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8人の絵描きによるグループ展 『TARP』 について

PARK GALLERY で開催中のグループエキシビジョン『TARP』。 絵を描く以前に、<絵を見ること> が好きだった、ルイゾナ さんと、半袖 さんが意気投合し、自分たちでも絵を描いて展示をしてみたい、と思うようになったのがきっかけ。

2人の展示をたまたま見に来ていたイラストレーターの 海老沢竜 さん、そして漫画家としても活動する春日井さゆり さん、佐賀在住で日本画家の一面も持つ 中村美和子 さんがのちに集まり、昨年、5人の絵描きによる1冊の ZINE『 TARP 』が完成。同年11月、PARK GALLERY にて ZINE『TARP』の原画展が開催されると、正体不明(失礼!)とも言える個性あふれる5人の展示は反響を集めました。

雨風や日差しを防ぐための布という意味を持つ TARP 。キャリアも実績も肩書きも問わない、5人の作家の集まりは、TARP のようにやさしく、やわらかく、居心地がよかったのを覚えています。

売れるとか、有名とかそういうのはたいして重要じゃなくて、好きだからやってみる、とか、わからないけれどなんか好き、とか、本来アートを楽しむのって、そのくらいでいいんだよなっていうのを思い出しました。

半年という短いような長いような歳月を経て、自由なのびのびとしたドローイングやペインティングが印象的な 生きるのだ さん、美術家として活動する 霜田哲也 さん、独特なタッチと世界観で人気を博している ワカヤマリダヲ さんの3人が新たにくわわり、現在、TARP #2 がパークギャラリーで開催されています。

ジャンルもスタイルも違う作家が8人も集まるとだいたい均衡がとれなくなってしまうものだけれど、この『TARP』のもとでは、あまりそういうことは関係ないみたいで、約 100点(すごい!)におよぶ作品数でも、調和がとれた空間でゆっくりじっくり作品を満喫することができます。

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とはいえそれぞれの作品はおとなしく並んでるわけではなく、しっかりと世界観や物語をちゃんと主張していて(暴れてます)、背景をじっくり想像すれば現代アートのような質感を楽しむことができるし、それぞれにちゃんとユーモアがあるので、アートと気構えずとも気軽に楽しむこともできます。むしろ気軽に楽しんでほしい。同じ TARP の下に覆われたと思って、どうぞ気軽に。

というわけで、誰よりも気軽に、それぞれの作品の中から好きなものを選んでみました。


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自分の内側から見た世界と、客観的に見た世界を両合わせにして串刺しにしている、生きるのださんの作品。真ん中の女性のようなシルエットがマリア像にも見えたり、見る人の想像力を膨らませます。プリミティブなエネルギーがすごい!生きるのだ!

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領収書の裏をキャンバスにしてるひとって世界中見渡しても海老沢さんだけじゃないでしょうか。よく見ると表面の領収書が透けて見えます。いろいろなものに値段がつけられてしまう消費社会への警鐘か!と思ったら、深い意味はなく、一番鉛筆のすべりがいいんですよね、とのこと。真意はいかに!

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春日井さんの作品は、A と B のあいだというか、行為と結果のあいだを描いていて、見ているだけでどれも気持ちがいいから1番を選べないなあと思ったんだけれど、スイッチを押したあとと、部屋に電気がつくあいだを描いたこれが好き。(物理的なもののあいだではなく『話の途中』を描いた公衆電話と迷った!)。余計な考え事をさせたくない、誰のものでもなく、ただただそのものでありたいという春日井さんの思いを聞いて納得。

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霜田さんが今回徹底的に描いてるのが『割れた壁』シリーズ。誰か、何者かが突き破った壁が様々な世界観で描かれています。中でも、色の配色、角度などで好きだなと思ったのがこれ。SF の世界のような、でもどこか懐かしい(子どもの頃に遊んだ巨大迷路の記憶? もしくはトムとジェリー?)。「迷路は突き破ればショートカットできる」というシンプルな欲求を満たしてくれる感じもあり。自分の好きな色の配色を見つけるのも楽しい。

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全体をとらえて、その景色を構成する要素を見つけ出し、それを最低限の線や塗りで表現する中村美和子さん。『たてもの』と題された作品の、このワンシーンが好きなのは「どこかで見たことあるはず」と思えるところ。さんぽをしてると、よくこういう景色に出会う。ちょっとした何気ない瞬間も、切り取ることで特別なものにしてしまう、『絵描き』だけが使える魔法みたいなものをしっかりと実現してくれる作家さんです。ほかのもぜひ会場で。

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体操選手の一連の演技を6コマで描いた半袖さんの作品。音のないモノクロームの映画を見てるような、緊張と緩和の連続が気持ちいい。絵自体が浮かんでしまいそうな、光の描写と空気感も。その中でもファーストカットのこのシーンをベストに選びました。主人公の女の子よりも、まわりにいるひとたちの質感がたまらなくいいんですよね。好きだから描く、好きなものを描く、というシンプルな欲求が伝わってくるフェティシズムな1枚。

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今回の主宰者でもあるルイゾナさん。ヒップホップが好きというだけあって、サンプリングの手法で絵のモチーフを決めているそう。今回は昔の漫画のワンシーンを切り貼りして、まずコラージュを作って、それをトレースして描いたというシリーズ。断片的に現れる景色からは1つの物語を読みとることもできるし、夢の中のように(悪夢かも)、つながりなく飛んでしまう世界を楽しむように見るのもいいなと思います。ルイゾナさんの中に垣間見えるちょっとした暴力性みたいなのが好きで、これを選びました。

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さいごに、ワカヤマリダヲさんの作品。『オズの魔法使い』というより、昔、映画化された『Wizard of Oz』の質感に近いのかな。『本当は怖いグリム童話』的な切り口。オズの魔法使いってそういえば少し怖かったのを思い出した。オズの魔法使いの話の流れを、キーになる6つのシーンで描いたリダヲさんの作品(6枚で1つの作品)。はじめて挑戦した鉛筆でのドローイングも注目です。リダヲさんが描く『足』がなんだか好きなんですよね。それでこの1枚を選びました。

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今回販売してるこれも足がなんか好き。


みなさんの中のそれぞれのベストも、ぜひ会場で選んでみてください。

さて、

コロナ禍で、大声で来て来てとは言えませんが、SNS では伝わらない大切なものが見ることができるのは会場だけしかないのは事実です。残り4日、ぜひ時間を作って見に来てみてください(小声)。

それにしても、

なんかやわらかいんだよね。なんかやさしいんだよな。
その正体はまだつかめていないんだけれど。
また来年、TARP #3 になれば掴めるかな。


PARK GALLERY 加藤 淳也


Group Exhibition
TARP vol.2 "STORYLINES"

2021年6月2日(水)- 6月13日(日)
13:00-20:00 / 入場無料 / 月火定休(祝日は営業)
PARK GALLERY(東京・末広町)
東京都千代田区外神田3-5-20
最寄駅:末広町駅・湯島駅・秋葉原駅・御茶ノ水駅(距離順)



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