「300円ライター」記事に書かなかったこと

 今月から、ザッパラスの『Suzie』というサイトで記事を書き始めている。「数字にまつわるトリビアサイト」、かつ女性向きということで、数学が苦手だった僕がどんなことを書けばいいのか手探りではあるのだけど、これまで公開された記事はなんだかんだで好評のようでほっとしている。

 http://suzie-news.jp/

 ここで書くことになったきっかけは、僕のブログや他のサイトでの記事を読んで頂いた編集さんに直接声をかけられたからなのだけど、特に僕のライター論が印象にあって、「こういうエッヂのあることを書ける人を探していた」という過分なお言葉も頂いた。これで意気に感じない書き手はいない。これだけでなく、彼女は折にふれてフィードバックをしてくれたり心遣いをしてくれるので(そういう編集はほんとうに少ない)、僕も編集の側にまわることもあるし勉強になる。ブログなどを書いていてよかったな、と思うのはこういう出会いに恵まれる時だ。

 だから、『Suzie』でクラウドソーシングサービスの「ライティング」仕事のことを書くのは、実のところ既定路線だった。

 http://suzie-news.jp/archives/15611

 それほどヘビーでない読み物である必要であるので、この記事では触れなかったことはいろいろある。例えば、クラウドソーシング以前にも、「ブログ執筆」のような仕事は存在していた。2005年ごろならば「メールマガジン一本500円」なんて案件もたくさんあったし、無記名での執筆仕事はごろごろあった。今では隔世の感があるけれど、そういうものが普通にアルバイトサイトに載っていたりしていたりした。例えば、月10万円とか出していて、よく見てみると「トライアルで300円で一本記事を出してください」とか書いてあったりしていた。そう考えると、今とはそれほど事情は変わっていないようにも思える。

 当時、僕はブログを書き始めていたが、このような仕事をやる気にならなかったのは、エントリーを書くことで「書きたい」欲求が十分に満たされていたからだ。まさか自分の書くものがお金になるとも思っていなかったし。逆に、お金になると気づいてからの方が大変な思いをしたわけなのだけれど、ここでそのあたりは割愛する。

 もうひとつ。300円ライターの場合、自分の記事のどこが良くてどこが悪いのか、把握するのが難しく、「書き方」が固まってしまう、という弊害があると思う。これはブログを長年続けて、他の媒体で書く機会がないという場合でもそのリスクはあったりするが、なまじ小額でもお金をもらって書いている以上「ライター」と名乗れてしまう。結果として、それほどスキルがないにもかかわらず、「物書き仕事」をしている気になってしまう。

 そのため、ウェブメディアなり、別のクライアントからの発注があった際に、充分なクオリティのものを出せない、という事態が頻発する。つい先ごろも、ある勉強会に参加している人に講演の構成をお願いしたらほぼ文字起こしだった、といった話を耳にしたが、クラウドソーシングの「作業」の感覚で情報をダダ流しにするだけの人が「構成」のスキルを学べるはずがない。

 結果として、クラウドソーシングの「ライティング」募集をまともなコンテンツ制作会社が利用しないのは、そういったスキルの要求に応えられる人が、そこにいないということが分かりきっているからだ。そういう意味では「ライター」あるいは「ウェブライター」といってもピンからキリまでになってしまうし、ほんとうに「書ける人」が限られていく。現場ではどこも人材不足であるのもかかわらず、だ。

 そういった危機感があるから、最近ライターの勉強会が多く開催されているというのが僕の認識なのだけど、結果として誰かが手取り足取り教える、ということがどこかで必要になってくるのではないか。と、いいつつ僕は誰からも教わらずに見よう見まねでやってきたので、見て盗めないような人はそもそもこの仕事に向いてないんじゃないか、と思うのだけれども(笑)。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?