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永遠の春

 決起の時はきた。
 付き合い始めて2年。彼女の誕生日も間近に控えているし、理想的なシチュエーションだ。それとなく指のサイズも聞いたので調査も万全。あとはジュエリーショップに行って、堂々と「これをください」と言えばいいだけだ。
 そう決意していたが、いざショーケースを前にすると、きらびやかさに圧倒されてしまった。仕事終わりのよれたスーツで入っていい場所ではなかった。しかし彼女のためと、行儀よく並ぶジュエリーを吟味していく。
 あれは違う。これは駄目。必死になって探していると、ダイヤモンドとは違うものが目に留まった。小粒だが綺麗な輝きを放つ、淡いピンク色だ。
「素敵な春色ですね」
 店員がにこやかに言う。
 春色。言われてみればたしかに、可憐に咲きほこる桜のような色をしている。
 添えられたタグには、予算をはるかに超えた額が記されていた。購入すれば、しばらくカップラーメンの生活が続くことになる。だが、これしかないと強い運命を感じた。
「あの、これをください」
 リングを指差す手も、店員に伝える声も、情けなく震えてしまった。だけど決心した。
 たくさんの笑顔をくれた彼女に。
 俺から、春を贈ろう。

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