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【 レビューあり 】 柳沼雄太、鳥野みるめ 『ひびをおくる』 神奈川県

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ZINE REVIEW by 加藤 淳也(PARK GALLERY)

今日(8月6日)の時点で47タイトルのエントリー達成。あいにく47都道府県からまんべんなく、というわけではないけれど、COLLECTIVE では『47』は象徴的な数字なのでうれしい。

届いた全部をまだ読めてはないけれど、今回は『言葉』を大切に取り扱う ZINE が多い。写真に説明が添えてあるとか、イラストレーションに物語がある、など。コロナ禍でなかなか人と話す機会が減ったからかもしれない。自分の気持ちと会話をする時間が増えたからかもしれない。

朝早く起きて、昨日今日という『日々』にピントを合わせるかのように、窓辺でゆっくり詩のような言葉を追うとか、夜眠る前にちょっとお酒を飲みながら物語の世界に飛び込むとか、そういう時間を過ごすのにちょうどいい ZINE が鎌倉から届いた。

本屋の店主で年間100冊以上の読書が生活の一部という柳沼雄太さんと、フリーランスのフォトグラファーとして活動する鳥野みるめさんによる共著。

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東京と鎌倉を行き来する往復書簡を1冊にした ZINE のタイトルは『ひびをおくる』。よくある往復書簡と違うのは、一方は写真で、一方は文であるという点。鳥野さんが撮り下ろした5枚の写真をもとに、柳沼さんが短い小説を綴る。その物語を読んだ鳥野さんがまた風景を5枚撮り下ろす。そしてその写真をもとにまた柳沼さんが続きを書くといったかたち。キーワード、セリフ、景色、モチーフ。あまりにも直接的だと安直に思われてしまうし、間接的すぎると独りよがりになってしまう。

何を糸口にするか、それぞれのセンスが問われるけれど、ちょうどいい距離感でシンクロしているし、ちょうどいい距離感でお互いが好きにやってるのが伝わってくる。信頼しあってるんだろうなと感じる。

こういうのはだいたい『意味深』な感じになってしまったり『蛇足』になってしまうのだけれど、もともと用意されてたかのように馴染んでいる。いい物語にはいい装丁があるように。

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そして何より「写真」が本来持っている<想像力>や<記憶>のトリガーという機能が、この本ではしっかりと役割を果たしていて、物語とうまく連動することで「いつかどこかで見たことのある風景」と錯覚させるし、これが「小説」なのか「本当の話」なのかわからなくさせている。おかげで小説の世界に飛び込みやすいというか、ぐっと近くに感じることができる。後半にかけてだんだんと力強く色づいてくる(夢から醒めたようになっていく)写真の構成にも引き込まれた。

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喪失感と儚さ。クリアになってく現実。こんな恋愛をしたことがあったようななかったような。シティライツがまぶしくにじむような経験は、恋愛じゃなくても誰だってあると思う。

そういえば20代の頃、ふたりと同じように写真と文章の往復書簡をやっていたことがある。ぼくが小説担当だった。ブログで発表された小説と写真は、誰に読まれることもなく、ある日、どちらから切り出すわけでもなく終わり、いまはインターネットというブラックボックスの中。

確かに、その時、感じていた思いをめいっぱい綴ったはずなのに、もう読むことができない。ZINE にして、残しておけばよかったなと少しだけ後悔している。

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---- 以下 ZINE の詳細と街のこと ----


【 ZINE について 】

コロナ禍にふたりが送り合った往復書簡を一冊の ZINE としてまとめたもの。鳥野が鎌倉で撮影した5枚の写真から、柳沼が東京で物語を連想し短篇小説を綴る。柳沼が綴った短篇小説から想起されるイメージを、再び5枚の写真として鳥野が撮影をする。その5枚の写真から、柳沼が短篇小説の続きを綴る。いわば、写真から想起されるひとつの物語をふたりで紡いだ小説。東京と鎌倉という離れた土地に住むふたりの生活にて思うことや感じることを収録する。鳥野が撮影した写真と、柳沼が書いた物語と、手紙にしたためたお互いの生活。それらが寄り添い合って共鳴する様を、ささやかな “いろどり” として読者へ届けたいという思いが詰まった ZINE である。

価格:¥1,650(税込)
ページ数:48P
サイズ:257 × 364mm


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作家名:鳥野 みるめ(神奈川県鎌倉市)

今回の ZINE は、写真家 鳥野みるめと古本屋である「書肆 海と夕焼」を営む柳沼雄太のユニットでの作品です。鳥野はフリーランスのフォトグラファー、柳沼は会社員として働きながら谷保にある『書肆 海と夕焼』の本屋の店主として活動中。それぞれの仕事の傍ら、Web にて「往復書簡:ひびをおくる」を連載。東京と鎌倉でふたりが送る日々を、鳥野が撮影した写真と柳沼が紡いだ小説、そしてお互いの生活を綴った手紙を往復書簡として送り合った。この度、Web での連載をまとめた ZINE『ひびをおくる』を制作。

https://www.instagram.com/torinomirume
https://twitter.com/torinomirume

【 街の魅力 】
東京から1時間、海や山などの自然のある町。そのアクセスの良さや町の柔らかな雰囲気に年間多くの人が訪れる。
【 街のオススメ 】

① 鎌倉文学館 … 多くの文豪が執筆のために訪れた町である鎌倉。川端康成、夏目漱石、芥川龍之介、与謝野晶子ら300人以上います。鎌倉文学館で鎌倉ゆかりの文学者の直筆原稿や手紙、愛用品などを収集保存し、展示しています。 鎌倉文学館…多くの文豪が執筆のために訪れた町である鎌倉。川端康成、夏目漱石、芥川龍之介、与謝野晶子ら300人以上います。鎌倉文学館で鎌倉ゆかりの文学者の直筆原稿や手紙、愛用品などを収集保存し、展示しています。

② 蕪珈琲(カフェ)… 長谷の収玄寺の境内にあるカフェ。元は古民家だったところを東京芸術大学のプロジェクトでリノベーションをしカフェとして営業。内装だけでなくインテリアなども含め東京芸術大学の方が空間デザインをしており、それぞれの場所で自然を楽しみながらハンドドリップした淹れたてのコーヒーをいただけます。


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