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【 レビューあり 】 polaris 『記憶と記録』 東京都

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ZINE REVIEW by 加藤 淳也(PARK GALLERY)

小学6年生の時に、近所のレンタル CD ショップに取り憑かれて、おこづかいやお年玉を CD のレンタルに注ぎ込んだ。その時たまたま借りた『今夜はブギーバック』という CD が僕の人生を狂わせることになる。いや、厳密に言うと、『今夜はブギーバック』が収録されていた『ポテンヒッツ』というスチャダラパーのアルバムの中の『Get Up And Dance』という曲を聴き、進むべき道が決まった。

ヒップホップの専門用語で一言で言えば「ポッセカット」(ユニットをまたいだ仲間たちで1つの曲を作る作業)。『Get Up And Dance』はスチャダラパーを筆頭とした10組近いラッパー、ミュージシャンが集まり、東京スカパラダイスオーケストラのサウンドで『旅』をテーマにそれぞれが歌い、踊るパーティーチューン。その中で、リーダーの BOSE がこうラップする。

「人との出会いが旅だから借金してでも行きたいな」

旅行と言えば家族で松島に行ったことくらいしかなかった少年は、スピーカーの前で動けなくなった。

「人との出会いって、旅なんだ⋯」

宮城から福島、福島から東京、東京から山形へと転校を繰り返していた。悲しい、辛いと思っていたそのすべての転校先での友人たちとの出会いと別れが、大切な『旅』の経験だったのだと気づき、下の毛も生え揃わない小さな体を震わせた。

旅で出会った仲間と、1つの曲(のようなもの)を作ることが、ぼくの夢となり目標となった。そのための40年だったと思う。

今日紹介する ZINE(もはや書店に並んでいても遜色ない立派な雑誌だ)『polaris』を読みながら思ったのは、そんな昔話。

「時代から取り残されたもの」をテーマにしたトラベル・マガジン『polaris』は、ただの旅雑誌ではなく、旅のあり方を、様々な視点で見つめ直すための1冊で、昨年の COLLECTIVE でも、そのクオリティとセンスのよさで、一線を画す存在となっていた。2021年の新作となる今作の副題は『記憶と記録』。前作にも増してデザインもテキストの構成も洗練されている(←何を偉そうに)。

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旅先をネットで検索し、旅先の様子を Instagram に投稿。旅の思い出をブログにしたためる。そこにあるのは、確かに便利になったけれども満たされない何か。

その「満たされない何か」の正体を探るための文化人類学的トラベルを、本誌ではさまざまな切り口で繰り返している。編集長の塗木拓朗氏と仲間たち6人で編集、制作された『polaris』(先人たちが旅の道標としていた北極星の意)。美しい写真と、感情に訴えかける抽象どの高いイラストをベースに、旅、記憶、記録に関するエッセイやインタビュー、 コラムで構成された読み応えのある1冊。

モロッコの砂漠、カンボジアの遺跡にいたかと思えば、アメ横の魚屋で働く1人の青年にその生き様をインタビューをしている。かと思えば夢の国 某 D 、夜間飛行とも言えるスナックとの出会い、そして最後はロンドンの刑務所にまで。記録には残らないけれど記憶には残る、そんな「記憶」をめぐる旅の物語が収録されている。

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旅先には必ず案内人がいて、会いたい人がいて、別れがある。

まさに「人との出会い」という「旅」を6人は楽しんでいた。

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コロナ禍で「旅に出れない」人が増える一方で、「旅みたいなこと」も増えてきている。小説の中を旅したり、映画の中に飛び込むひともいる。ローリングストーンズのレコードをかけて青春の旅をする人もいるだろう。COLLECTIVE に集まった ZINE の中にも、まるで旅をさせてくれるような作品がいくつかある。

考え方次第で、いつだって、ぼくらは旅に出られる。

例えば『polaris』を手にすることではじまる良い旅もある。

人との出会いが旅だとするならば、ZINE 1冊1冊に、出会いがあります。ぜひ、COLLECTIVE で、旅の道標になるような、1冊に出会ってください。

縁もたけなわ。おあとがよろしくピースバイナラッ!
(スチャダラパー『Get Up And Dance』より)

レビュー by 加藤 淳也



【 この ZINE について 】

今回のテーマは『記憶と記録』。モロッコの砂漠、アメ横の魚屋、カンボジアの遺跡、ロンドンの刑務所。記録には残らないけれど記憶には残る、そんな「記憶」をめぐる旅の物語。

価格:¥1,980(税込)
ページ数:104P
サイズ:182 × 257mm



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作家名:polaris(東京都渋谷区)

polarisは「時代から取り残されたもの」をテーマにしたトラベル・マガジン。デジタルの発達によって私たちの旅は、とても便利になりました。一方で効率やSNS映えを求め、ありきたりな旅の情景が世界を覆い尽くしています。私たちは、毎号文化人類学的テーマを立て、旅の途中にある断片的なものにフォーカスします。

https://www.instagram.com/polaris_magazine

【 街の魅力 】
自分が信じたカルチャーを表現している人々に刺激を受けた街
【 街のオススメ 】
100BANCH ... 未来をつくる実験区、東京渋谷ヒャクバンチ。常識にとらわれない若いエネルギーの集まりが、100年先の未来を豊かにしていく。若いクリエイターたちの様々なプロジェクトが集結する実験区で、polarisのオフィスでもあります。SHIBUYA STREAM の隣にあります。遊びにきてください。


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