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issue 16 「雨音とシューゲイザー」 by ivy

雨が好きな子どもだった。

私が小さい頃、水溜りをじゃぶんと踏んで、よく母親に怒られたし、天気予報で次の雨の日はいつかをいちいちチェックしていた。

やがてファッションを気にするようになってから、雨が嫌いになったけれど、雨の日、窓をほんの少しだけ開けて音を聞いているのがやっぱり好き。

最後に雨が好きだった中学2年生の頃、雨の日に買ったのが、『マイブラッディバレンタイン(以下マイブラ)』のアルバム、「ラブレス」。


今でも梅雨になると、しとしとと降り止まない夕立ちの中、このアルバムを雨音混じりに聴く。

全ての曲がノイズ混じりでも、わあんとした音を聴くと、雨の日の夕方のように、どこか実体のないぼんやりした景色が脳裏に浮かぶ。

所謂シューゲイザーと呼ばれるバンドの代表格にして先駆者であるマイブラだけど、彼らの特筆すべき点は、やっぱりザラついたノイズに不釣り合いなまでの甘くポップなメロディだと思う。

それはまるで、大好きな女の子の膝枕で昼寝をしているようで、雨の帰り道ではしゃいでいた幼い頃の記憶のようで、儚く、実体がなく、一時的な、且つこの上なく多幸感にあふれた記憶を呼び覚ます。

マイブラが鳴らす、雨のようなザラついた、それでいて優しいノイズの中、記憶を思い返すような甘いメロディは、過去の世界を夢に見るようで、どこまでも寛容な、包み込むような、そして決して触れられない柔らかさがある。

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子ども時代の終わりは、私にとって、雨を嫌いになることでやって来た。髪型が崩れるから、仕事道具が濡れるから、服がシワになるから、部屋がなんとなくじめじめするから。幼い頃はなかった概念で、どれも生活が変わる中で生まれた考えだと思う。

無邪気さ、本能のままな奔放さ、幼心を満たしていた雨はいつの日か、鬱陶しい、邪魔な存在になっていたのかもしれない。「ラブレス」を聴いて、懐かしいと感じるのは、他のアルバムを聴いて青春が蘇るのとは質が違う。

さて、今夜も予報は雨マーク。プレイヤーにセットしようか。
いつの間にかうたた寝をしていたら、どんな夢を見るんだろう。


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ivy(アイビー)
会社員で物書き、サブカルクソメガネ。
自己満 ZINE 製作や某 WEB メディアでのライターとしても活動。
創り手と語り手、受け手の壁をなくし、ご近所付き合いのように交流するイベント「NEIGHBORS」主催。
日々出会ったヒト・モノ・コトが持つ意味やその物語を勝手に紐解いて、タラタラと書いています。日常の中の非日常、私にとっての非常識が常識の世界、そんな出会いが溢れる毎日に、乾杯ッ!
https://www.instagram.com/ivy.bayside​

イラスト:あんずひつじ


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