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【 レビューあり 】 Muziik 『路上占い師が路上から見ている世界』 栃木県

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ZINE REVIEW BY 加藤 淳也(PARK GALLERY)

恵比寿の某ビル。6階へあがるエレベーターに乗り込むと1人の女性が後から同じエレベーターに乗り込んできてぼくに言う。

「6階ですよね?」

エレベーターが開くとそこは小さなバーになっている。店名は忘れた。カウンターが7席。2人は1席だけ空けて座り、ぼくはビールを頼んだ。そういえばたくさんお店があるのに、なぜぼくが6階に行くとわかったんですか?と聞くと彼女は「占い師だから」と答えた。そのあとすぐに「決まっているの」と続けた。とてもきれいな人だし、気が合えばよかったと思って話しかけたけれど、一瞬で「怪しい」「怖い」「詐欺かも」と思い直してウイスキーに視線を戻した。

南米にあるというパワースポットの話をさんざん聞かされたあと、ぼくはあまりそういうのは信じていない。と、伝えると、目を覗き込むようにして「信じなくてもいいけど後悔するかも」と笑っていたのを覚えてる。

こんなエピソードのあとにおかしいかもしれないけれど、今回紹介するのは、餃子の街でおなじみの宇都宮在住の占い師 Muziik(ムジカ)さんによるZINE 『路上占い師が路上から見ている世界』。一気に興味を惹かれるインパクトのあるタイトル。

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『路上占い師』と聞くと、どうやらさっきのぼくと同じように、「怪しい」「怖い」「詐欺」と思う人が多いと、冒頭に書かれているが、ZINE のつくりはもちろん怪しいものではなく、むしろシンプルで、Muziikさんが派遣社員の事務の仕事から、路上占い師に転身したきっかけや、そこで知り合ったお客さんとの交流、意外な気づきなどを綴ったエッセイになっている。日頃から note や SNS に書いていたことを追記し、まとめた1冊だという。

意外と占いのニーズがあるということ。意外と人は気軽に話しかけてくるということ。占うというより問いかけのような行為であることへの気づきなど、想像していた『路上占い師』のイメージの範疇を超えてくるお客さんとの交流やエピソード、分析が、大袈裟ではなく等身大の視点で淡々と語られているので、読み物として単純におもしろい。

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占いとはそもそもなんなのか、という正解を教えてくれるわけではなく、Muziikさん自身の<自問自答>が描かれているのも、スッと入っていける理由の1つ。神が、宇宙が、星がと言われるよりずっとわかりやすく、占いを通じて、ポジティブに生きる方法や、自問自答を含むコミュニケーションの大切さを教えてくれるようでもある。しかも押し付けることなく寄り添うように。まるで宇都宮のオススメの餃子の話をしてるのと同じようなくらいのテンションで。

占い師はあくまで翻訳家で、カードと誕生日から導き出されたメッセージが、誰かの勇気や自信に繋がったり、緊張の糸を解いたり、変化のきっかけになればと文中で話すMusiikさんならではと言える。正解を導くのではなく、そっと手を添えるような、サポートを、問いや、会話の中で築いていく。あくまで道を歩んでいくのは占ってもらったその人自身なのだ。

読み終えると、胸の中に少しだけ明るくあたたかい、ろうそくの炎みたいなのがポッと灯される感じがある。スピリチュアルとはまた別の不思議な力のある ZINE だなと思います。オススメです。

さて、冒頭のバーに戻る。

「占ってあげる」

かたくなに信じようとしない僕に嫌気がさしたのか、酔いがまわったのか、ここで会ったのも縁だということで無料で5分だけ占ってくれた(普段は30分で1万円)。手を取られ、誕生日と、名前を伝えると、また目を覗き込んで「あなたは、文章を、書いて」と彼女。オーラは緑で、公園のような人だと続けた。

占いで人生がどうにかなってしまうとは思わないけれど、いまこうしていろいろなところで文章を書いて、それを読んで誰かが喜んでくれたり、勇気や自信に繋がったり、時に誰かのガイドになったり、そういう仕事をするようになって、時々、あのバーの夜を思い出す。あの時「文章を書いて」と言われなければ、ぼくは今頃物を書く仕事なんてせずに、そのままデザインの現場に残ってた(残れなかった)かもしれないと思う。最後に彼女が言い残した「そう決まってる」という言葉が忘れられない。

いまなら少し信じることができるかもしれない。
信じた方が楽しいかもしれないとも言える。

ZINE REVIEW BY 加藤 淳也(PARK GALLERY)



【 ZINE について 】

路上占い師が路上占いをはじめたきっかけや、出会ったお客様のことなど
路上から見える世界を綴ったエッセイ的 zine です。

価格:¥900(税込)
ページ数:24P
サイズ:148 × 210mm


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作家名:Muziik(栃木県宇都宮市)

栃木県宇都宮市在住。2019年から路上での占いを開始。現在は趣味で描いていたイラストやコラージュを組み合わせて、占いやスピリチュアルにまつわる zine を制作している。

https://www.instagram.com/muziik7339
https://twitter.com/muziik7339

【 街の魅力 】
ほどほどに都会に近く、ほどほどに田舎。
【 街のオススメ 】
① 宇都宮美術館 … 地元のクラフト作家の作品を販売している。
② BECK … 初心者でも楽しめる Bar。気さくなお兄さんがバーテンダー。


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