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猫背で小声 season2 | 第11話 | 人生は、コメディである。
急に来たのである。
急に着たのである。
雪国のひとがドテラを着ているかのようなあたたかい幸せな気持ちが。
ある日、勤めている会社から依頼されてとあるネーミング案を提出することになった。名前を考えてほしいという依頼だ。
今までもこの会社で5件ほどコピーやネーミングを提案した実績があったけど、自分の色を出せたり、納得のいく結果にはつながっていなかった。真面目な会社だからか、いつも誰かが考えたおとなしい感じの文言が選ばれていた経緯がある。
これまたある夜、とある忘年会に参加した。
その忘年会で洋服をふと褒められた。
しかもセンスのいい女性2人から。
内心「オシャレではあるかな?」と思う節はあったのだけれど、その日に着ていたオレンジの服が褒められたことがなんだかうれしかった。服の色に逆らうかのように顔を真っ赤にし、とても照れた。
その夜は朝まで宴をした。
必要以上にはっちゃけた。
そして必要以上にウケた。
こんなあたたかい夜はなかった。
朝を迎えるまでに宴の参加者はひとりひとりと、家にオサラバしていったのだが、本格的に朝になる頃、あるひとりの優しい写真家に「さようなら」の写真を撮ってもらった。
これがまたいい写真だった。ぼくの中であの「優しい写真家」は「もっと優しい写真家」になった。
カラオケで一緒に夜を徹した彼の唄声も心に残っているし、その唄声と別れるのがつらかった。
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話は戻るが、そんな年末を過ごし、正月休みは日ごと会社から依頼のあった例のネーミング案を考えていた。
年を越して、新しいカレンダーに「こんにちわ」すれば、会社に行くことになるのだ。しかも新年初日から上司はコロナに罹りお休み。
普段はリーダーとして働いている上司の仕事を僕がひとりで行い、他部署から来ている社員の統率も任された。
激務である。
そんな中、必死に考えたネーミングが、
見事採用されたのだ。
ネーミングを考えている時、ネーミングと一緒に「ポスターはこうした方がいいのでは?」と思っていた。いままではそんなこと伝えてこなかったけれど、パークギャラリーでたくさんの絵や写真をボーッとなんとなく見てきたという経験を今回は遠慮せずに言おうと思った。
なぜか、なぜか、今回は言うべきだと思った。
ひきこもりで培ったおとなしさが邪魔して、今まで思いついたことや言いたいことを言えなかったけど、この日はなんだかその提案の場にいること自体が楽しかった。
それからは、自分でも驚くほど考え方が変わってしまった。自分の思っていることや感謝の言葉は伝えようと思ったのだ。
勇気を振り絞って伝えたポスター案も見事採用。
なんか、
なんだ、
という日々。
ある日、川柳のコンペは落ちた。
悔しいけど、ぼくはいままでも落ちてばっかりだ。
でもいつか受かるんだと言う強い気持ちを、恥ずかしがらず、嘘つかず発信していこうと思った。
言霊。
落ち続けることを人に知られてしまうのは確かに恥ずかしい。
でも落ちても、「たまに採用される」という稀有な出来事を心から喜んでくれる仲間たちがまわりにいると、ぼくは勝手に思っている。思うようにしている。
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ぼくのギャグみたいなひきこもりの人生は、コメディである。
コンペに落ちても、それもコメディだ。みんなでぼくの「落ちた」を共有することも、受かった時の喜びを共有することも、ぼくのドキュメントだ。
それは絵となり、画となり、文字となり、刻(とき)となる。そういう場所にいるから。
自分でも驚くほど気分は高まっている。高まるとまた同じくらい下がる波が来るのは重々感じてはいるが、これもぼくだ。
これが、ぼくなりの「生き方」。
そして、
コメディなのだから。
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文 : 近藤 学 | MANABU KONDO
1980年生まれ。会社員。
キャッチコピーコンペ「宣伝会議賞」2次審査通過者。
オトナシクモノシズカ だが頭の中で考えていることは雄弁である。
雄弁、多弁、早弁、こんな人になりたい。
https://twitter.com/manyabuchan00
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絵 : 村田遼太郎 | RYOTARO MURATA
北海道東川町出身。 奈良県の短大を卒業後、地元北海道で本格的に制作活動を開始。これまでに様々な展示に出展。生活にそっと寄り添うような絵を描いていきたいです。
https://www.instagram.com/ryoutaromurata_one/
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