![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/141253711/rectangle_large_type_2_7c8dad03e3b514bc0752134af80ed71f.png?width=1200)
永遠の春
決起の時はきた。
付き合い始めて2年。彼女の誕生日も間近に控えているし、理想的なシチュエーションだ。それとなく指のサイズも聞いたので調査も万全。あとはジュエリーショップに行って、堂々と「これをください」と言えばいいだけだ。
そう決意していたが、いざショーケースを前にすると、きらびやかさに圧倒されてしまった。仕事終わりのよれたスーツで入っていい場所ではなかった。しかし彼女のためと、行儀よく並ぶジュエリーを吟味していく。
あれは違う。これは駄目。必死になって探していると、ダイヤモンドとは違うものが目に留まった。小粒だが綺麗な輝きを放つ、淡いピンク色だ。
「素敵な春色ですね」
店員がにこやかに言う。
春色。言われてみればたしかに、可憐に咲きほこる桜のような色をしている。
添えられたタグには、予算をはるかに超えた額が記されていた。購入すれば、しばらくカップラーメンの生活が続くことになる。だが、これしかないと強い運命を感じた。
「あの、これをください」
リングを指差す手も、店員に伝える声も、情けなく震えてしまった。だけど決心した。
たくさんの笑顔をくれた彼女に。
俺から、春を贈ろう。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?