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issue 22 「戦争を笑う、反戦映画 『ジャーヘッド』 」 by ivy

「戦争の映画を通して、平和へのメッセージを」


夏のエンタメラインナップに、ホラー、子ども向けアニメと同じ並びの定番で、戦争モノが登場する。


しかし、テレビで放送されたり、何かの間違いで劇場視聴したり、目にした戦争映画を思い出すと、度々同じ種類の違和感を抱いていた。


日本の戦争映画やドラマは、家族とか恋人とか、大切な存在がいる中で、お国のために戦う姿をかっこよく、悲劇のヒーローとして描いている作品が多い。問題はそこ。


本気で反戦、平和の尊さをメッセージにするなら、取り上げるべくは自己犠牲のヒーロー誰ソレよりも、喪失感だけを抱いた不憫でその他大勢のうちに埋もれた被害者 A、B、C なんじゃないか。戦争の虚しさ、下らなさ、浅ましさを暴き出してこそ、平和の大切さを伝えられるんじゃないか、そんな違和感だ。


さて、仕事終わりにソファに寝っ転がり、安酒片手に見るのにぴったりな戦争映画『ジャーヘッド』は、私の抱いていた違和感を見事に解消してくれた。


何が違うって、この映画、コメディタッチだということ。


イラク戦争下、海兵隊に参加した青年が戦場で華々しく戦う姿を夢見ながら、延々と理不尽な訓練・待機を強いられる様子を描く本作。


だから、主人公たちはほとんど銃を発砲せずに終わるし、夢に見た戦地での活躍はお預けにされ続ける。


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これだけだとものすごく退屈な映画に思えるけれど、余韻に浸る暇もなくテンポよく進むので、案外サラッと見られてしまう。


不謹慎なブラックジョークやお下品なセリフが序盤から頻発し、戦場待期のストレスでどんどん理性が壊れて歯止めが効かなくなっていく様は、まさに狂気!その様は時として、ほとんど動物にしか見えない。


為す術もなく青春を戦争に捧げ、何一つ叶えられないまま運命を翻弄されていく若者たちは、紛れもなく戦争の犠牲者だ。


戦地での経験は、人を殺し合いに依存させ、理性を崩壊させ、且つ何のための戦争か、戦場に立つ者は誰も知らされない。


喪失感とくだらなさの無限ループを繰り返すうちに、見る者の脳に戦争の虚しさや関わる者の悲惨さが不謹慎な滑稽さとともに焼き付いていく。


歴が長くなるにつれ兵士以外の仕事ができないと呟く上官、プロパガンダ映画に熱狂する若者たち、銃を撃たせろ敵を殺させろと発狂する兵士 ……

一言だけ言える。
こんな人生、絶対嫌だ!


勿論、全部が全部こういう伝え方がいい、ってわけじゃないけれど、戦争の悲惨さを伝えるという意味では、今までのどんな反戦映画よりも突き刺さってきたんだ。


平和のために、戦争を笑おう、そんな映画。


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ivy(アイビー)
会社員で物書き、サブカルクソメガネ。
自己満 ZINE 製作や某 WEB メディアでのライターとしても活動。
創り手と語り手、受け手の壁をなくし、ご近所付き合いのように交流するイベント「NEIGHBORS」主催。
日々出会ったヒト・モノ・コトが持つ意味やその物語を勝手に紐解いて、タラタラと書いています。日常の中の非日常、私にとっての非常識が常識の世界、そんな出会いが溢れる毎日に、乾杯ッ!
https://www.instagram.com/ivy.bayside​

イラスト:あんずひつじ

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