素早く演技をすることを求められました。『アクアマリン』では、皆本腰の入った演技をします。アシスタントが私をチェーンで固定し、錠をかけ、3重に、顔に至るまでテープを巻き付けます。『槍刺し』ではアシスタントの女性が入った箱に、簡易版の15本ではなく、28本の槍を刺します。」

Q.「娘さんでアシスタントをされているフェルーザさんは、魅力的な演技をされていますね。何歳から練習をしているのですか?」

A.「4歳からですね。11歳からプロとして舞台に上がるようになりました。息子のティミールは今5歳ですが、もう日本の出張公演で舞台デビューを果たしましたよ。毎晩手品の練習をしています。3月8日、国際女性デーの祝日には、幼稚園で手品ショーをさせようかと。ティミールはもう何百回と出演したことから、ショーが好きになり、もう怖がったりもしません。まだ彼に給料はやっていませんがね。ご褒美としてトランスフォーマーのおもちゃやお菓子を買い与えたりしますが、まだお金には関心がありませんから(笑)「お父さん、お父さん、今日のお辞儀、見てよ!」って言って、即席でしてくれるんです!幼稚園では皆を笑わせていますから、彼の血にはアーティスト魂が流れているんです。」

Q.「今回サーカス『アクアマリン』のショーの中で行われている演目は、どのようにして思いつかれたのですか?」

A.「妙技は何の前触れもなく思いつくものです。例えば演目『空間移動』では、舞台の真ん中で女の子が消えて、突然全く別の場所から観客の前に出てきますね。私はある時1か月の休暇中に、とある装置を思いついたんです。演目自体はその後、『魔法の』姿勢を練って完成しました。『槍刺し』は、即興で出来上がったようなものです。私たちは日本の出張公演で演目が「飛んで行って」しまいましたから、何か急いで代わりの演目を考えなくてはなりませんでした。ある日、近所のホームセンターを散歩しておりましたら、2メートルの『槍』を見つけました。花や植物の蔓のための棒だったんですがね。それから一箱分の棒を注文して、全部企画採用の舞台に持っていきました。我々は、実は練習もままならずビクビクしていたのですが、やってみるしかありませんでした。私は専門学校時代に幾何学をかじりましたから、それが物体を多方向から見ることに役立っています。今回も役立ちました!全体として、企画者の皆さんは大変驚き、即座に私たちの演目を採用してくださりました。今でも私は、毎回方法を変えて槍を刺します。例えば目に刺すことも。『水中解脱』の演目は以前プールで公演していたのですが、こちらのほうが今の水槽より簡単でしたね。水槽は動きがかなり制限されますから。少なくとも、プールにおいても、初めてやってみた時には、予定していた時間よりも随分と早く出てきてしまいました。長いこと練習を重ね、今日のレベルに達しました。つい最近、水槽の中で引っかかってしまった時には3回頑張ってようやく回転することができました。冗談抜きでヒヤッとしましたね。グージン氏が考案し手品なのですが、オリジナルは水に入る前に手錠をするだけです。私が『アクアマリン』で行うものは、これよりもだいぶ難しく、手枷も足枷もした上でチェーンをまき、錠をかけ、テープもまいて、頭には袋をかぶせます。」

Q.「普段の生活においてもハラハラするようなことがお好きなんですか?」

A.「いいえ、むしろ逆ですね。運転はとても慎重ですし。」

**Q.「トゥイチーさんの演目は皆、ちょっとエロティックなほのめかしも含まれて、刺激的ですよね」 **

A.「いやいや、私自身は例えば、コメディの役回りもたくさんしますよ。『アクアマリン』のプロデューサーがサーカスのために、故意をもってこのような演目を選んだだけです。」

Q.「手品の世界で、『良い演目』とはどんなものを言うのでしょうか。」

A.「夢のような魔法がなくてはなりません。今の若者は既製品の手品装置を買います。観客を魅了する「謎」のことを忘れてしまっていますね。私はデイビッド・コペルフィルド氏を大変尊敬していて、ジョナサン・ペンドラゴン氏、ハンス・クロック氏、ランス・バルトン氏に手品を習いました。」

**Q.「トゥイチーさんが尊敬する方と、お仕事の外で会ったことはあるんでしょうか?」 **

A.「はい、私はアルチュン・アコピヤン氏の本で手品を勉強したのですが、彼とプライベートで知り合いになった時には、鳥肌が立ちましたね!アルチュン氏が私の演目をご覧にならなかったのが残念ですが。彼の息子さんで著名なマジシャンのアマヤク・アコピヤン氏とはとても仲が良く、家にお招きすることもあります。」

Q.「映画出演はお考えになったことはないのですか?」

A.「『ダイ・ハード』に出演してみたいですね。ブルース・ウィリス、デヴィッド・ステーテム、ニコラス・ケイジの演じる映画が好きです。

Q.「トゥイチーさんはクラウンとして仕事を始めたんですよね。かのユーリー・ニクーリン氏も、きっとトゥイチーさんのことをお褒めになったでしょう。」

A.「私は今でもクラウンの仕事をしていますよ。まず第一幕にクラウンとして出て、二幕からはマジシャン、ということもあります。これについて面白い話があります。ある時マジシャンとしてのインタビューを受けたのですが、その後第一幕のクラウンさんを紹介してくれと頼まれたことがあります。クラウンも私だと言いましたが、なかなか信じてくださいませんでした(笑)。クラウンというのは、最も難易度の高いジャンルですね。常に演じていないと、すぐに表現形式から抜け落ちてしまうんです。」

Q.「トゥイチーさんは家族ぐるみでお仕事をされているんですね。奥様も、娘さんも、お孫さんのディアナちゃんまで、まだ1歳なのにいつも一緒に楽屋におられるんですよね。トゥイチーさんの奥様はクリミアタタールの方だとお伺いしておりますが、トゥイチーさんは民族でいうとどこの人になるんですか?」

A.「私に流れているのは、ウズベク、チュルク、モンゴルの血です。祖母は生粋のユダヤ人です。私は兄の結婚式の日に生まれたもんですから、トゥイチーという名がつけられました。『結婚式の人、陽気な人』という意味です。ごく普通の家庭で育ち、父は運転手、母は主婦でした。」

Q.「ご両親には『トゥイチー、何が手品だよ、定職についてくれよ!』などと嘆かれませんでしたか?」

A.「実は、私は子供のころからよく演技をしていましてね。近所の人に披露していました。例えば、顔にあごひげを付けて、棒を持って年寄りになってみたり。一度も反対されませんでしたが、自然なことです。おばあちゃんは「アーティストになるわね!」って言ってくれましたよ。3歳の時に父の大きなズボンを引き上げて履き、窯から炭をとって顔に塗り、外に出て通行人を笑わせたのを覚えています。」

Q.「では、子どもの頃からサーカスのお呼びがかかっているのを感じていたのですね。」

A.「そうですね。すべて自然の成り行きです。大会でウィリー・ゴロフコ氏のもとに行ったら、こう言われたんです。『君はモスクワに行ってサーカスの修行するんだ!』って。絵の勉強をしていた専門学校は通信教育に切り替えることになりました。成績優秀で卒業しましたよ。それで、油絵の具の香りなしでは生きていられないんです。人生を通して、ずっと絵を描き続けています。心の傑作選の一枚は、日本で描いたクラウンの絵ですね。それからクラウンのグループの絵も。」

Q.「お描きになるのはクラウンだけで、マジシャンは描かないんですね。」

A.「はい、何故か描かないのです。」

Q.「『アクアマリン』で共演されている有名なミカ氏とマカ氏は? 」

A.「そうだ、そのことについても感慨深いものがあります。私たちは同じスタジオで芸の道を始め、1996年まで一緒に働いていました。それから私の方は外国での公演が増えまして、15年越しに彼らとお会いしたんです。楽屋はお隣同士ですよ。」

Q.「ロシアの観客と外国の観客は何か違うものなのでしょうか?」

A.「ロシアのお客さんはサーカス慣れしていて、とにかくたくさん拍手をします。でも日本人の皆さんも、我を忘れて拍手をし、『ブラボー!』と叫び、ヒューヒューいってくれます。普段の生活ではかなり控えめで自己抑制的なのにね。」

Q.「トゥイチーさんのお仕事の中では、普通両立できないものを両立せねばならないように感じます。冷静な計算、情熱、そしてインスピレーションです。」

A.「そうですね。ですから、仕事の前日はいつも調子を整え、演目を通してイメトレを行います。入念な準備が必要です。特に『解脱』の前はいつもうまくいくようお祈りをしていますね。」

Q.「トゥイチーさんの演技を見るときは、観客も祈るような気持ちです!」

A.「それに毎回、こんな考えが頭をよぎります。『今日、急に何かうまくいかなくなるんじゃないか』って。演目を何百回とこなしても、突然、なんてことは起こり得ます。休日の前のリハーサルは舞台に上がるのが怖いですね。そのような日は水槽に潜る前に鎖を少なめに巻いてもらって、怖さを取り除き、本番でももう怖くありません!」

Q.「水の中に潜っていられた最長記録は?」

A.「2分以上です。ちなみに、これは天候がかなり影響します。時々、うまく準備が整ていないと、いつもより早く水面に出てくることがあります。うまくいかないときはいかない。必要以上に長く潜っていられることもありますけどね。」

Q.「あのような難しい演目には、特別な準備が必要なんじゃないでしょうか? 1日の生活のしきたりはどのようにしていますか?ダイエットなんかもしているんですか?」

A.「もちろんです。毎日2500カロリー以上摂取しないよう計算をします。甘いもの、脂っこいもの、辛いもの、塩分の多いもの、その他体に悪いものは食べません。いつもパッケージの成分表記を読みますね。プロテインのドリンクを飲んでいます。公演前3時間は何も食べません。また、脂っこくて重いものは朝から食べません。そうしないと、潜ったときに体内がパニックを起こしますからね。酸素が食べたものの消化を助けますから、胃がいっぱいになってしまえば、体内が酸素を欲するあまりに神経細胞を制して脳にSOSの信号を送るのです。」

Q.「論理的にお答えを乞いたいのですが、シャーマンとか、魔術とか、超能力、お守りの効果といったものが本当に存在すると思いますか?」

A.「私は現実主義者ですから、そんなものは信じません。」

Q.「ブルガリアの有名な魔女、ヴァンガさんの所へ行ったことは?」

A.「ああ、あの人ね。会いに行ってみたいですよ。実はね、いつもとても怖い夢を見るんです。私が海岸で横になっていると、鉄塊の中に閉じ込められてしまうんです。圧迫され重くて、寒くて、動くことも息をすることもできない。周りは静かで、誰も私を助けてくれない。毎回恐怖で目を覚ますんです。この夢を見ないよう、ヴァンガさんに手伝ってもらいたいですね。予知夢もよく見ますよ。例えば、ある時手品の夢を見て、起きて、これは正夢だと思ったんです。実際にその手品は既に存在するものでした。それから私は道具を買って練習を始めました。こんなこともありましたよ。交通警察がニヤニヤしながら私を止めたのですが、手品を見せたら開放してくれるという夢を見ました。翌日には全く夢の通りのことが起きました。」

Q.「トゥイチーさんはタシケントのご出身です。気候も生活様式も異なり、実家があって、のびのびとした所ですよね。」

A.「そうですね、私の家の土地は広くて、動物もいて、のびのびとしていましたね!モスクワ郊外の私の家はもう少しで完成なのですが、トレーニングホール、衣装や装置のための部屋、修理所などもあります。リンゴの木や花も植える予定です。先祖とのつながりを大切にするためにも、時々焚火で家族や友人のためにウズベク料理のプロフを作ります。」

Q.「踊る噴水サーカス『アクアマリン』での公演は『ドリームサーカス』とのことですが、トゥイチーさんの夢についてお聞きしたいです。」

A.「現在練習している、新しい手品を習得したいです。『死のテーブル』と呼ばれる、最も危険な手品です。スポンサーが見つかれば、ドバイの巨大なショッピングセンターやエジプトのピラミッドが見えなくなるくらいの大きな建物を建ててみたいですねえ。」

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