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【 レビューあり 】 こうげつしずり 『短編集月と街灯』 神奈川県

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ZINE REVIEW by 間峠武蔵(ゲスト)

この ZINE は、便箋だ。
海に放った、瓶詰めの便箋だと思う。
 
言葉という作品を便箋。それを装丁という瓶に詰めて
COLLECTIVE という海へ放り投げている。
 
返事が返ってくるかは、大きな問題じゃない。
自らの立つ海岸から、まだ知らない海岸を想って、
何度も何度も書き直して、
丁寧に瓶に詰めて、放り投げる。

便箋は海を漂う。
きっと、誰かが見てくれる。
きっと、いつの日か誰かの物語へ繋がってゆく。

それで良いのだ。それが良いのだ。

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サークル『海と空と夜』として、小説を中心に文芸作品を発表している
こうげつしずりさん。

しずりさんの便箋に綴られた言葉は、優しい。

短編でまとまっていて、ひとつひとつがとても短い。
軽やかにページが進んでゆく。
とても読みやすい。

そして、言葉の選び方がとても丁寧なのだと思う。決して難しくない。

だからこそ、短編ひとつひとつのメッセージが
スッと心に入ってくる。

しずりさん自身のZINEについての説明を読むと、
行間や文字の大きさまで考えられていた。
装丁にもマット紙を用いて、自らの特徴を目や手に触れられるようにとこだわっていた。

それらは決して華やかな配慮ではない。
でも確かにここに在って、大きく広い優しさだと思った。

手に取った人の事と、自らの作品の事を考えているからこそなのだろう。
だから、優しい。

書くこと、書き続けることが切実だから、ここまで手が込んでいるのだと思う。とても刺激的で尊敬する作品だった。

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収録されている物語について、1つ触れる。

「紙風船と万華鏡」

幼いふたりの女の子、さきちゃんと、みほちゃんの話。

みほちゃんの辛い事情を知っているさきちゃんは、
夜中に外で、隣に座ったり、お喋りしたり、紙風船をあげたりする。
それは、どうしても心から笑ってほしいから。
だけど表情は、どこかぎこちない。

しかし、さきちゃんにも事情はある。
さきちゃんは、家に帰らなければいけない。
ずっと一緒にはいられない。
みほちゃんだって、それは分かってる。

ふたりは、それぞれの事情に振り回されてしまう。
もどかしいほどに、仕方なく。

家に帰ったさきちゃんは、大切にしている万華鏡を覗いて、想いを馳せた。

そんな物語。

僕はカメラをよく使うから、万華鏡という道具にとても共感した。
ここでいう万華鏡は、カメラとよく似ていると思う。

だからこそ、さきちゃんが万華鏡に馳せた想いと、その先の答えに胸を打たれた。

きっとカメラだけじゃない。
筆で描くこと、楽器を弾くこと、包丁で料理すること、キーボードで文字打つこと、トンカチで釘打つこと。もっともっと、別のこと。
それぞれ、たとえ些細でも大切な事があると思う。
そういう個人的なところに、この物語は届くんじゃないかな。

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僕は普段より写真を撮って、作品としてまとめたりしている。
しずりさんの ZINE を便箋と例えたのだから、
写真を撮ることを、落ち葉を拾うことに例えてみよう。
収録された短編をひとつひとつ読んで、写真は、まるで葉の手紙のようだと感じたから。とても個人的なことだけれど、この場を借りて記させていただく。

僕は、落ち葉を拾う。
美しい落ち葉、意味のある落ち葉、珍しい落ち葉、それは分からない。
自らが選んだ落ち葉を拾う。
その落ち葉が、人によっては汚らわしいかもしれない。
虫が喰っていた、色が奇妙だ、形が歪だ。理由は様々かもしれない。
ただ、その落ち葉を渡して、喜んでくれる人がいるかもしれない。
誰かの手元へ届いて、きっと意味のあることかもしれない。
それなら僕は、落ち葉を探すために、届けるために、向き合うために、留まることなく走っていたい。

そんな事を思った。

そうしてまた、COLLECTIVE や、その他に探せばきっとどこかにある機会の中で、このように便箋や落ち葉は集うのだろう。
ZINE の魅力は、こういうところにあるのかもしれない。

こうげつしずりさんの作品は、広く大きく、切実で優しい作品だと思った。
読書が苦手な方も、少なくないと思う。
それでも、優しく包んでくれる。きっと、気付いたら読み終わってる。

寝る前に是非、ひとつひとつ話を進めてみてはいかがでしょうか。

レビュー:間峠武蔵(ゲスト)


---- 以下 ZINE の詳細と街のこと ----


【 ZINE について 】

自作の短編・掌編小説を集めた短編集です。普段は Web 上にて作品を発表していますが、今回は書き下ろしを加えて短編集として発行しました。文学(純文学)と童話のはざまのような傾向の小説を14作品収録。一番長いものでも4000文字程度なので、忙しい方でも気軽に読めるかと思います。ニュアンスのある淡い紫色が特徴の表紙です(マット PP貼)。本文は、文字サイズ 9.5pt の一段組で、行間・字間ともに目が疲れにくいゆとりのデザインにしました。

価格:¥600(税込)
ページ数:68P
サイズ:128 × 182mm


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作家名:こうげつしずり(神奈川県)

サークル『海と空と夜』として、小説を中心に文芸作品を発表しています。
自然の風景や季節の描写、揺れ動く感情、何気ない日常といったテーマが中心です。短編・掌編などの短い作品がメインですので、忙しい方でも気軽に手に取って読んでいただければ幸いです。

https://twitter.com/umisorayoru

【 街の魅力 】
都会があり、自然があり、山があり、海があり、様々な表情を見せてくれます。
【 街のオススメ 】
ポーラ美術館 ... 箱根にある美術館です。建物自体の内外装も美しいので、訪れた際にはぜひ注目してみてください。



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