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【 レビューあり 】 奈良都民 『はじめてのおんまつり』 東京都

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ZINE REVIEW by 加藤 淳也(PARK GALLERY)

47都道府県という切り口が特徴的な COLLECTIVE 。レビューや会場でも時々『地域性』について触れているけれど、やはり、その町で暮らしているからこそ生まれた ZINE が読めるのはおもしろい。過去4回の開催で特に印象だったのは大分の日田市のスナックの夜を切り取った『男の詩』。移住者の視点で秋田の魅力を切り取った写真家と編集者のユニット『ユカリロ』

地域性は何も地方だけに限らない。東京の浅草(地元)の好きなところを集めたヤグチリコさんの『アサクサジン』は即ソールドアウトだった。

商店会や行政が発行するフリーペーパー、もしくは冊子というのはよくもわるくも「平等」かつ「事細かく」載せる必要がある。「みんながいいと思えるもの」を目指すと、情報も見出しもデザインも淘汰される。平均化されてしまった雑誌は平均的な人にしか届かない。その点 ZINE として作られた地域情報誌は、たくさんの人に届かないかもしれないけれど、その人の思いが詰まったコアでパーソナルなもの。大切にしたいという気持ちが乗っている。それをたまたま手にした時の、感動の具合や記憶の定着率はケタ違いだ。その地域を愛する人たちによる『地域ZINE』というジャンルが、もっと広まるといいと思ってる。

例えば今回紹介する奈良都民さんによる ZINE『はじめてのおんまつり』も『地域ZINE』にあたいする。奈良で900年以上続いている伝統的な『若宮おん祭り』の体験記を絵本にしたもの。普段はデザイナーを本職にしている奈良都民さんが「趣味で本気を出してきた」というレベルの蛇腹の絵巻製本、印刷のクオリティは圧巻(紙の色で昼と夜を表現してるのがすごい)。片手におさまる小ささながらも、会場ではひときわ重厚感を漂わせている。

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奈良都民さんの体験記としながら、案内人となる主人公は3人のかわいらしい小さな妖精たち。子どものような純粋な視点を帯びながら、まるで時空が歪んでしまったかのような錯覚。妖精の立場で描くことで、実際の祭事を、よりファンタジーに描いているのがポイントといえる。いや、実際に参加してみると、まるで自分たちが妖精にでもなってしまったかのような体感があるのかもしれない。キャラクターはゆるいのにしっかりと説得力がある。

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ネタバラシではないけれど、奈良都民さんは実は奈良県民ではない。本人の言葉を借りれば「奈良県限定発売商品のデザインコンペ優勝をきっかけに2012年より奈良通いを始めた東京在住のグラフィックデザイナー」だ。

住んでいるならまだしも、通って生まれた縁や愛着で、ここまでの1冊を作ってしまうのだから、すばらしい。『地域ZINE』というのは、行政や自治体が管理する予算やコスト、スケジュールさえも度外視してしまう強さもある。中途半端な写真やカタログで見せられても『おん祭り』に行きたいとは思っていないと思う。ぼくら観光客は、誰かが損得考えずに描きたくてウズウズして描いてしまった『おん祭り』に、行きたいのだ。

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地域活性化にデザインの要素が取り入れられて成功している例は結構増えてきた。だから今度は、地域ZINEが、もっと社会や地域をつなぐ役割を担う時代が来るといいなと、奈良都民さんの活動を見ながら思った。

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奈良の歴史と文化シリーズでもっと見ていきたいと思いました。
今後もたのしみ。

レビュー:PARK GALLERY 加藤 淳也


---- 以下 ZINE の詳細と街のこと ----


【 この ZINE について 】

奈良 春日大社には、900年近く昔より現在まで続く「若宮おん祭り」という祭祀があります。数年前に初めて見て受けた衝撃や印象を奈良都民オリジナルキャラクター「ちいさいひとたち」に託してジャバラの絵本に仕立てました。

価格:¥1200(税込)
ページ数:18P(ジャバラ折)
サイズ: 100 × 148mm


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作家名:奈良都民(東京都大田区)

1978年東京都生まれ・在住。
2012年 大和茶「と、わ」デザインコンペ最優秀賞受賞。以降、奈良にまつわる作品を制作、奈良・大阪にてグループ展に参加。

奈良県限定発売商品のデザインコンペ優勝をきっかけに2012年より奈良通いを始めた東京在住のグラフィックデザイナー。偶々縁ができた町への愛着を形にして、展示に出したりネットのお店で販売したりしております。

https://www.instagram.com/naratomin
https://twitter.com/naratomin


【 街のオススメ 】
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