見出し画像

【 レビューあり 】 おちゃのまガールズ 『裏道』 東京都

画像1


ZINE REVIEW BY 加藤 淳也(PARK GALLERY)

東京新聞が運営する STAND UP STUDENTS というウェブマガジンの企画と編集を担当している。「学生に新聞を契約させる」というマーケットを想像した時に荒野しか見えなかったので、舵を切り直し「どんな社会にしたいか」「どんな社会であるべきか」という問いを学生に投げて、答えてもらうことにした。その『声』から新聞の役割、必要性を導き出せるのではないか、という前提で、最初の1年は52人の学生に会って話をした。

いまどんなことに興味がある? 学校は楽しい? という話から、自然と、いまの社会をどう思ってるかを聞く。一番多かったのは様々な種類のマイノリティへの言及。当事者意識のありなしに関わらず、なぜ差別はなくならないのか、なぜ目を背けるのか、そんな風に他者を思いやる声が多かった。その次に、将来へ対する漠然とした不安、就活への違和感。進路を決める岐路に立たされた学生が多かったので、その悩みは深刻で、時に教会の牧師のように、ぼくは聞き手にまわった。

選択肢が少ない、レールが敷かれている気がする、同調圧力を感じる etc…。就活を失敗したらまるで人生が終わってしまうかのような論調の学生が多かった。何になるか、形式ばかりで、どう生きるか、が欠けているようにも思えた(もちろん全員じゃない)。

社会に出ないと気づけないこともたくさんあるので、やむを得ないとは思うけれど、もっと多様な選択肢が世の中にはあって、常識では通じないこともあれば、アンビバレントなこともたくさん起こる、それと同時にいつでもやり直せるし、いつでも変われるということを、せめて「心の拠り所」として、この多感な時期に知るべきではないかとぼんやり考えた。同じ就活をするでも、その方がずっと豊かだと思う。

ここで言う「多様性」という感覚は、テレビや映画、本、SNS での誰かの発言を通じて「知ってる」という人は多いと思うけれど、本当に大事なのは自分の中に「インストール」すること。では、どうやってインストールするか。

今回紹介する ZINE『裏道』を手がけるユニット『おちゃのまガールズ』の2人こそまさに、多様性のインストールを1冊の ZINE 制作を通じて成功させたと言える。大学4年生を迎えた2人が ZINE に着手しはじめたのがちょうど1年まえ。COLLECTIVE に訪れてたくさんの ZINE に触れたことがきっかけだと言う。ちょうど『就活』と真剣に向き合わなくてはいけない時期。なのについ「鍋パしちゃう」というモラトリアムがたっぷり詰まった「まえがき(漫画)」から ZINE ははじまる(昨日まで鍋パしてたのに起きたら『シュウカツ』という描写がリアルでたまらない)。

画像3


「私たちが知ってる生き方は少ない気がする」という気づきから実行に移した多様な価値観で生きる6人の「大人」へのインタビューで誌面は構成される。精神病院の閉鎖病棟に入院した過去のある編集者、外国人とルームシェアをしながら出身・子育てをするママ。シティボーイを体現する日本在住の韓国人。ニューヨークで殴られ屋をやっていた過去を持つ割烹の主人、ストリート花屋。

画像5

画像4


学生が受け止めるには十分過ぎる強い個性のキャラクターたちの生き方や考え方、人生や社会に対する「姿勢」が対話に落とし込まれている。まさに「裏道」。人との出会いの数だけドアがあり、それを開ければ、それぞれの人生の道がある。あたりまえのことだけれど、それを自分の手で開けるかどうかで、だいぶ視界は変わると思う。彼女たちは ZINE づくりというエクスキューズをもって、その扉を次々に開けていく。ノックをして確かめながら開ける時はいいけれど、つい土足のままあがってしまったりしているのを見るとヒヤヒヤする。そんな反省も感動も、興奮も粗相も。そのありのままの様子が、それぞれの編集後記に詰まっている。気づきの連続。これがまさにインストールの正体だと思う。何かが解決したわけではないし、これで就職先が決まるわけではないけれど、この ZINE を作ったことで彼女たちが得たエネルギーはとても強いと思う。「心の拠り所」を手に入れたのだ。

DSC09164のコピー


ゼミや留学、課外活動を通じてこういったインストールを行う学生ももちろんいるけれど、「ZINE を作る」という行為に、こんな力があったんだって、知っていたようで知らなかったかもしれない。デザインも文章も拙いかもしれないけれど、それも含めて完璧だなと思う。なぜなら、

ぷろでゅーすばい
わたしたち

だから。年齢関わらず、生きている以上、一生言っていたい言葉だと思うし、もちろんこの人生は誰かのための人生ではない。自分で選べるし、どこにだって行ける。明日やめてしまえばいいし、今日はじめてしまえばいい。そういう一冊。

このレビューを読んでいる人の中に、少しでも生きづらさを感じている人がいたら、ぜひ手に取ってみてほしい。そう思える作品です。

ZINE REVIEW BY 加藤 淳也(PARK GALLERY)


---- 以下 ZINE の詳細と街のこと ---


【 ZINE について 】

早稲田大学4年生のれおにーとなはちゃんが、10ヶ月間、就活をどうする?夢は?といった将来のことを悶々と考えながら、6人の大人にインタビューしました。また2人のコラムや写真をはさみ、2020年の私たちを詰め込んでいます。

価格:¥1000(税込)
ページ数:60P
サイズ:148 × 210mm


画像2


作家名:おちゃのまガールズ(東京都杉並区)

早稲田大学4年生のれおにーとなはちゃんが、若気の至りで作った zine『裏道』。10ヶ月間、就活をどうする?夢は?といった将来のことを悶々と考えながら、6人の大人にインタビューしました。そこから見えてきたものを、みんなに広く知ってほしいなと思い、今回は zine にしてみました。

https://note.com/uramichi_zine
https://mobile.twitter.com/ochanoma_girls

【 街の魅力 】
小さくて年季の入ったお店。
【 街のオススメ 】
① スパイスカレー青藍 ... 細かな食感が楽しいカレーを食べられる。


🙋‍♂️ 記事がおもしろかったらぜひサポート機能を。お気に入りの雑誌や漫画を買う感覚で、100円から作者へ寄付することができます 💁‍♀️