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【 レビューあり 】 おきおよぐあじ 『UGO vol.1』 埼玉県

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ZINE REVIEW by 加藤 淳也(PARK GALLERY)

— この世界に必要なのは「そうぞうりょく」。

幼稚園の頃、自由に組み合わせることができるブロックを使って、大きな城や、恐竜をつくっていたら両親に「すごい」と褒められた。「そうぞうりょくが、ゆたかだ」と言われたことを、子どもながらにうれしく思ったし、それを抱えたまま大人になったと思う。いまもこうしてギャラリーを運営したり、クリエイティブな仕事をしながら暮らせているのは、あの時から「そうぞうりょく」を育むことだけはサボってこなかったからだと思う(ほかのことはずいぶんサボってきた)。

小学生も高学年になると、公園での遊びの時代から、いつしかテレビゲームの時代に取って代わり、フィジカルな世界から、映画のような2次元のファンタジーの世界へと移った。ドラゴンクエスト、ファイナルファンタジーを筆頭に、子どもの「そうぞうりょく」をビシビシと刺激するたくさんの『ゲーム作品』(いま思えばどれもすばらしい作品だったな)が登場し、ぼくらは漏れなくその物語にタッチしていった。

あの時ぼくの「そうぞうりょく」を激しく揺さぶったゲームは、「MOTHER」「クロノ・トリガー」「聖剣伝説2」「ファイアーエムブレム」「ロマンシング・サガ」「ゼルダの伝説」あたりだろうか。懐かしいな。いわゆる名作たち。これらのゲームの特徴としては「クリアに至るまでの決まったレールが存在しない」という点だろうか。主人公次第で進み方が変わる。あと、フィクションとノンフィクションの境目がわからなくなってしまうくらい、世界の作り方が緻密だったと思う。

あのころ、ボタンを押せば知らない国や、異世界、過去にも未来にも行けた。この世に存在しないとはわかっていながら、その世界に思いを馳せることができた。それが「そうぞうりょく」を育んだ。

さて、今回にかぎらず、たくさんの ZINE が全国各地から集まった COLLECTIVE とはまさに「そうぞうりょく」の集合体だと思う。それがフィクション、ノンフィクション関係なく、一度、頭の中に浮かんだ世界を、絵やことば、時に写真で発信していく。さらに印刷して、製本までするのだ。その作業にどれだけの「そうぞうりょく」が必要か。その視点で ZINE に触れると、また違った深みがあるのでオススメだ。

特に今日紹介する ZINE『UGO vol.1』の作者でイラストレーターの おきおよぐあじ さんの世界観、つまり「そうぞうりょく」には脱帽だ。いまこうしてレビューを書いてるいまも、振り返りながら1本の短編映画でも見たかのような気持ちでいる。もしくはあの時、没頭していた大好きなテレビゲームをクリアしたかのような気分だ。24ページだったとは思えない。

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ちなみにこの ZINE『UGO』は『バンド・デシネ』というフランス語圏で独自に発展した漫画の形式が採用された、すこし不思議な漫画作品となっている。『バンド・デシネ』は日本、アメリカと並ぶ世界三大漫画文化で『タンタンの冒険旅行』が日本では有名だけれど、カラーが多いというだけで、詳しい規定があるわけではないみたい。

バンド・デシネに関してはここが少しわかりやすく書いてるので気になる人は。

コマ割りも、セリフの置き方、ストーリーの進め方も日本の漫画とはまた違って新鮮(『UGO』も右開きなのが外国っぽい)。半分小説を読みながら半分漫画を読んでいるような感じが不思議で、それを感じるだけでも手に取ってみる価値はあると思う。

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そしてバンド・デシネのスタイルを採用したいと思って実現できるおきおよぐあじさんのデザインセンス、画力もさることながら、ちょっぴり SF じみた『ストーリー』もおもしろかった。

舞台は「エスカルゴ諸島」。もちろん架空の島だけれど、いまぼくらが暮らしている世界の、少しだけ先の未来というような印象がある。例えばひとり乗り飛行機が普及したことで、乗る人がいなくなった「車」の存在や、廃止されゆく「郵便」という制度のこと。『UGO』の vol.1 は、この世界で起きた、ちょっとした「手紙」の物語が収録されている。

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未来の話なのに全体的に漂うノスタルジー感。もしくは過去にあったもう1つの世界なのかも、とか、この ZINE に触れることで、ぼくのそうぞうりょくもまた、踊り出す。

語弊なく言えば、「完璧」とは言えない ZINE というメディアだからこそ、働く「そうぞうりょく」がある。どこかの誰かの「そうぞうりょく」と、ZINE を手にした誰かの「そうぞうりょく」が混ざり合い、ふと、見上げた時に、景色が変わっている。それはあなたが手に入れた新しい視点。そして、たくさんの視点は、人生を豊かにする。すこし大袈裟かもしれないけれど、ZINE にはそういう力がある。

物語はもちろん最高。そしてバンド・デシネや漫画文化に興味がある人は、ぜひコレクションとして1つ持っておくといい作品かと思います。おすすめです。

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そしてさりげなく、絵がとても上手でびっくりします。ほかの作品も見てみたいな。

Review by 加藤 淳也(PARK GALLERY)


【 ZINE について 】

バンドデシネというヨーロッパ独自の漫画形式に触発され、コミックを制作するようになりました。

価格:¥600(税込)
ページ数:24P
サイズ:105 × 148mm


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作家名:おきおよぐあじ(埼玉県入間市)

こんにちは、おきおよぐあじです 。ユーロ漫画のような自由な形式の漫画に興味を持ち、UGOというコミックを制作し始めました。今年で4冊目になります。イラストでは人物を中心に制作しています。玄光社主催のザ・チョイスに入選するなど作品を見ていただける機会が増えてきました。またアニメーションも並行して制作しています。どのような表現においてもさっぱり軽く表現したいと考えています。

https://www.instagram.com/okioyoguaji

【 街の魅力 】
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【 同じ街で活動するひと 】
もんくみこさん ... イラストレーター
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