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【 レビューあり 】 良い駄々 『わかった顔して難しい本を読む』 長野県

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ZINE REVIEW by 加藤 淳也(PARK GALLERY)

誰だって人生に1度くらい、燃えるような恋をしたいと思うだろう。ドラマチックでロマンチック。偶発的で奇跡的、情熱的で詩的。それは時に甘美で、時に痛みを伴い、時にお互いを狂わせる。

まるで小説の中のふたり。映画の中のふたり。世界が手のひらにあると錯覚するくらい盲目で、刹那的。永遠に続くと信じている。信じようとする。踊りたくなるような、歌いたくなるような、死にたくなるような、そんな恋。

そんな命がけの『恋』の真っ最中という人も、もう一体何回目の永遠だと嘆くあなたも、もしくはとっくに終止符を打って落ち着いてるよというおふたりも、そんなドラマみたいな話あるわけない、と言いながら、いつか、どこかで、と、思っているきみも。

みんなうすうす勘づいていけれど、たいていの恋は、情けないくらい暮らしの延長線上にあって、意外と静かであいまいで、自分勝手でいびつで、近づけばあたたかいけど、触るとやけどする。はじまりはいいけれどだいたい終わりは残酷で、甘さの割りに痛みが多くてアンビバレンス。ベランダでトマトが育ったとか、タオルが生乾きだったとか、刺身が半額とか、そのくらいの小さなドラマの連続で、

月灯りの下で踊るような夜は、まずないし、お城から抜け出す必要も、ない。普段から月の下で踊ってるふたりにしか、恋の満月は昇らないし、ロミオもジュリエットも最後は死ぬ。

でも、少しくらい夢をみたっていいじゃない、と、ぼくらは時々お酒を飲みすぎたふりをして言葉を紡いだり、よろけたふりをして欲望に身を任せたり、誰かの歌に気分を重ねたりしながら、ドラマみたいな恋を探してる。

誰かが書いたシナリオの、主人公になりたがる。淡い夢だと知りながら、駄々をこねるみたいに。でもそのシナリオは最後まで続かない。すぐに『日々』という壁が目の前に立ちはだかり、悲喜こもごものそれぞれの暮らしに立ち返ってゆく。決まって、聞きわけはいいのだ。

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長野から届いた ZINE『わかった顔して難しい本を読む』は、作者本人による平凡でありふれた日々の記録。昨年の冬からはじめた絵日記だと本人は言うけれど、言葉選びのセンスはもちろん、日記に添えられたグラフィックアートが秀逸で、絵日記と言ってしまうのがもったいないくらい。日々の生活から感情がしっかりと切り抜いたアートブックと言える。

そして、暮らしの延長線上にある、小さな恋の『シナリオ』のような日記だなと思って見てた。作者は 良い駄々 さん。ドラマチックで燃えるような恋とは言わないのかもしれないけれど(人それぞれの尺度で)、ありふれた日々への抗い。良い駄々のこねかただなと思ってみると、すべての日記が意味深で、おもしろい。


パーソナルな日々のことが赤裸々に綴られているようで、すべてがオブラートに包まれている。こちらが近づこうとすると逃げる猫のような『日々の記録』に、何だか見透かされたような気持ちになるのは僕だけか。

話は少し逸れるけれど、犬みたいな ZINE と、猫みたいな ZINE があるよね。感覚だけど。

さて、話を戻す。

 時々現れる『君』というスケープゴート的存在によって、暮らしの生々しさややるせなさ、浮き沈みする日々のあいまいな感情が、まるで『真理』であるかののように表現されていて見事だと思った。でも恋人以上か未満か、あいまいな『君』の存在感は最後までどこか軽く、なんだか切ない。『ぼく』が言われているみたいな気持ちになって、心が少しだけざわざわする。全体的にふわふわと、ザラザラとした、倦怠感。


こういうタイプの日記は、ひとりよがりでナルシシスティックに陥りがちだけれど、サッパリと、

「仕方ない」「こうするしかなかった」という声が聞こえてきそうなくらい、ドライにまとまってる。それは、言葉に添えられた一連のアートワークが効いているのかも。


考えすぎかな。『わかった顔して難しい本を読む』ならぬ『わかった顔して難しく本を読みとろうとする』か。

 言葉が好きな人、グラフィックが好きな人なら、両方楽しめる1冊かと思います。

最後に、この ZINE にはそれぞれ1冊1冊、良い駄々さんによるメッセージが手紙がついてきます。1つ1つ違った内容の手紙には、返事を送ることもできます。言葉やコミニケーションを大切にするひとだなと思う。ぜひ、ZINE を買った人は手紙を開いて読んで、返事を送って楽しんでください。


〜 ここからは良い駄々さんから受け取った手紙の返事 〜

一瞬で乾くドライヤー、生乾きのにおいがしなくなるタオル。ちょうどぼくもその開発を望んでいたところでした。ちょうど、今朝、濡れた髪を生乾きの匂いのするタオルで拭きながらこの手紙を読んでいたところです。ぼくが近い将来開発してほしいなと思っているのはこの世から蚊からの苦しみをなくす兵器です。毎年夏になると蚊と戦ってる人類。蚊、いらんでしょ。どうですか。

REVIEW WRITTEN BY 加藤 淳也(PARK GALLERY)

【 ZINE について 】

わかった顔して難しい本を読む、何も考えずに SNS で時間を溶かす、はっと驚く顔して海外の絵を観る、何も考えず漫画で泣く、満足そうな顔してダウナーな音楽を聴く、何も考えずテレビで笑う。そんな平凡でありふれた日々の記録です。内容の違うお手紙が1冊に1つ付いています。

価格:¥1650(税込)
ページ数:32P
サイズ:210 × 297mm 


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作家名:良い駄々(長野県北佐久郡)

2020年冬から、突然の思いつきで日々の記録(絵日記)を綴り始めました。
楽しかったり悲しかったり、むかついたりぼ〜っとしたりしながら、 ""毎日健康"" を目標に生活&制作しています。でかい風呂が好きです。

https://www.instagram.com/__iidada__

【 街の魅力 】
広い空と四方を囲む山。意外と過ごしやすい気候です。今年の夏はエアコン使ってません。
【 街のオススメ 】

① ピッツェリア ジンガラ ... メニュー全てがとっても美味しいです。タルトノアが絶っ品です。

② pace around ... 雑貨・家具・カフェ屋さん。目的なく行っても、必ず欲しいものが出てきます。

③ とんぼの湯 ... 軽井沢にある温泉です。深めのお風呂で、とっても気持ちいいです。


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