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統計:少年ジャンプ+「彼方のアストラ」Amazon低評価レビューに"厄介なSF警察"は実際どのくらいの割合で含まれていたのか(同人誌再録)

1.はじめに

2019年9月中旬頃、ツイッターを中心に「アニメ版『彼方のアストラ』Amazonレビューに生息するSF警察がヤバい」という話が持ち上がりました。

「少年漫画の設定にすら長文で重箱の隅をつつくSFファンの偏狭さのせいで日本のSFは滅んだ」と結論付けるツイートがTwitter上でバズり、そこから転じて『彼方のアストラ』のSF作品としての是非を問う議論が大きな話題に、

最終的に『彼方のアストラ』原作者篠原健太先生が個人アカウントから声明を出すに至りました。

ORICON NEWS:漫画『彼方のアストラ』“SF論争”、作者が言及 批判に理解も「正しさの視点が違うということ」 - 毎日新聞
https://mainichi.jp/articles/20190918/orc/00m/200/045000c

(※上記のネット記事は2019/10/27現在、公開期限切れで閲覧ができなくなっていますが、https://togetter.com/li/1405406 に篠原先生の当時のコメントが全件まとめられています)

如何にして「アストラSF論争」はバズったか

発信源は美少女ゲームメーカー「Overflow」代表のメイザーズぬまきち(@obenkyounuma)氏による2019年9月14日のツイート。

 (https://twitter.com/obenkyounuma/status/1172558872508108800)
ぬまきち氏はAmazonPrimeビデオのTVアニメ版『彼方のアストラ』配信ページを紹介し、『アストラ』劇中のSF設定に長文で駄目出しする罵倒コメントが数百件ほどの「役に立った」評価を集めトップレビューとなっている様子をさして、日本でSFが流行らない・日本でSFが滅んだ証左と結論づけています。

そして9月16日に、こぴーらいたー作家@風倉(@kazakura_22)氏という方がぬまきち氏のツイートと「アストラ罵倒長文トップレビュー」の本文をスクリーンショットしたものを紹介し、
《いやマジでSFが滅びたのこれです。そして代わりに「異世界」が流行る大きな理由の1つ。物理学警察とか面倒なのがいないため》
と、「異世界モノブーム」と「ゲーム風異世界」の流行に絡めた紹介を行いました。https://twitter.com/kazakura_22/status/1173255808236183552

風倉氏がスクリーンショットを掲載した「アストラ罵倒長文トップレビュー」の現物が画像1枚に収まらないほどの長文であったインパクトも相まってか、ぬまきち氏のツイートがRT、いいね共に約3千件前後に留まったのに対して、風倉氏のツイートは約2万8千件のRTと4万件のいいねを集めました。

このツイートの拡散を受けて「彼方のアストラはSFとしてどうなんだ論議」「そもそもSFが滅んだという主語が大きすぎて暴論である」論議に発展した経緯や当時の当論争を取り巻く空気の説明も兼ねて、当時のTwitter上の意見をまとめたTogetterの一部を紹介します。

【9/17アストラ原作者篠原先生の見解追加】『彼方のアストラ』Amazon低評価レビューが自称SFマニアのめんどくさい長文展覧会になっている話
https://togetter.com/li/1404410
83,085pv 252コメント
『じゃあSF初心者・ご新規さんに、最初に読ませたい作品って何だよ』の考察と推薦あれこれ(「彼方のアストラ」論争を横目で見つつ)
https://togetter.com/li/1405259
135,324pv 673コメント
「彼方のアストラ」はSFじゃない!論争に見てる人が反論『ミステリだろ?』『萩尾望都だろ?』
https://togetter.com/li/1404950
34,620pv 93コメント
SFは滅びぬしあなたの隣にいる
https://togetter.com/li/1404931
11,411pv 130コメント

さて、1件のAmazonレビューが大きな論争へと発展した本件ですが、『彼方のアストラ』のレビューに「SF警察」と呼べるようなレビュアーはどのくらいの割合で存在しているのでしょう。
2019/10/26までに投稿された『彼方のアストラ』原作単行本1~5巻とアニメのAmazonレビューを全件取得し、分析してみることにしました。

スクリーンショット 2022-04-03 173947

よほどの衝撃展開などが無い限り、複数巻にわたった作品のレビューは基本的に第1巻と最終巻に投稿が集中します。
『アストラ』原作も例に漏れず、第1巻と5巻にレビューが集中していますが、1巻のレビュー件数より最終巻のレビュー件数が多少上回っている一方、満点評価をつけるレビュアーの数は1巻の72人から5巻107人と約1.5倍に増えていることから、原作コミックの全巻完走率の高さと熱心なファンの多さが伺えます。

原作コミック1-5巻合計・アニメ、それぞれの各評価値の比率は下記の通りです。

スクリーンショット 2022-04-03 174234

《どうも話がでかくなってる気がするな😅
まるでアストラが大勢のSFファンに叩かれてるように誤解されてる人もいるかもですがそんなことはなく、発端は一つのレビューですよ。》https://twitter.com/kentashinohara_/status/1173554506744745985

という篠原健太先生ご本人のコメント通り、低評価レビューの投稿数とその全体から占める割合は多く見積もっても1割前後であり、原作・アニメ問わず『アストラ』に1回以上レビューを寄せたレビュアーを全員別人と仮定した上で星1レビューを付けた全員をSF警察(※暫定的な仮称)と乱暴に仮定しても、条件に合致するレビュアーは、414人中31人しか存在しないことになります。
ちなみに同じジャンプ漫画である『鬼滅の刃』アニメのAmazon Primeビデオレビュー(投稿数449件)で星1評価が占める割合は9%(星5評価は61%)、
『鬼滅』原作コミック最新17巻のAmazonレビュー(投稿数97件)で星1は3%(星5は84%)です。(2019/10/27調べ)
『アストラ』も『鬼滅』も、全体の評価の数値だけを見ると、コンテンツのレビュー評価としてはまずまずの好スコアを取っていると見て良いでしょう。

アストラ本文-19

アストラ本文-23

(アストラ1巻・5巻・アニメの高評価・低評価レビューの
形態素解析データは有料部分に掲載しています)

トップレビューと第三者評価の相関

ですが、採取した『アストラ』レビュー全件のデータに「参考になった数」(Amazonレビューの下の方に記載されている『○人のお客様がこれが役に立ったと考えています』人数の数)の情報を加えると、様相が少々変わってきます。
原作コミック1-5巻、アニメそれぞれのレビューに付けられた『○人のお客様がこれが役に立ったと考えています』の人数を「(第三者からの)評価回数」と定義し、星1~星5の各レビューに総合で何回「このレビューが役に立った」ボタンが押されたかを集計したものが下記の表となります。

スクリーンショット 2022-04-03 174337

「(第三者からの)評価回数」を基準に星1~星5の点数別に集計した一覧表では、原作・アニメ合わせて31件しか存在しない星1レビューに、31件合計で1051件もの「参考になった」が付いていることがわかります。
原作コミック1-5巻合計・アニメ、それぞれのレビュー支持回数の全体に占める比率は下記の通りです。

スクリーンショット 2022-04-03 174550

カスタマーレビューを閲覧した第三者が「参考になった」評価を付けたレビューは星1レビューと星5レビューに集中しており、原作レビューよりアニメレビューでその差は顕著になっています。

スクリーンショット 2022-04-03 173136

スクリーンショット 2022-04-03 173158

このことから、レビューを実際に書いて投稿する側よりもレビューを閲覧する側 (ポジティブ・ネガティブ両方とも)に、より極端なレビューを好んで「参考になった」と評価する傾向が見て取れます。

メイザーズぬまきち氏は罵倒レビューの投稿や投稿者そのものよりも、罵倒レビューに無言で「役に立った」アクションを送る第三者のネガティブな動きが「アストラ」に好評価を寄せる大多数の動きを上回り、トップレビュー首位の座をキープし続けてなお罵倒レビューへの「役に立った」得票数が増え続けている状況の不健全さを指摘し、それを「SFを取り巻くオーディエンスの今」であるとして日本のSFジャンル”固有”の問題と断言しています。

https://twitter.com/obenkyounuma/status/1174078269898944513 https://twitter.com/obenkyounuma/status/1173766628892237824

ですが、これは本当に『アストラ』のような、(「SFガチ勢」基準を適用すると無限にツッコミ可能な)ライトなSF要素を含む作品固有の現象なのでしょうか。
世間の人気作であるがゆえに本来そのコンテンツのターゲットではない客層にもリーチしてしまい、ファンのポジティブな意見よりもアンチのネガティブな意見の方が幅を利かせるということは(ネット上では特に)よくある現象です。
例えばライトノベル『ソードアート・オンライン』。世界累計発行部数2,200万部(※) 、アニメ・映画・ゲームとメディア展開も盛んな大人気作ですが、
主人公・キリトの名前をもじったスラングが作品・主人公への蔑称やSAOファンへの揶揄の代名詞になるなど、ネット上では面白おかしく不当な評価を付けられがちな作品でもあります。(人気ソシャゲやラノベはネットのおもちゃにされがちな傾向ありますね・・・)

そこで、以降の項目では他の人気作品との比較も視野に入れ、アニメ版『アストラ』と同期に放送された人気作のAmazonレビューの全件取得を行いました。

比較対象として選んだタイトルは
『Dr.STONE』(2019年7月~現在アニメ放送中)と
『鬼滅の刃』(2019年4月~10月アニメ放送)。

どちらも『アストラ』と同期にアニメ放送が行われた少年ジャンプ系作品、なおかつ地上波放送とほぼ同じタイミングでAmazonPrimeビデオでの最新話配信が行われた人気作です。
「宇宙」のアストラに対して「科学」のDr.STONE。果たしてSF警察ならぬ科学警察によるレビューは検出されるのでしょうか。あと鬼警察とか。

次のセクションからは『アストラ』のコミック・アニメのカスタマーレビューについてそれぞれ全件取得したExcelデータを使ってトップレビュー順表示(実際のカスタマーレビューの表示順)と、純粋な「役に立った」得票数順でソートした場合の30位までを比較してみたいと思います。


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