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【家族がアル中?と、思ったら】

アル中ではなく、アルコール使用障害。
前回そんな話をしました。

アルコール使用障害の人の家族さんや身近な人は、やはり本人に対してネガティブな想いを抱きやすいもの。
それがお互いに苦しくなることもあると思うので、まずはアルコール使用障害の基本のキをと思い、第1部に持ってきました。

第2部は、家族さんや身近な人がどう接すればよいかという本題。


アルコール使用障害の人の周りが注意すること

アルコール使用障害のカラクリを頭に置いたうえで…
次の対応を心に留めてみましょう^^

①アルコール使用障害の本人を
ねぎらう/共感する

アルコール使用障害の人は、時と場合を選ばずお酒を飲みますよね。
フツーに考えると、あり得ないですよね。
あり得ないと、腹も立ちます。

「なんで飲むの!?」
「お酒を辞めればいいだけじゃん」
「体壊してまで飲む必要ない」
「本当に堪え性が無い!」
などなど、腹立ちまぎれに出てくる言葉は、相手を責める言葉ばかり。

ところが、第1部で述べた通り、アルコール使用障害の裏番長は、あの『回路』。
お酒が好きで飲むというより回路にはまって飲まざるを得ないため、飲む自分にも嫌気がさしていることも多いと思います。

自分がわかっていることを言われるのは腹も立ちますし、何よりも努力しようとしているゆえに悲しいもの。

ですので、本人の苦労を周りの人がねぎらえると理想的です。
「アルコールを辞めたいんだよね」
「辞めようと思っているのに飲んでしまうのはつらいよね」
など。


②お酒を辞めたいに寄り添う

しつこいですが、アルコール使用障害の人の決意を邪魔するのが『回路』。
つまり、「辞めたい」と口にした次の瞬間に酒瓶を手に…なんてことが起こりえます。

周りの人は、がっかりですよね。

「お酒辞めるって言ったのに!??」
「辞めるって言った気持ちは嘘だった!?」
など、言いたくなります。

一方、本人の「辞めたい」は本気ですので、もしがっかりシーンに出くわしても、
「辞めたいのは本気だったんだよね」
「辞めたいと思ったのに悔しかったよね」
など、本人の心意気をねぎらうことができると理想的。


③断酒

断酒とは、アルコールを一生涯飲まないことです。
節酒といい、アルコール量を減らす対処法もありますが、アルコール使用障害の人の多くは、断酒をしながら残りの人生を生き抜くと思います。
これ、かなりの忍耐が求められるでしょう。
なぜなら『回路』はなくならないのですからね。

例えば、一生スマホをやるなと言われ、簡単に手放せるか。
例えば、二度とswitchに触るなと言われ、今日から実行できるものか。
…難しいですよね。

アルコール使用障害は「物質」依存ですから、スマホやswitchとはくらべものにならないくらい "手放せない感" が強いのだと想像します。

スマホやswitchは「行動障害」と言って、ようは「癖」がボス化したような状態。
つまり、ボス癖を弱体化させれば回復も近いですが、物質依存の場合は物理的に行動(脳)が変化させられているため、本人の癖を直そうが何をしようが依存の『回路』は消えません。

閑話休題、
つまり、本人は1ccでもお酒を口にしたいものです。
「本人も毎日頑張っているし…」と、情けをかけてお酒を渡そうものなら、一気に回路はフル稼働。
断酒や節酒は主治医の指示に従うことが何よりも先決ですが、①や②のように本人の気持ちには寄り添いながらも、③のように態度は厳しく。
バランスが本当に難しい…


④もし飲んだら……

怒りたくなりますよね。
でも、怒りません。
怒ったところで、外で隠れて飲んだり、皆が寝静まったあとに静々と飲んだりすることにつながります。

再度アルコールを飲んでしまっても、それは本人の「本意」ではありませんから、飲んだことは怒らないのがオススメ。
なぜ飲んでしまったのか、飲まないためには何ができたらよかったのかなど、本人と根気強く振り返りができると理想的です。


程度が進むとこわい
アルコール使用障害

アルコールを飲み続けるのも、その人の人生かもしれません。
ただ、その末にはこんなこわい事態が待ち受けているのだ…というお話をします。

①アルコール離脱

有名ですね。手が震えるとか、幻視など、あれです。

医療の診断基準では、次の中から2つ以上が生じた際にアルコール離脱と判断されます。

・発汗や頻脈
・手や指がふるえる
・眠れない
・嘔吐や吐き気がある
・幻覚や錯覚がある
・精神運動興奮(意味不明な言葉を話すなど)
・不安
・全般性強直間代発作(意識をなくすなど)

精神診療プラチナマニュアル第2版

命に直接係わるようには見えませんが、社会生活は大いに制限されます。
会社に行こうとしているのに汗が止まらず、ドキドキが続く…
子守をしているのに吐き気が止まらずトイレのお友だちになる…
友人に誘われたけれど、得も言われぬ不安に襲われて外出ができない…
など。


②ウェルニッケ・コルサコフ症候群

アルコール使用障害は、前述の通り「物質」依存です。
物理的に脳にダメージを加えるため、程度が進むと認知症のような状態になるのです。

ワタシも精神科で何名か拝見しましたが…
なんというか、一般的な認知症とはまた趣がちがう。
一般的な認知症は、どことなく「規則性」があるのです。
物事は忘れ、人のことも忘れていきますが、その忘れ方に規則性を感じ、個性も残っています。
その人らしい言葉や配慮があるんですね。

一方、アルコール使用障害によって認知機能がひどく低下した方は、いろいろな個性がグラウンドゼロになったような感じがあります。
行動に意味が無いような、奇異な印象を持ちました。

あくまでも個人的な経験則ですので参考までに。


ということで、お話おしまい。
アルコール使用障害の人を支える方の、何かのヒントになれば幸いです。



お世話になってます、参考文献

精神診療プラチナマニュアル第2版
松崎朝樹
メディカル・サイエンス・インターナショナル


メンタルヘルス相談 ぱれぱれ